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第7章 Memory~二人の記憶~
25 真名
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不安な気持ちが消えないままアレスに手を引かれて私は秘密の通路を足早に進んで行く。
その間はお互い一切言葉を発する事なく、ただただ先へと進みそして数分経った頃。
「そろそろ出口だ」
アレスの声にはっと前を見れば光が差し込んでいて、この先が外へと通じている事が分かった。
それを認識すると気が楽になる。何せここまで窮屈な狭い道をくねくねと通ってきたのだから。
この状態で贅沢な事は言っていられないが、正直狭い道は苦手なのだ。
自室で引きこもり生活を送っていた私が言える事ではないのかもしれないけれど、どうしても狭いところは嫌いで本当に不思議なものだがこれだけは譲れない。
とまあそんな事を考えている間にはもう出口の前まで辿り着いていた。そのまま外へ出るのかと思っているとその直前でアレスが急に立ち止まり、私は止まる事が出来ず勢い余ってその背中に顔からダイブしてしまった。
「わっ!」
「うおっ、大丈夫かっ」
私の体重を難なく背中で受け止めた彼は、こちらを振り返り慌てたように声を上げた。
「ええ、大丈夫よ」
私は鼻を擦り恥ずかしくなりながらも笑ってその場を切り抜けようとする。
「それよりどうしたの?急に立ち止まって」
そして誤魔化す様に話を振り、それに彼は外の方に視線を向けながら小さく呟いた。
「一瞬だったが魔力の反応を感じたんだ」
「それって魔法士……?」
「ああ、そうだな。それにあの魔力は……」
俺が良く知っている奴のだ……。そう小さく囁かれた言葉はしっかりと私の耳に届いてしまった。
そしてその時の彼の表情を私は忘れないだろう。怒った表情なのにその瞳の奥には悲しみが揺らめいたその表情を。
「とりあえずもう気配はないから出ても平気なはずだ」
私が呆然としていると直ぐに調子を取り戻したらしいアレスに、今も繋がれている手を引かれてそのまま外へと足を踏み出した。
「ここは、中庭……?」
出た先は本当の外ではなく王城の敷地内にある広々とした中庭だった。そこには地面を覆いつくす花達が天から注がれる太陽の光を受け美しく咲き乱れていた。時折吹く心地よい風が花達を揺らし花弁が舞い上がる。
その様はまるで楽園のよう。
しかも良く見てみれば、花達に紛れるようにして私の好きなダリアの花が鮮やかに咲いているのが見える。
この場所って――
「リリーシェと初めて会ったあの中庭みたいだな」
「えっ」
「綺麗だろ?ここは俺のお気に入りの場所だったんだ」
同じことを私も思っていて、一瞬考えを読まれたのかと驚いたけれどアレスに全くそんな気はないようだ。目を細めて昔の事を懐かしんでいる様子だった。
「そうね、本当に綺麗だわ」
ある意味敵国である場所に潜入しているのに危機感が足りない、とこの場にルリアーナがいたら怒られそうだけど、彼にとっては漸く帰って来られた故郷でもある。だからほんの数分だけでも懐かしむのを許してあげて欲しい。
彼にとってこの時間が最後だろうから。
「そろそろ行こうか」
「もう良いの?」
「ああ、十分だ」
お互い話をする事なく心地良い風に身を任せる事数分。徐にアレスが零したそれに私が聞き返すと、大丈夫と彼は頷きそんな彼に手を引かれながら私達は静かにその場を後にした。
そして先を急ぐように長い廊下を走っている時だった。どこからともなく声が響いたのは。
「待っていたぞ侵入者」
「……っ!」
声がした途端私達はその場で立ち止まり、アレスは素早く周囲を警戒し睨みつける。
