幸せな人生を目指して

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第9章 愁いのロストフラグメント

14 表と裏…ルドルフside

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選択を間違えた。それに気づいた時後悔が押し寄せた。……いや、今でも後悔している。


自分は侯爵家の跡取りとして、そして騎士としても努力を惜しんだ事はなかった。
騎士になるのだと幼い頃から言われていた自分は、疑問に思う事もなく、だたただ言われた通り訓練や鍛錬を重ね、その結果気づけば王国騎士団副団長という地位に就いていた。

大きな失敗も特になく、順調な道のりだったと言える。自分自身、騎士になる事に抵抗もあまりなかったのだ。


けれど弟はそうではなかった。

七つ年の離れた弟のレヴィは、淡々と鍛錬を続ける自分とは違い、幼い頃から騎士になる事を強要される事に疑問を抱いていた。
そして突然騎士ではなく魔法士になると言い出した。その発言には父と母は驚き、自分も思わず耳を疑った。

今思えばこれがきっかけだったのかもしれない。レヴィに対して周りの態度が変わっていったのは。

自分に反抗した愚か者だと、始めの内は激しく怒りを見せていた父も、徐々にレヴィに関わる事を止め、必要最低限の会話しかしなくなった。それは母と屋敷の使用人達にも同じ事が言え、自分に対する態度とレヴィに対する態度は誰がどう見てもあからさまだっただろう。

このままではレヴィが捨てられてしまう――。
子供ながらにそんな事を考え、結局は何も出来なかったのだが、それでも密かに自分は弟の事を心配していた。
しかしその心配は杞憂に終わる。
周りの態度は良くも悪くも変わらないが、レヴィが家を追いやられる事はなかったのだ。その事に内心ほっとした自分がいる。

だが安心したと同時に自分の中に一つの疑問が生まれる。
その安堵は純粋に弟の身を案じてのものだったのか、と。それだけでなく、もっと汚い感情があったように思えてならない。

弟が冷遇されている事を本当は――――喜んでいた……?

なんて事を考えてしまったんだ、とそう思ったが同時に俺はある事に気付いてしまった。

無意識に自分は弟に嫉妬していた――。醜い感情を向けていた――という事に。




自分でどう思っていたのか分からないが、レヴィは俺にはない才能があった。
それは幼い頃から俺と同じように受けさせられていた剣術。父や母は何も言わなかったが、正直レヴィは俺より剣術に優れていた。

そして剣だけでなく魔法の才も持ち合わせており、保有している魔力の多さに驚いた。

魔法士という選択肢がなかった俺は魔法はほとんど使えないし、魔法云々は良く分からない。
それでも後に、魔法学院へ通うようになるレヴィの活躍を人伝に聞いて、魔法の才が人よりもずば抜けているという事を知った。

普通は自分の弟が才能溢れ、学院で力を認められたのなら素直に喜ぶべき事だ。自慢だと。それなのに素直に喜べない自分も確かに存在した。

そして今の俺があるのはただの偶然で、もしも俺とレヴィの立場が逆だったら冷遇されていたのは俺の方で、弟は大層な優遇をされていたのではないか?とか。

そんな事を余計なことまで考えてしまう。

別に比べられたわけではない。周りに羨ましがられる事はあっても、疎まれたりした事もない。
寧ろ比べられて嫌な思いをしていたのは弟の方なのだ。

環境にも恵まれているくせに、どうして俺はそんな事ばかり考えてしまうんだ。

そんな事ばかり考えているから、レヴィが俺に対して余所余所しい態度を取るようになったんだ。
屋敷で会った時に余所余所しくも話しかけてきてくれるレヴィ。時折周りの目を気にする素振りを見せるものの、年相応の子供みたいに楽しそうに話す。

特に話を聞いているとエルシアという女の子が良く出てくる。レヴィは彼女の話をする時、特に楽しそうな顔をするのだ。
その様子から、ああ、彼女には心を開いているんだな、と直ぐに分かった。

そして最悪な事に、俺の中にまた暗い感情が芽生える。


直接言葉にしなくとも、レヴィは気付いていたのかもしれない。そんな酷い事を俺が思っていたと。

だからあの日の出来事はなるべくして起こったのかもしれない。

レヴィが行方不明になる少し前。

レヴィは普段俺に乱暴な口を利かない。そんな弟があの日、今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように、罵詈雑言を俺にぶつけた。
驚いた。弟の抱えていた思いや、兄である自分をどう思っていたのか、とか。
無茶苦茶に言われて、罵倒されてようやく知った。そして胸が張り裂けそうになった。ずっと一人、そんな事を考えていたなんて。自分の事ばかりだった俺には気付かなかった。
それに言い終わった後、言ったことを後悔したように悲しく歪められた顔も。あんな顔初めて見た。

