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第9章 愁いのロストフラグメント
15 更なる猛攻
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「があああああああぁぁっ!!」
断末魔のような叫び声が轟く。
私とルカの合わせ技。水と雷を使った攻撃が少年に命中したのだ。
威力は申し分ない。魔族と言えどあれに当たったら流石に無傷ではいられないだろう。実際受けたショックは大きいようで、少年はどさりと音をたてて力なくその場に崩れ落ちる。
更に私達の攻撃魔法を受けた事で、彼は今感電状態となっている。その為不規則にビクビクと身体が痙攣を起こしていた。
「倒、した…のでしょうか?」
意識はまだあるが一先ず動きを止める事には成功した。ただそれも一時的なものに過ぎないだろうし、何度も言うが魔族を侮ってはならない。
でもレヴィ君を連れて逃げる時間くらいは稼げるはず。
正直レヴィ君を正気に戻した状態で連れ帰りたいところだが、既にもうそんな悠長な事を言っている場合ではなくなってしまった。
魔族の使う魔法は強力だけど、連れて帰れさえすればきっと魔法を解く術はあるはすだ。きっと何とかなる。そう信じて――。
最優先事項はレヴィ君の救出。魔族を倒す事ではない。だから少年と無理に戦う必要もない。
そう言い聞かせるように優先項目を頭の中で今一度反芻し直す。
それから私はルカへと視線を向ける。
「ルカ、今の内にレヴィ君を――」
助けましょう、そう続くはずだった声は音にならなかった。
「二人とも伏せてっ!!」
そう叫ぶようなウルの必死な声が耳につく。
直後、呆然としていた私は誰かに身体を押され体制を崩してしまう。
頭が混乱する中、追い討ちをかけるかのように辺りに大きな音が轟く。
そして音が響いたと思った瞬間、私の見ていた世界が反転した。
――えっ、何この状況っ…!?
頭は更に混乱を極め、驚く間もなく一瞬の浮遊感、次いで背中に鈍い痛みを感じ、私は反射で目をギュッと瞑った。
な、何っ…!?
背中に走った痛みもそうだか、あまりにも一瞬の出来事過ぎて、頭がついてこない。息も詰まりそうになる。
そんな中、私は瞑っていた目をそっと開け、そして次の瞬間今度こそ息が止まる。。
息がかかりそうな至近距離に、ルカの顔があった為だ。しかも眉を下げ、心配そうに見つめてくるその顔は完全にアウトだった。
本人はそう思っていないだろうが、こんなところで天然を発揮しなくて良い!
思わずそんな突っ込みをしてしまったが、そこで漸く自分の置かれた状況を理解したのだった。
この体制的にも、どうやらルカは身を挺して私の事を守ってくれたらしい。
ウルに伏せてと言われ、咄嗟にルカは私を押し倒し、その上に覆い被さる事で自分を盾にしたようだった。
咄嗟に良くそんなに動けたなと感心する一方、驚いた事もあった。
咄嗟の事とは言え、ルカが私を強引に押し倒すとは思ってもみなくて、そこからも相当焦っていたんだなと窺い知れる。
しかしと言うことは咄嗟の状況になれば、彼は躊躇いなく自分を犠牲に出来てしまうという事に他ならなくて、そう思うと複雑な気持ちだ。
けれど一体どうしてこうなった?
悲観的な考えになりそうになり、それを払拭するように私は頭を振ると本題へと思考を切り替えた――――のだが、その瞬間私の気持ちを更に沈めるような、とてつもなく嫌な予感と悪寒が身体を巡った。
まさかっ…!
嫌な予感にガバっと状態を起こし、ルカの肩口から顔を覗かせた私は周囲に目をやり――その光景に息を呑んだ。
な、なんで……!