「姿を現せよっ」
「言われずとも」
声と共に物陰から何者かが現れる。その人物はぱっと見た感じ、強そうで貫禄のある三十代から四十代と思われそうな男性。そして制服とその上からローブを羽織り、見るからに魔法士だと言う事が分かった。
彼は珍しそうにこちらを見つめた後、一瞬だけ驚いた顔を見せたが何だろうと思った時にはにやりと何かを企んでいるような表情を浮かべていた。
勘が鋭いわけではない私だがそこで気が付いてしまった。彼はもしかして……。
「やっぱりあんたか、オーガスト」
「久しいな。まさかこんな形で再会を果たすとはな」
……やっぱり二人は知り合いだったんだ。それもアレスが王宮魔法士だった時の同志なのだろう。
「アレス、あの人……」
「ああ。王宮魔法士の一人オーガスト。俺がここにいた頃の戦友だった男だ」
「ふはは。王宮魔法士最強と言われたお前にまだそんな風に言ってもらえるとは嬉しい限りだぜ。それにしてもお前、アレスなどと名乗っているのか?」
「……」
「だんまりか」
オーガストは終始楽しんでいるかのように笑みを浮かべている。それに対してアレスは怒気を含んだ正反対の瞳を彼に向ける。
二人の並々ならぬ雰囲気に鳥肌が立つ。
「そこの可愛い嬢ちゃん。こいつの本当の名前知らないのかい?」
「え?」
話を急に振られたが咄嗟に答えられなかった。するとそれを肯定と判断したのかオーガストは愉快そうに更に笑みを深める。
「その反応じゃ知らないんだな。何だよお前のハニーなんだろ?教えてやれよ」
「あんたには関係ないだろ」
「なんだよ。あの頃と変わってねえと思ったが嬢ちゃんの事になると必死なんだな。まあ良い。嬢ちゃん、教えてやるよ。そいつの本当の名前は――」
「オーガスト!!」
アレスが叫んだ瞬間彼の体から強大な魔力が溢れ、その波動がオーガスト目掛けて放たれる。それは忠告や、威嚇の意味を持ち、相手を牽制する手段で用いられる事が多く、この場面でもそういった意味で使われたのだろう。
しかし流石は王宮魔法士、それを受けても余裕な表情は崩さない。
「リリーシェ」
「アレス?」
そんな強大な魔力を一瞬の内に鎮めたアレスは私に向き直り、先程とは違う優しい声で私の名前を呼ぶ。
「こんな状況で名乗るのは本当に不本意なんだがあいつに言われるのは癪なんでな。………俺の本当の名前は、リカルド。リカルド・ローレンスだ」
「……リカルド・ローレンス」
呟かれた名前をそのまま繰り返し声に出してみると彼は頷き目を細めた。
「黙っていて悪い。これからはこの名前で呼んでくれないか」
「ええ、リカルド。貴方に合った良い名前ね」
こんな状況でって彼は言うけれど私にとってはどんな状況でも彼の本当の名前が知れて嬉しい限りだった。
「話は終わったかい?」
タイミングを見計らったかのようにオーガストが悪びれもなく話に割り込んで来た。
「ああ、あんたのせいで格好がつかなかったけどな」
「そりゃあ悪かったな。それじゃあそろそろ」
「ああ、やろうか。どうせあんたの事だ、見逃す気はないんだろ?」
「その通りだ。俺はある人から命を受けてるんだよ。お前達を捕まえて来いってな」
その人って……。
「国王陛下か……。悪いが捕まる気はないんでな。あんた相手でも容赦しない」
「おいおいお前勘違いしてるぜ?」
「何をだ」
思わせぶりな言葉にリカルドは訝し気に呟き先を促す。その視線を受けてオーガストは心底楽しそうに笑うと答えた。
「俺に命令したのは国王じゃない。俺に命令できるのはただ一人だ。昔のあの人はお前と話をする事を何よりも楽しみにしていたよな。なあリカルド、お前も良く知っているあの人だよ」
「……ま、まさか………」
そこまで聞いた瞬間リカルドの顔が青褪め、それを見た私もその人物に思い至って血の気が引いていく。