最悪だ。

弟にあんな思いさせてしまった俺自身に。良く見れば寂しそうにしていた事に気づいていたのに、壁をつくって距離を置いた俺自身に。ちゃんと見ていると思い込んで、本当はレヴィの事何も見れていなかった事に、今更凄く腹が立った。

情けなくて、不甲斐なくて、こんな自分が嫌いだ。
あいつの兄貴失格だ。


一方的に暴言を吐かれた後、行方不明となったレヴィ。俺の頭は真っ白になった。

そんな様々な思いが駆け巡り、自分に嫌気がさし、とうとう崩れそうになる。
とその時、数日前にレヴィが楽しそうに彼女の話をしている情景が脳裏に浮かんだ。その時の事を思い返すと本当に楽し気に話す姿が頭に浮かぶ。俺の前では見せない素の顔。素の表情。彼女の前でだけ弟は素直になれていた。

彼女に会いに行こう。そう思い至るのにそう時間はかからなかった。
心を開いていた彼女になら、何か話しているかと思ったから。俺には話せない事を彼女には話していたのではないか、そう思ったから。

それからの行動は早かった。途中、父に止められたがそんな事に構っていられなかった。半ば無視して俺はシェフィールド侯爵邸へと赴いた。

侯爵に話を通して弟の友人、エルシア嬢との対面が許され彼女に会った。
その後、侯爵、そしてエルシア嬢の従者だというルーカス殿を交えてレヴィの事を話し合い、俺は更に思い知らされた。
彼女には敵わないなと。兄である俺より彼女の方がレヴィの事を良く見ていた。俺が見逃すような些細な事も彼女は気づいていた。
それに純粋に弟の身を案じてくれていて、俺とは違い迷いのない澄みきった目をしている。
だからだろうか。弟が心を開いたのは。

悔しいと思った。
こんなに小さな女の子が真摯に友人と向き合っているのに、兄である俺は逃げ続けている。

もういい加減逃げ続けるのは止めよう。周りの評価なんかに惑わされず、大切な事から目を逸らすな。
今度こそレヴィとしっかり向き合うのだ。

遅いなんてもう考えない。自分より年下の女の子が諦めないと言っているのに、俺が諦めるわけにはいかない。


今までの事は悔い続けるけれど、もう後悔しないように。次は自分から手を伸ばせるように。前を向こう。
そして全てが終わったら、気が済むまでお互いの気持ちをぶつけ合おう。
憎まれ口だろうと何だろうと、しっかりと受け止めるから。だから――――。



――キーン。

剣と剣が激しくぶつかりあう音が響く。

「……くっ」

目の前には剣を握りしめた弟。
良く見知ったはずのその姿。しかし今は俺の全く知らない人物に見えた。
空虚な瞳が俺を射抜く。何も映していない虚ろな瞳……だがその奥に怒り――俺に対する憎悪だろうか――が渦巻いているように見える。

「……レヴィ」

呼びかけても返事はなく、それどころか重なった剣が更に重くなったように感じる。
……いや、実際に重くなっている。体格差ではこちらが勝っているはずなのに圧される。

俺より小柄な体のどこにこれだけの力があるのかと疑いたくもなるが、これは恐らく魔法のせい。レヴィの力ではない。

魔法を施し、そいつがレヴィから本来以上の力を無理やり引き出しているんだ。

無理やり体を動かされていれば、痛みが伴うものと思っていたのだが――今のレヴィにはそう言った痛覚がないようだ。そういう風にコントロールされているからだろうが、しかしこの状態は長くは続かないはずだ。そしてこのままではレヴィの体ももたない。

その前に止めなくてはならない。俺がレヴィを。


力圧しを図っていたレヴィは、それでは俺を仕留めきれないと判断したのか、一度後退すると体制を立て直し再度剣を構える。
その動きを目で追いながら、直ぐに次の攻撃が来るだろうと俺も剣を構えた。今度は受けきるつもりで。


本来の実力以上の力が発揮されるこの状況。今の状態ではレヴィの方が俺より強い。このまま交戦していても剣術では勝ち目はないだろう。
それでもどうにかして反撃の隙を狙う。一瞬でも良い、隙が出来れば――。

俺は一つ息を吐き、これまでにない程に意識を集中させる。

目の前にいるレヴィはいつものレヴィではない。油断すればこちらがやられる。


数秒の沈黙が流れ、その直後。
目にも止まらぬ速さでレヴィから攻撃が繰り出される。確かに速い。集中していなければ今の一撃で終わっていただろう。

だがしかし、今の俺に攻撃をかわすといういう選択肢はない。

攻撃を一瞬の内に見切る。
そして迫る攻撃を真っ向から受け止める為、俺は再度剣を構えた。
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