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第9章 愁いのロストフラグメント

13 接戦

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「この状況下で二手に分かれるなんて馬鹿なんじゃないか~?」

少年は馬鹿にしたように言い、その手がこちらに向けられ、

「スコール」

次いで短く唱えられる呪文。すると彼の身体から溢れ出ていた大量の魔力が具現化されていき、それは塊となって私達へ襲い掛かってきた。
発動したのは風魔法のかまいたち。スピードに特化した攻撃魔法であり、しかも使用者の魔力量によって、殺傷能力が高くなる可能性もある危険な魔法だ。

「「シールドッ!!」」

攻撃迫る中、私とルカは目配せすると直ぐに呪文を唱えて防御魔法を発動させる。同時に発動した防御魔法は二重の壁を形成させ、その分耐久力が格段と高くなっている。

そして魔法発動直後、私達の作り出した二重のシールドと、彼の放ったかまいたちが大きな音を立てて衝突する。
二重で防御力を強化しているが、それでもやはり彼の魔法の威力は凄まじかった。シールドで攻撃を防いでると言うのに、その風の威力に少しでも気を抜いてしまえば体が浮きそうな勢いだ。
両腕だけでなく地に着く足にも力を入れ、今は何とか踏ん張るしかない。

「……くっ」

「…エル様っ!」

隣で私の名前を呼ぶルカでさえも、顔色に余裕がなさそうだった。

受けているのが本当に風魔法なのかと、疑問に思う程攻撃が重い。それに二人掛かりにも拘わらず私達の方が圧されている事に、シュレーデルでも感じた魔族の圧倒的な力とその差を改めて実感させられた。

「やるね~。俺の攻撃受けてまだ耐えているなんて。――まあ人間にしては、だけど」

挑発とも言える発言。私達を――人間を完全に見下している。

レヴィ君の件もあるけれど、それを抜きにしても彼の態度には怒りが込み上げてくる。

…お口にチャック、なんて良く言うけれど、今すぐにでもそうしてあげたいよ。
と思うが攻撃を防ぐだけで精一杯の私には反撃の余地がなく、時間が経過すればする程、更に心が高ぶり可笑しくなりそうだし、その事に驚いてもいた。
普段本気で怒るなんてしたことがないのに、今こんなにも激昂していると言う事に。

しかし怒りに任せたところでこの現状を覆らせるのは難しい。
それに今は相手の攻撃をどうにかしない事には何も反撃も出来ないし、二重シールドとはいえ、そう長くは持たないだろう。

何とかして相手の隙を一瞬でも作れれば……こうなったらもう無理にでも行くしかない!

そう思った私が意を決して動こうとしたその時。

「……なっ!」

突如驚愕したような声が少年から発せられる。突然の事に怪訝に思うが次の瞬間、今度は私達の方が驚く番だった。

あれだけ防御が苦しかった攻撃が止まった――いや、消えたと言った方が正しいか。発動していた魔法が四散したように急に消失したのだ。
一瞬の出来事に何が起こったのか理解が追い付かない。私は疑問に思いながらも少年に視線を戻すと、彼は先程までの自信たっぷりだった表情を一変させ、目を見開き驚いた顔で呆然としていた。

何が起こったの?と思い返して、しかし直ぐに私ははっとする。

そう言えば魔法が消失する直前、光線のような光を見た気がしたのだ。それに良く考えてみれば一人いる。この状況であんな真似が出来る人物が――。
その人物に思い至ったところで見計らったかのように声が響いた。

「大丈夫エルちゃん?それにルカも、怪我はないかしら?」

思い描いていた人物の声に私は溜めていた息を一気に外に吐き出した。

「……ウル」

声と共に守護精霊でもあるウルティナが私の前にその姿を現した。
現れる前にルカに対して問いかけている節があった為、恐らく今のルカにも私と同じ景色が見えているのだろうと察した。

「ウルティナ様っ」

そして彼女の名前を呼んだルカの様子にそれは間違いないと確信に至る。

――が、気になる事が一つ。

「ウル……ですよね?何だかいつもより、その、姿が違うような……?」

いつもなら五歳くらいの幼女姿で登場をするウル。しかし今はその見た目が少し…いや、かなり異なっていた。見た目がかなりの成長を遂げていて、私と同じくらいに身長が伸びていたのだった。

「ああ、この姿ね。ごめんなさいね、急にこんな姿で出てきてしまって。流石に驚いたわよね」

眉を下げて苦笑いを浮かべるウル。

彼女の言う通り驚いた。結構驚いた。
それに今までこんな事なかったし。


精霊は年齢関係なく様々な姿をしており、幼い容姿をしていても実は長い年月を過ごしている上位精霊であったり、屈強な男性の姿をしていても本当は生まれたてだった、と言う場合もあり精霊によって様々だ。それに確かに精霊はその姿を自由に変化させることも可能なようだった。

だから言ってしまえばウルの姿が急に成長を遂げていてもおかしくはない。ただ自分の良く知った相手がいつもと違う容姿をしていたら、やはり少なからず驚いてしまうのも無理ない。

