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第2章「運命はいつだって『西』にある……空腹とともに」
第22話「弱いものを守ることこそが、騎士の本分」
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(UnsplashのCash Macanayaが撮影)
クルティカはそっと手元の槍柄を握りなおした。ただ握っている形から、薬指と小指でしっかりと握りこみ一瞬で穂先を相手に突きつけられるように変えたのだ。
じわり、と腰を落とし、短剣を突き付けている盗賊に狙いをつける。
「……騎士団見習いで、街道守備隊。そういう仕事もあるんですよ……」
「ふざけるな。俺の弟分はあんたの槍のせいで、両手の親指を切り落とされたぞ。もう二度と短剣を持てねえんだよ!」
「そりゃよかった。もう二度と、悪事を働くこともないな」
言いざま、クルティカは後ろに飛びさがり、間合いを取って槍柄をガッキ! と構えた。
盗賊の頭が、おもわず一歩下がる。
スキがない。クルティカの構えに、踏み込むすきが見つけられないのだ。
相手が動けないうちに、クルティカは背後の二人に叫んだ。
「ロウ、リデル、撤収だ。いくぞ!」
「ああああ、もおおお。せっかく、ここまで計画通りだったのに!」
ロウ=レイはぼやくが、さっき仔グマから受け取った銀貨を少女に返した。
「ごめんね。いろいろあって、ちょっと嘘をついちゃったの。返すから許して。ついでに、あの盗賊どもから守ってあげるね」
そう言うと、ロウは走り出した。ロウ=レイが空中を飛びレイピアを振りかざすのと、クルティカが槍柄で追剥の首領の胸を激しく突いたのは、ほぼ同時だった。
身長170タール、体重は100ロイに近いと思われる頑丈な盗賊が、穂先のない槍柄だけでふっとぶ。
クルティカの突きは、蒼天騎士団でも指折りの速さだ。そして正確に、相手の急所を突く。
「ロウ、手下どもを片付けて来い!」
「もうやってるっ!」
しゃあああっ! とロウ=レイのレイピアが走り、わたわたと逃げ出す盗賊団をつぎつぎに切り伏せていく。
盗賊の頭はわめいた。
「なにすんだ、このくそあまっ!」
「美少女と、美少女剣士を狙う男なんて、ゆるせないっ!」
男が短剣でロウ=レイに向かっていくのを、今度はクルティカの槍柄が追っていく。
が、クルティカの身体にはいつものキレがない。思うように足が動かないのだ。
ほんのわずかなズレのせいで、ロウ=レイの動きと上手くかみ合わない。
「クルティカ!? あんた遅いわよっ??」
ロウが叫ぶ。意識がそれた瞬間に、盗賊の短剣がロウの肩を裂いた。小さな肩から鮮血が噴き出す。
「くそっ!」
ようやく、クルティカの槍柄が男の喉元を貫いた。
「がは……っ!」
「とっとと失せろ!」
「よく……言うぜ。おまえら、守備隊じゃないだろうが……おまけに手下どもは、そのくそ女に先にヤラレタ……いや、一人残っていた……いいものを捕まえたみたいだぜ」
ゼイゼイ言いながらも、盗賊の頭が笑った。クルティカは槍柄を突き付けながら背後を見る。
「……あの子……」
逃げ遅れたらしい美少女が、手下の男に髪をつかまれていた。
男は髪ごと少女を引き寄せる。あまりに力を込めて引っ張っているので、少女の髪がぎりりっと音を立ててきしむのが聞こえた。
さすがに痛いのだろう、少女は表情の少ない顔をゆがめた。
「……ちっ」
クルティカは舌打ちをする。盗賊はにやにやしたまま、
「形勢逆転だな。あのガキを放してほしければ、その棒を捨てろ」
ガラリとクルティカは槍を捨てた。見ず知らずの少女だが、ほかに方法はない。
自分より弱いものを守ることこそが、騎士の本分。
クルティカ・ナジマの血管には、血液とともに騎士としての心得が流れている。
それこそが蒼天騎士なのだ。
盗賊の頭は手下に言った。
「おい、そのガキを連れて来い! どうも値打ちもんらしいぞ」
ずるずると手下が少女を引きずってくる。
肩を切り裂かれたロウ=レイは動けない。離れたところでレイピアを構え、立っているのが精いっぱいだ。
まさに絶体絶命……。
だが。
ここにすべての制約から解き放たれているものがいた。
リデル。
ただ歩くだけで井戸に落ち、枯れ井戸の底に生えていた木の枝に引っかかって跳ね返り、はずみで木を根っこごと引っこ抜く。本人は無事だったが井戸は大破、という事態をあっさりと引き起こす男。
呼吸するだけで世界を大混乱させ、小指一本も動かさずにありとあらゆる災厄を招き寄せる男。
丸パンのようなリデル・ルハラが、いきなり美少女をつかんでいる男に駆け寄り、その腰から短剣を抜いた。