私達の様子に満足したのか、オーガストは次の瞬間衝撃の真実を口にした。
「そのまさかだ。俺に命令したのは王太子殿下、お前の古き友人でもあるエリオット殿下だよ」
その間はお互い一切言葉を発する事なく、ただただ先へと進みそして数分経った頃。
「そろそろ出口だ」
アレスの声にはっと前を見れば光が差し込んでいて、この先が外へと通じている事が分かった。
それを認識すると気が楽になる。何せここまで窮屈な狭い道をくねくねと通ってきたのだから。
この状態で贅沢な事は言っていられないが、正直狭い道は苦手なのだ。
自室で引きこもり生活を送っていた私が言える事ではないのかもしれないけれど、どうしても狭いところは嫌いで本当に不思議なものだがこれだけは譲れない。
とまあそんな事を考えている間にはもう出口の前まで辿り着いていた。そのまま外へ出るのかと思っているとその直前でアレスが急に立ち止まり、私は止まる事が出来ず勢い余ってその背中に顔からダイブしてしまった。
「わっ!」
「うおっ、大丈夫かっ」
私の体重を難なく背中で受け止めた彼は、こちらを振り返り慌てたように声を上げた。
「ええ、大丈夫よ」
私は鼻を擦り恥ずかしくなりながらも笑ってその場を切り抜けようとする。
「それよりどうしたの?急に立ち止まって」
そして誤魔化す様に話を振り、それに彼は外の方に視線を向けながら小さく呟いた。
「一瞬だったが魔力の反応を感じたんだ」
「それって魔法士……?」
「ああ、そうだな。それにあの魔力は……」
俺が良く知っている奴のだ……。そう小さく囁かれた言葉はしっかりと私の耳に届いてしまった。
そしてその時の彼の表情を私は忘れないだろう。怒った表情なのにその瞳の奥には悲しみが揺らめいたその表情を。
「とりあえずもう気配はないから出ても平気なはずだ」
私が呆然としていると直ぐに調子を取り戻したらしいアレスに、今も繋がれている手を引かれてそのまま外へと足を踏み出した。
「ここは、中庭……?」
出た先は本当の外ではなく王城の敷地内にある広々とした中庭だった。そこには地面を覆いつくす花達が天から注がれる太陽の光を受け美しく咲き乱れていた。時折吹く心地よい風が花達を揺らし花弁が舞い上がる。
その様はまるで楽園のよう。
しかも良く見てみれば、花達に紛れるようにして私の好きなダリアの花が鮮やかに咲いているのが見える。
この場所って――
「リリーシェと初めて会ったあの中庭みたいだな」
「えっ」
「綺麗だろ?ここは俺のお気に入りの場所だったんだ」
同じことを私も思っていて、一瞬考えを読まれたのかと驚いたけれどアレスに全くそんな気はないようだ。目を細めて昔の事を懐かしんでいる様子だった。
「そうね、本当に綺麗だわ」
ある意味敵国である場所に潜入しているのに危機感が足りない、とこの場にルリアーナがいたら怒られそうだけど、彼にとっては漸く帰って来られた故郷でもある。だからほんの数分だけでも懐かしむのを許してあげて欲しい。
彼にとってこの時間が最後だろうから。
「そろそろ行こうか」
「もう良いの?」
「ああ、十分だ」
お互い話をする事なく心地良い風に身を任せる事数分。徐にアレスが零したそれに私が聞き返すと、大丈夫と彼は頷きそんな彼に手を引かれながら私達は静かにその場を後にした。
そして先を急ぐように長い廊下を走っている時だった。どこからともなく声が響いたのは。
「待っていたぞ侵入者」
「……っ!」
声がした途端私達はその場で立ち止まり、アレスは素早く周囲を警戒し睨みつける。
「姿を現せよっ」
「言われずとも」
声と共に物陰から何者かが現れる。その人物はぱっと見た感じ、強そうで貫禄のある三十代から四十代と思われそうな男性。そして制服とその上からローブを羽織り、見るからに魔法士だと言う事が分かった。
