「おれの姫は美少女剣士、ただし『突発性・沸騰派』」 随時更新してます💛

中野 翠陽(なかの みはる)

文字の大きさ
23 / 95
第2章「運命はいつだって『西』にある……空腹とともに」

第23話「伸びしろを埋めろ」

しおりを挟む
(UnsplashのGio Bartlettが撮影)

 
「やあああっ! ……はにゃ?」

 リデルは少女をとらえている盗賊団の頭に短剣で切りかかったが、相手が悪い。男はあっさりリデルの右腕をひねり上げた。

「なんだこの、なまくら男は」
「ひゃ、は、くそううう!」

 ぶんぶんと短剣を持ったままの右手を振り回すが、男はびくともしない。身長も体重もリデルをはるかにしのぐ大男だからだ。
 男は薄くわらい、さらにひねり上げる。手にした短剣を落とすつもりなのだ。

「あひゃ、いた……いたたたっ……あっ、そうだ。僕の利き手は左だった」
「……へ?」

 全員がおもわずそう言った時、リデルの右手がひらっと短剣を放り投げた。
 空中で、左手がつかもうとする。
 しかし同時に、ぐきぃっ!! というイヤな音がして、リデルが腰から折れた。

「ひゃああああ……腰……ぎっくり……」

 男に右手をつかまれたまま、リデルがクタクタと崩れる。
 中空に浮いた短剣は放物線を描いて落ち、落ちる途中でざくりと美少女の金髪を切り裂いた。
 髪をつかんでいた男と少女をつないでいた力が、拡散する。
 いきなり自由になった美少女は、ごつんと音を立てて地面に転がった。

 リデルがかろうじて、叫ぶ。

「もう大丈夫だからね! 逃げるんだよ――うぎゃ! やめて、腰が痛いんだ。斬らないでえええ!」

 四つん這いで逃げるリデルを男が追う。が、男はどこからか飛んできた石にこめかみを割られ、血だらけになって倒れた。
 リデルが悲鳴を上げる。

「ひひゃあああ、なに、なに?」
「リデル! そのままじっとしていろ!」
「じっとしてるよ! っていうか、動けないよ! 腰が痛いもん……」

 クルティカはこの騒ぎの前にモフモフ仔グマへ投げつけた槍の穂を地面から拾いあげ、装着してから盗賊に襲いかかった。
 喉をねらい、迅雷の速さで突く。
 最初の突きはよけられた。しかしすぐさま次の突きが襲う。
 盗賊がよろめく。
 だが足元がしっかりしていなかったクルティカも、とどめを刺せなかった。

 だから――三回目の突きを出す。

 槍の切っ先が男の太い首をかすめ、血を噴き出させる。
 相手はもう、べたりと地面に座り込んで止まらない血に茫然としている。

「あ、あ、あ。何なんだ、あんたたち……まさか、ほんとに、きし……?」

 クルティカはまだ槍を構えたまま言った。

「『騎士見習い』で『街道守備隊』だよ。そういう事にしておけ。
 それより早く血止めしろ。全身に血を送り出す血管を切ってあるんだ。放っておくと、失血死するぞ」
「……くっ!」

 うめきながら、盗賊団は逃げていった。クルティカはようやく息を吐く。
 
「くそ……おれの動きも……鈍くなっている……」

 いつもより呼吸が上がってくるのが早く、おさまるのが遅い。肺へ空気が入っていかない感じだ。
 騎士の身体能力は驚異的で、とくに動きの土台となる心肺機能は常人の4倍なのだが……。
 
 「『古龍の呪詛』が、効いてきているのか……」

 つぶやいたとき、目の前に小さな仔グマが見えた。
 金茶色のモフモフ。
 敵か味方か、さっぱりわからないオッサン仔グマの黒玉のような瞳が、光っていた。

「たいしたもんだ。『老龍の呪詛』をしょってて、あの三段突きかよ。えらいもんを送ってきやがったなあ」
「……え?」

 そう言ったのと、とん、と仔グマがクルティカの額を突いたのは同時だった。
 その瞬間、視界が真っ黒になった。仔グマの低い低い声が聞こえた。

「シシドを助けてくれて、ありがとよ。ここでお前も一緒に助けてもいいんだが、どうも『妙なもの』を連れているみたいだから、やめとくわ……。
 お前の相棒はケガをしている。うちで預かるぞ。
 いいか、目が覚めたら『西の町城』へ来い。港通りの酒場、『二頭のクマ亭』だ。
 あのまんまる男は残しておく。ふたりで金を稼いで、何とか来るんだな」

 ……シシド? 
 酒場、『二頭のクマ亭』?
 おれの相棒をあずかる?

 大混乱のうちに、薄く目を開いたクルティカの目に映ったのは……なぜか、漆黒の鎧をまとった騎士の姿だった。
 あざやかな六月の風をマントのように羽織り、顔を深々とカブトのおおいで隠した筋骨隆々の偉丈夫は、目だけで笑った。

『たいしたもんだぜ、てめえの運命を、もう呑みこんだのかよ?
 だがもうちょい、伸びしろを埋めてから追いかけて来い――』

 そこでクルティカの意識が途切れた。
 すべての意味を知ったのは、昏倒から目覚めて丸パン男リデルの顔を見た時だった。
 あたりはすでに、黄金色の夕暮れになっていた。

「大変だよ、クルティカ! ロウちゃんがあの仔グマたちに連れていかれたんだ!!」
「……にとうの……くまてい……」
「なに? なんなの、その呪文。僕の知らない呪文だなあ……回復魔法?」
「いや……なんでもない……だが、リデル……」
「ん、なに?」
「おまえ……おれをふんでる……そっち、呪詛のあるほう……」
「え? あ? あああああっ! あっ、しまった! 僕も……こしが……」

 あわてて立ち上がったリデルが、腰をかばってしゃがみこむ。
 まさに、黒化がすすむクルティカの右腕の上へ……。

「あひゃあ! クルティカ、黒化ってうつらないよね!? うつらないよね!?」
「……おま……癒し手が、それいうか……」

 クルティカは再び目を閉じた。
 瞼の裏には、からっぽの草原だけがひろがった。

 運命の幼なじみは、またしてもクルティカを火だるまにしていったようだ。
 この世のすべての災厄を、小指一本で招き寄せる男とふたりで、クルティカはこの先を目指すことになった。

 行き先は、『西の町城』――。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...