「ちょっと待ってねえ、いまお兄さんが助けてあげるからね!」
そう言って、リデルが短剣を振りかざす。
このさき、何が起きるのか。クルティカは思わず目をみはった……。
クルティカはそっと手元の槍柄を握りなおした。ただ握っている形から、薬指と小指でしっかりと握りこみ一瞬で穂先を相手に突きつけられるように変えたのだ。
じわり、と腰を落とし、短剣を突き付けている盗賊に狙いをつける。
「……騎士団見習いで、街道守備隊。そういう仕事もあるんですよ……」
「ふざけるな。俺の弟分はあんたの槍のせいで、両手の親指を切り落とされたぞ。もう二度と短剣を持てねえんだよ!」
「そりゃよかった。もう二度と、悪事を働くこともないな」
言いざま、クルティカは後ろに飛びさがり、間合いを取って槍柄をガッキ! と構えた。
盗賊の頭が、おもわず一歩下がる。
スキがない。クルティカの構えに、踏み込むすきが見つけられないのだ。
相手が動けないうちに、クルティカは背後の二人に叫んだ。
「ロウ、リデル、撤収だ。いくぞ!」
「ああああ、もおおお。せっかく、ここまで計画通りだったのに!」
ロウ=レイはぼやくが、さっき仔グマから受け取った銀貨を少女に返した。
「ごめんね。いろいろあって、ちょっと嘘をついちゃったの。返すから許して。ついでに、あの盗賊どもから守ってあげるね」
そう言うと、ロウは走り出した。ロウ=レイが空中を飛びレイピアを振りかざすのと、クルティカが槍柄で追剥の首領の胸を激しく突いたのは、ほぼ同時だった。
身長170タール、体重は100ロイに近いと思われる頑丈な盗賊が、穂先のない槍柄だけでふっとぶ。
クルティカの突きは、蒼天騎士団でも指折りの速さだ。そして正確に、相手の急所を突く。
「ロウ、手下どもを片付けて来い!」
「もうやってるっ!」
しゃあああっ! とロウ=レイのレイピアが走り、わたわたと逃げ出す盗賊団をつぎつぎに切り伏せていく。
盗賊の頭はわめいた。
「なにすんだ、このくそあまっ!」
「美少女と、美少女剣士を狙う男なんて、ゆるせないっ!」
男が短剣でロウ=レイに向かっていくのを、今度はクルティカの槍柄が追っていく。
が、クルティカの身体にはいつものキレがない。思うように足が動かないのだ。
ほんのわずかなズレのせいで、ロウ=レイの動きと上手くかみ合わない。
「クルティカ!? あんた遅いわよっ??」
ロウが叫ぶ。意識がそれた瞬間に、盗賊の短剣がロウの肩を裂いた。小さな肩から鮮血が噴き出す。
「くそっ!」
ようやく、クルティカの槍柄が男の喉元を貫いた。
「がは……っ!」
「とっとと失せろ!」
「よく……言うぜ。おまえら、守備隊じゃないだろうが……おまけに手下どもは、そのくそ女に先にヤラレタ……いや、一人残っていた……いいものを捕まえたみたいだぜ」
ゼイゼイ言いながらも、盗賊の頭が笑った。クルティカは槍柄を突き付けながら背後を見る。
「……あの子……」
逃げ遅れたらしい美少女が、手下の男に髪をつかまれていた。
男は髪ごと少女を引き寄せる。あまりに力を込めて引っ張っているので、少女の髪がぎりりっと音を立ててきしむのが聞こえた。
さすがに痛いのだろう、少女は表情の少ない顔をゆがめた。
「……ちっ」
クルティカは舌打ちをする。盗賊はにやにやしたまま、
「形勢逆転だな。あのガキを放してほしければ、その棒を捨てろ」
ガラリとクルティカは槍を捨てた。見ず知らずの少女だが、ほかに方法はない。
自分より弱いものを守ることこそが、騎士の本分。
クルティカ・ナジマの血管には、血液とともに騎士としての心得が流れている。
それこそが蒼天騎士なのだ。
盗賊の頭は手下に言った。
「おい、そのガキを連れて来い! どうも値打ちもんらしいぞ」
ずるずると手下が少女を引きずってくる。
肩を切り裂かれたロウ=レイは動けない。離れたところでレイピアを構え、立っているのが精いっぱいだ。
まさに絶体絶命……。
だが。
ここにすべての制約から解き放たれているものがいた。
リデル。
ただ歩くだけで井戸に落ち、枯れ井戸の底に生えていた木の枝に引っかかって跳ね返り、はずみで木を根っこごと引っこ抜く。本人は無事だったが井戸は大破、という事態をあっさりと引き起こす男。
呼吸するだけで世界を大混乱させ、小指一本も動かさずにありとあらゆる災厄を招き寄せる男。
丸パンのようなリデル・ルハラが、いきなり美少女をつかんでいる男に駆け寄り、その腰から短剣を抜いた。
「ちょっと待ってねえ、いまお兄さんが助けてあげるからね!」
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