そこには身動きが取れなくなっていたはずの少年が立っていたからだ。
更に火属性魔法の攻撃をこちらに向かい、今まさに繰り出しているところで、それをウルが一人で交戦していると言った状況だった。次から次へと放たれる攻撃は彼の心情を現しているかのようで、勢いが衰える事無く、寧ろ勢いを増しているようにも見えその絶え間ない猛攻が私達を襲う。
「…二人とも無事?」
そんな中こちらを振り向かず、しかし私達の安否を確かめるようにウルが声をかけてくる。
「はい。守ってくれてありがとうございます、ウル」
「大丈夫です。ウルティナ様の力のお陰で、エル様も僕も無事です」
窮地を救ってくれた心優しい精霊に私達は感謝の言葉を述べる。
それから私はルカに身体を支えられながらもその場に立ち上がると、今一度少年を見遣った。
「人間風情が調子に乗るなよっ!!俺が本気を出せば一瞬なんだからな!」
怒りに満ちた声で彼は叫ぶ。
数分前まで澄ましていた表情は消え失せ、感情を高ぶらせる姿が目に入る。弱い犬ほどよく吠える、という言葉があるがその言葉とは裏腹に、彼は感情が高ぶれば高ぶる程その力が増しているように私には見える。
「くっ…!」
ウルから漏れる苦しげなそれが、私の考えが間違えていないと物語っている。自然の力を司り、瘴気を浄化する能力を持つ精霊をここまで圧倒する魔族の力……。
一刻も早くレヴィ君を助けたいのに、このままでは……。
効果があると思ったルカと私、二人掛かりの魔法攻撃でさえそう時間を稼ぐ事は出来なかった。もうこれ以上どうしたら良いのか…。
「エルちゃん」
そんな折、不意に名前を呼ばれて、深く考え込んでしまっていた私はその声にはっと我に返り顔を上げた。
「お願いがあるの」
ウルは先程同様前を見据えたまま、しかし今にも泣きだしそうな切実な声でそう言葉を零し、貴方にしか出来ない事なの、と続けざまにそう言った。
私にしか出来ない事…?
そう思わず聞き返しそうになるが、先の悲し気な彼女の声を思い出してしまい、私は出かかった言葉をぐっと押し殺したのだった。
それに何となくだが、詮索しないでとウルに言われているような気がしたから。
「分かりました。私の力で状況を変えられるのなら――。教えて下さい。私は何をすれば良いですか?」
今は時間が惜しいし、彼女の言う事には何か意味があるはず。
そう信じて首を縦に振り、何をすればいいのかとウルに訊ねる。すると思いがけない答えが彼女から返ってきた。
「歌って欲しいの」
「歌…?」
彼女の口から飛び出した突拍子もない言葉に驚き、そして疑問に思った。
恐らく魔法関連の事で協力してほしい事があるのだろう。そう思っていたのに、想像の斜め上の返答に、緊迫した状況にも関わらず私は拍子抜けしてしまった。
でも何故だろう?その言葉を聞くとどういうわけか懐かしくなる。
そんな事を考えていると、不意に頭に中にある情景が浮かんでくる。それは映像のように動き、更に場面が切り替わるかのように景色が次々と違うものに変わっていくのだ。
これは私の記憶…?――いや、そんなはずはない。私ではない、けれど懐かしい誰かの記憶だ――。
確証はないのに何故かそう思う。
その情景に私が想いを馳せていると不意に女性の綺麗な歌声が聴こえてくる。何処から聴こえてくるのか、誰が歌っているのか分からない。けれど聴いていると不思議と心地良さを感じさせてくれるそんな歌声だった。
『これが私の特殊な能力。傷を癒す能力』
歌っていた女性だろうか?優しい声が囁く。
歌で傷を癒す……。
そんな事が出来たら凄い能力だと思うけれど、彼女の歌には傷を癒す他に何か別の力も宿っている気がする。こちらも根拠はないが、そんな気がしてならなかった。
彼女の紡ぐ音からは優しい想いを感じる。外の傷だけではなくて心までも包み込んで癒してくれるような……そんな音がした。
「エルちゃん。貴方の中にはまだ秘められた力がある」
想いを巡らせる中、遠くでウルの声が朧気に聞こえてきて、私はそれに答える事無く耳を傾けるが、彼女は私の変化に気づいた様子はなく更に言葉を続ける。
「その力はもしかしたら魔族にも効くかもしれない。レヴィに掛けられた魔法にももしかしたら……」
ウルの言う秘められた力。そんなものが本当にあるのならば縋りたい。今度こそ活路を開けるかもしれない。
そんな小さな希望を見出すが、
「俺を相手によそ見とは良い度胸だな?」
凍てつく氷のような声が耳に刺さり、今度こそ私は現実へと引きずり戻された。
現実では未だ防戦を続ける両者。しかしそんな中、挑発するように少年が言葉を吐いたその直後、またしても彼の魔法の威力が力を増した。
「……っ!まずいわ、このままだと――」
防御で手一杯となり攻撃が出来ないウルが悔しそうにそう零す。
「プロテクションッ」
しかしその時、良く通る声が耳に届いた。
いつの間にか前に出ていたルカが呪文を唱え、それにより発動したシールドをウルの防御壁に重ね合わせる。そうする事によって防御力が一段と強くなる為だろう。
「これ以上貴方の好きにはさせませんよ」
ルカ……。
「エル様、今の内に」
彼はこちらを振り返って私にそう言った。
「分かりました」
「お願いね、エルちゃん」
二人に感謝し、私は目を閉じるとゆっくりと息を吐く。
記憶を見ただけで、あの現象がどういった仕組みなのか正直分からないから、不安な中ぶっつけ本番で成功させなくてはならないわけで……。責任重大だ。
高鳴る気持ちを、心を落ちつかせるように深呼吸。それから意識を集中させる。
初めて聴いたはずなのに、知っているような既視感を覚えたあのメロディー。それに不思議な事に、歌のフレーズが私の頭の中にパッと浮かぶのだ。まるで記憶の中の女性が私に歌ってと言っているかのような。
そうだと嬉しいななんて思いながら、私は頭に浮かんだフレーズを一音一音丁寧に紡ぎ始めた。歌に自分の想いを込めながら。
それから暫くしてから閉じていた目を開き、そして驚愕した。
……っ!