実際私だけではなくルカも同じ反応をしていたし。

「いつも以上に力を使わないとあの子には勝てそうになかったから、ちょっと力を使う為に姿を変えたのよ」

力を使う為にって……それっていつもの幼女体型が仮の姿で、元の姿?に戻るとフルパワーを出せるって事…?
上位精霊であるウルの力は幼女体型時でも相当に強いと思うけど、本来はその倍の力を使えるって事?
それは何と言うか……規格外的な……。

「今の姿がウル本来の姿って事ですか?」

「正確には違うわ。本来は二十歳くらいの女性の姿なの。だから今はまだ仮の姿という事になるわね」

二十歳くらいの女性、か。正直言って気になるし、今以上に神々しいだろうなと簡単に想像もつく。

「では何故本来の姿に戻らないのです?何か制限があるのでしょうか?」

静観をしていたルカが横から口を挟む。彼も私と同じくそれなりに気になっていたようだ。ウルはぱちぱちと音がしそうな程長い睫毛を数回瞬かせると、徐にフワッとした笑みをつくる。

「私を縛るような制限は特にないわ。私が個人的に元の姿にはあまり戻りたくないってだけよ。
――っと、その話は後でにした方が良いみたいね」

二人とも気を付けて――そう言い彼女は会話を中断させると、そのたたえていた笑みを消しさり、鋭い視線を一点に向けた。

「全く。シュレーデルでも思ったけど、本当に面倒な存在だな。精霊ってやつは……」

少年が低い声で呟く。そして自身の魔法が突如として消えた理由、その元凶がウルであるという事を分かっている様子で、彼女の事を目障りだとでも言いたげにじっと見つめていた。

瘴気をばら撒く魔族と、それを浄化する力を持つ精霊。まさに光と影の関係。そんな二人がお互いを相容れないと思うのは当然の事だ。

「攻撃が来るわ!エルちゃんっ!」

「はいっ」

ウルの指摘に瞬時に思考を切り替えると、彼女の言った通り、既に少年が臨戦態勢に入っているのが見えた。

攻撃が来る――!

先程は相手動きの方が一手早く、咄嗟の事で二人掛かりでそれを防御する羽目となってしまったが、攻撃が来ると分かれば、今度は相手よりも先に防御魔法を展開させるだけだ。更に強固な防御魔法で応戦する余裕もある。

「ルカ!」

もう一度お願いします、とだけルカに告げる。それに対してルカは無言で首を縦に振って応えた。
良く言われているけれど、ルカ曰く、私のやろうとしている行動は手に取るように分かるのだとか。エスパー通り越して少し怖いけど、それが今は有難かった。

そして私達は両手を前に次ぎ出すと同時に呪文を唱える。

「「プロテクション」」

シールドよりも強い防御力のあるプロテクション。発動までに余裕があったのも幸いし、余すことなく魔力を使えている。
これなら一人でも少しの間はもつだろうが、生憎と今は一人ではない。
先程のシールドと同じように壁を二重にし、強度を倍にする。そうすればかなりの時間を稼げるはずだ。

欲を言えば、相手の魔法攻撃をそっくりそのまま返す反射魔法、リフレクションで対抗するのが一番得策なのだが、今の私達では難しかった。
この魔法は強力だが、自分より格下或いは同等の魔法に対してのみ使用可能で、今回のような魔族が扱う、自分よりも格上の魔法には使用出来ないのだ。強力故に欠点もある。便利だけではないのが魔法と言うものだ。

「ファイアー・キャノン」

そうこうしている内に少年の口から紡がれる呪文。先程の風魔法とは打って変わり火系の攻撃魔法だ。
具現化させた火の玉で攻撃をする魔法だが、具現化して現れたそれに私は目を丸くする。火の玉なんて生易しいものではなく、最早火の塊といってもいいくらいの大きさに、軽く百はあるのではないかと思われるくらいの数の多さ。掌よりも――いや、私の頭以上の大きさがあるだろうか。下手してあんなのに当たってしまったら、軽い軽傷程度では済まないだろう。

その圧倒的な光景に気圧されかけるが、呆けている場合ではないと気を引き締める。直後、宙に浮かんでいた火の塊がこちらに向かって一斉に襲い掛かってきた。
既に防御魔法を発動させている為負傷はないが、一つ一つの威力が大きく、防御シールドに当たる度に手にジンとした痺れが伴う。それに何と言ってもこの数多さ。防御シールドを強化しているからとは言え防ぎきれるか、少しばかり不安が残る。
そして私とルカは防御に専念している為、またしても攻撃まで手が回らない。
だからその役目は唯一自由に動ける彼女に任せるしかない。隙が出来るまでの間だけでも――。

「二人共、少しの間だけ踏ん張って頂戴!」

タイミングを見計らっていたのだろう、私達の後ろで様子を伺っていたウルが動いた。ふわりとその身体を宙に浮かせ前へと躍り出る。

私達に一言声をかけると未だ攻撃を続ける少年の方へと上空から近づいていく。そしてウルの攻撃が届く範囲まで近づいたのか、上空でぴたりと止まると小さな両の掌を下に向けて突き出した。
すると彼女の前に光り輝く球体が現れ、一つ出現したかと思えば次の瞬間にはその数が百以上と、まるで分裂でもしたかのように増えていく。
圧巻な数が現れ、そして最後に彼女が軽く手を振ると、その百以上もの球体が一斉に放たれた。球体自体は綺麗に見えるが、あれも十中八九当たったらただでは済まないものだ。
それにあの光の球体には恐らく浄化の効果も含まれている。浄化の力は魔族にとっては毒となる。