彼は珍しそうにこちらを見つめた後、一瞬だけ驚いた顔を見せたが何だろうと思った時にはにやりと何かを企んでいるような表情を浮かべていた。
勘が鋭いわけではない私だがそこで気が付いてしまった。彼はもしかして……。
「やっぱりあんたか、オーガスト」
「久しいな。まさかこんな形で再会を果たすとはな」
……やっぱり二人は知り合いだったんだ。それもアレスが王宮魔法士だった時の同志なのだろう。
「アレス、あの人……」
「ああ。王宮魔法士の一人オーガスト。俺がここにいた頃の戦友だった男だ」
「ふはは。王宮魔法士最強と言われたお前にまだそんな風に言ってもらえるとは嬉しい限りだぜ。それにしてもお前、アレスなどと名乗っているのか?」
「……」
「だんまりか」
オーガストは終始楽しんでいるかのように笑みを浮かべている。それに対してアレスは怒気を含んだ正反対の瞳を彼に向ける。
二人の並々ならぬ雰囲気に鳥肌が立つ。
「そこの可愛い嬢ちゃん。こいつの本当の名前知らないのかい?」
「え?」
話を急に振られたが咄嗟に答えられなかった。するとそれを肯定と判断したのかオーガストは愉快そうに更に笑みを深める。
「その反応じゃ知らないんだな。何だよお前のハニーなんだろ?教えてやれよ」
「あんたには関係ないだろ」
「なんだよ。あの頃と変わってねえと思ったが嬢ちゃんの事になると必死なんだな。まあ良い。嬢ちゃん、教えてやるよ。そいつの本当の名前は――」
「オーガスト!!」
アレスが叫んだ瞬間彼の体から強大な魔力が溢れ、その波動がオーガスト目掛けて放たれる。それは忠告や、威嚇の意味を持ち、相手を牽制する手段で用いられる事が多く、この場面でもそういった意味で使われたのだろう。
しかし流石は王宮魔法士、それを受けても余裕な表情は崩さない。
「リリーシェ」
「アレス?」
そんな強大な魔力を一瞬の内に鎮めたアレスは私に向き直り、先程とは違う優しい声で私の名前を呼ぶ。
「こんな状況で名乗るのは本当に不本意なんだがあいつに言われるのは癪なんでな。………俺の本当の名前は、リカルド。リカルド・ローレンスだ」
「……リカルド・ローレンス」
呟かれた名前をそのまま繰り返し声に出してみると彼は頷き目を細めた。
「黙っていて悪い。これからはこの名前で呼んでくれないか」
「ええ、リカルド。貴方に合った良い名前ね」
こんな状況でって彼は言うけれど私にとってはどんな状況でも彼の本当の名前が知れて嬉しい限りだった。
「話は終わったかい?」
タイミングを見計らったかのようにオーガストが悪びれもなく話に割り込んで来た。
「ああ、あんたのせいで格好がつかなかったけどな」
「そりゃあ悪かったな。それじゃあそろそろ」
「ああ、やろうか。どうせあんたの事だ、見逃す気はないんだろ?」
「その通りだ。俺はある人から命を受けてるんだよ。お前達を捕まえて来いってな」
その人って……。
「国王陛下か……。悪いが捕まる気はないんでな。あんた相手でも容赦しない」
「おいおいお前勘違いしてるぜ?」
「何をだ」
思わせぶりな言葉にリカルドは訝し気に呟き先を促す。その視線を受けてオーガストは心底楽しそうに笑うと答えた。
「俺に命令したのは国王じゃない。俺に命令できるのはただ一人だ。昔のあの人はお前と話をする事を何よりも楽しみにしていたよな。なあリカルド、お前も良く知っているあの人だよ」
「……ま、まさか………」
そこまで聞いた瞬間リカルドの顔が青褪め、それを見た私もその人物に思い至って血の気が引いていく。
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