息を呑むほど美しい、幻想的な光景が視界一杯に広がっていたのだから。
しかもあんなに大きな音が轟いていたのが嘘かのように静かになっており、私を中心にしてこの場所全体が淡く光り輝いている。
…綺麗……。私がやった…んだよね。
今まで張りつめていたからであろう蓄積された疲労が、この淡い光に触れた途端癒されていく。いつの間にか冷えてしまった体も段々と元の温かさを取り戻していった。
こうして体に変化があったのだから成功だろう。
一先ず上手くいった事に安堵し私は相好を崩した。
断末魔のような叫び声が轟く。
私とルカの合わせ技。水と雷を使った攻撃が少年に命中したのだ。
威力は申し分ない。魔族と言えどあれに当たったら流石に無傷ではいられないだろう。実際受けたショックは大きいようで、少年はどさりと音をたてて力なくその場に崩れ落ちる。
更に私達の攻撃魔法を受けた事で、彼は今感電状態となっている。その為不規則にビクビクと身体が痙攣を起こしていた。
「倒、した…のでしょうか?」
意識はまだあるが一先ず動きを止める事には成功した。ただそれも一時的なものに過ぎないだろうし、何度も言うが魔族を侮ってはならない。
でもレヴィ君を連れて逃げる時間くらいは稼げるはず。
正直レヴィ君を正気に戻した状態で連れ帰りたいところだが、既にもうそんな悠長な事を言っている場合ではなくなってしまった。
魔族の使う魔法は強力だけど、連れて帰れさえすればきっと魔法を解く術はあるはすだ。きっと何とかなる。そう信じて――。
最優先事項はレヴィ君の救出。魔族を倒す事ではない。だから少年と無理に戦う必要もない。
そう言い聞かせるように優先項目を頭の中で今一度反芻し直す。
それから私はルカへと視線を向ける。
「ルカ、今の内にレヴィ君を――」
助けましょう、そう続くはずだった声は音にならなかった。
「二人とも伏せてっ!!」
そう叫ぶようなウルの必死な声が耳につく。
直後、呆然としていた私は誰かに身体を押され体制を崩してしまう。
頭が混乱する中、追い討ちをかけるかのように辺りに大きな音が轟く。
そして音が響いたと思った瞬間、私の見ていた世界が反転した。
――えっ、何この状況っ…!?
頭は更に混乱を極め、驚く間もなく一瞬の浮遊感、次いで背中に鈍い痛みを感じ、私は反射で目をギュッと瞑った。
な、何っ…!?
背中に走った痛みもそうだか、あまりにも一瞬の出来事過ぎて、頭がついてこない。息も詰まりそうになる。
そんな中、私は瞑っていた目をそっと開け、そして次の瞬間今度こそ息が止まる。。
息がかかりそうな至近距離に、ルカの顔があった為だ。しかも眉を下げ、心配そうに見つめてくるその顔は完全にアウトだった。
本人はそう思っていないだろうが、こんなところで天然を発揮しなくて良い!
思わずそんな突っ込みをしてしまったが、そこで漸く自分の置かれた状況を理解したのだった。
この体制的にも、どうやらルカは身を挺して私の事を守ってくれたらしい。
ウルに伏せてと言われ、咄嗟にルカは私を押し倒し、その上に覆い被さる事で自分を盾にしたようだった。
咄嗟に良くそんなに動けたなと感心する一方、驚いた事もあった。
咄嗟の事とは言え、ルカが私を強引に押し倒すとは思ってもみなくて、そこからも相当焦っていたんだなと窺い知れる。
しかしと言うことは咄嗟の状況になれば、彼は躊躇いなく自分を犠牲に出来てしまうという事に他ならなくて、そう思うと複雑な気持ちだ。
けれど一体どうしてこうなった?
悲観的な考えになりそうになり、それを払拭するように私は頭を振ると本題へと思考を切り替えた――――のだが、その瞬間私の気持ちを更に沈めるような、とてつもなく嫌な予感と悪寒が身体を巡った。
まさかっ…!
嫌な予感にガバっと状態を起こし、ルカの肩口から顔を覗かせた私は周囲に目をやり――その光景に息を呑んだ。
な、なんで……!