しかし相手も並外れた力を持つ魔族。
自身の頭上から飛来する攻撃を一早く察知し、防御魔法は使用せず己の身体能力だけで激しい攻撃を交わしていった。しかも私達への攻撃は止むことなく器用に立ち回っており、ウルのお陰で多少威力が落ちているものの、それでも中々隙は生まれない。

「中々やるわね。じゃあこれはどうかしら?」

器用に立ち回る少年と私達の様子を鑑みて、ウルは更に次の一手を講じる。

彼女は片方の手を横へゆっくりとスライドさせた。すると今度はその場に矢の形を模したものが具現化され、瞬き一つの間にその数を大幅に増やしていく。それはまさしく光の矢だった。

「今度はもっと早いわよ」

そう言って彼女がまた軽く手を振る。その動きに合わせるように数多の光の矢が雨のように地上へ降り注いだ。しかも形が変わったからなのか、彼女の言うように球体よりも矢の動きは早く、身体能力だけで交わしていた少年も流石に難しいと悟ったのか、防御魔法を使用し応戦していた。

『エルちゃん、ルカ、二人共聞こえる?
もう直ぐにでも攻撃が止まると思うわ。そうしたら魔法で応戦をお願いね』

少年が圧され始めたのを見て、改めて精霊の凄さを実感していたそんな折に彼女からの声が頭に響いた。

『分かりました!』

『お任せください』

気を取り直してそう返すと、続いてルカも冷静に返事を返していた。その精霊との秘密の会話にも動じないルカに流石だ、と思わず感心してしまったのだった。


その後、本当に彼女の予言通り、数分もしない内に攻撃が止まる。
とは言え一時的なもので、体制を立て直したらまた直ぐにでも攻撃が再開されるだろう。

しかし今が好機だ。ウルの作ってくれた絶好のチャンスを逃すわけには行かなかった。

「ルカッ、私が相手の足を止めます」

「分かりました。では僕はその隙に攻撃を仕掛けます」

お互い今の会話だけでやるべき事を把握する。そして時間を無駄にしないよう私も直ぐ行動を開始した。

連携での攻撃。
相手の隙を作るのは何かと魔力が有り余っている私が適任。そして攻撃は魔法の際に秀でた、私の師匠でもあるルカが適任。
そして私の最初の一手が重要だ。失敗は許されない。

慌てず焦らず、でも素早く自身の中の魔力を体全体に流していき、体全体に魔力が行き届くのを感じると両手をばっと前に突き出した。

「ウォーターストリームッ!!」

叫ぶように唱えた呪文。それに応えるようにして、何処からともなく大量の水が生成され、それは大きな波となり少年へと襲い掛かった。

水魔法、ウォーターストリームは水で相手の動きを封じたり、体制を崩す為に使用する事が多い。
まあ今回はそれとは少し違った使用をするのだが……。

「何だ、この程度でどうにかできるとでも思ったか?」

自身に襲い掛かった津波を少年は魔法は使用せず、片手を振り払い軽くあしらう。
攻撃力がないと思ったのか、身体が濡れるのも気にする様子はなく――。


――ルカ、お願いします!

そう思いながら少し離れた位置にいるルカへ目配せで合図を送る。それに了解と頷き、既に準備を終えていたらしい優秀な従者は口を開き呪文を唱えた。

「ライトニングボルト、アクティベートッ!」

唱えると同時に、彼は私の魔法により生み出した波に向かって手を向ける。するとそこへ黄色い光が走り、それが水へと触れる。その瞬間ビリビリと大きな音を立ててその光が迸った。

ルカが使用したのは上位魔法に分類される、雷の魔法。
自発的に電気――雷を発生させるものであり、その後続けて唱えられたのは魔法の威力を底上げする為の強化魔法。その組み合わせだ。
上位魔法だけあってそれだけで強力な魔法となりえるが、そこに強化魔法を付与する事により、その数倍の威力を発揮するのだ。

タイミングは完璧。お互いの発動させた魔法が上手く合わさった。

水と電気。この二つで電気ショックを起こすのが目的だ。
普通に考えれば命を落とす可能性もある危険な行為だけど、相手が魔族となれば話は別。これくらいしなければ効かないだろう。
現に力を半分以上開放しているウル相手に、ある意味互角だったのだから。


ルカの放った攻撃が迫り、そこでようやく気が付いたのか、余裕を見せていた少年は表情を一変させるとその目を大きく見開いた。
気づいて直ぐに防御魔法を発動しようとするが、私達の攻撃の方が一足早かった。

水が滴る少年のその身体に容赦ない雷が飛来する。

耳をつんざくような音が轟き、衝撃の大きさを物語っていた。
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