そこには身動きが取れなくなっていたはずの少年が立っていたからだ。
更に火属性魔法の攻撃をこちらに向かい、今まさに繰り出しているところで、それをウルが一人で交戦していると言った状況だった。次から次へと放たれる攻撃は彼の心情を現しているかのようで、勢いが衰える事無く、寧ろ勢いを増しているようにも見えその絶え間ない猛攻が私達を襲う。
「…二人とも無事?」
そんな中こちらを振り向かず、しかし私達の安否を確かめるようにウルが声をかけてくる。
「はい。守ってくれてありがとうございます、ウル」
「大丈夫です。ウルティナ様の力のお陰で、エル様も僕も無事です」
窮地を救ってくれた心優しい精霊に私達は感謝の言葉を述べる。
それから私はルカに身体を支えられながらもその場に立ち上がると、今一度少年を見遣った。
「人間風情が調子に乗るなよっ!!俺が本気を出せば一瞬なんだからな!」
怒りに満ちた声で彼は叫ぶ。
数分前まで澄ましていた表情は消え失せ、感情を高ぶらせる姿が目に入る。弱い犬ほどよく吠える、という言葉があるがその言葉とは裏腹に、彼は感情が高ぶれば高ぶる程その力が増しているように私には見える。
「くっ…!」
ウルから漏れる苦しげなそれが、私の考えが間違えていないと物語っている。自然の力を司り、瘴気を浄化する能力を持つ精霊をここまで圧倒する魔族の力……。
一刻も早くレヴィ君を助けたいのに、このままでは……。
効果があると思ったルカと私、二人掛かりの魔法攻撃でさえそう時間を稼ぐ事は出来なかった。もうこれ以上どうしたら良いのか…。
「エルちゃん」
そんな折、不意に名前を呼ばれて、深く考え込んでしまっていた私はその声にはっと我に返り顔を上げた。
「お願いがあるの」
ウルは先程同様前を見据えたまま、しかし今にも泣きだしそうな切実な声でそう言葉を零し、貴方にしか出来ない事なの、と続けざまにそう言った。
私にしか出来ない事…?
そう思わず聞き返しそうになるが、先の悲し気な彼女の声を思い出してしまい、私は出かかった言葉をぐっと押し殺したのだった。
それに何となくだが、詮索しないでとウルに言われているような気がしたから。
「分かりました。私の力で状況を変えられるのなら――。教えて下さい。私は何をすれば良いですか?」
今は時間が惜しいし、彼女の言う事には何か意味があるはず。
そう信じて首を縦に振り、何をすればいいのかとウルに訊ねる。すると思いがけない答えが彼女から返ってきた。
「歌って欲しいの」
「歌…?」
彼女の口から飛び出した突拍子もない言葉に驚き、そして疑問に思った。
恐らく魔法関連の事で協力してほしい事があるのだろう。そう思っていたのに、想像の斜め上の返答に、緊迫した状況にも関わらず私は拍子抜けしてしまった。
でも何故だろう?その言葉を聞くとどういうわけか懐かしくなる。
そんな事を考えていると、不意に頭に中にある情景が浮かんでくる。それは映像のように動き、更に場面が切り替わるかのように景色が次々と違うものに変わっていくのだ。
これは私の記憶…?――いや、そんなはずはない。私ではない、けれど懐かしい誰かの記憶だ――。
確証はないのに何故かそう思う。
その情景に私が想いを馳せていると不意に女性の綺麗な歌声が聴こえてくる。何処から聴こえてくるのか、誰が歌っているのか分からない。けれど聴いていると不思議と心地良さを感じさせてくれるそんな歌声だった。
『これが私の特殊な能力。傷を癒す能力』
歌っていた女性だろうか?優しい声が囁く。
歌で傷を癒す……。
そんな事が出来たら凄い能力だと思うけれど、彼女の歌には傷を癒す他に何か別の力も宿っている気がする。こちらも根拠はないが、そんな気がしてならなかった。
彼女の紡ぐ音からは優しい想いを感じる。外の傷だけではなくて心までも包み込んで癒してくれるような……そんな音がした。
「エルちゃん。貴方の中にはまだ秘められた力がある」
想いを巡らせる中、遠くでウルの声が朧気に聞こえてきて、私はそれに答える事無く耳を傾けるが、彼女は私の変化に気づいた様子はなく更に言葉を続ける。
「その力はもしかしたら魔族にも効くかもしれない。レヴィに掛けられた魔法にももしかしたら……」
ウルの言う秘められた力。そんなものが本当にあるのならば縋りたい。今度こそ活路を開けるかもしれない。
そんな小さな希望を見出すが、
「俺を相手によそ見とは良い度胸だな?」
凍てつく氷のような声が耳に刺さり、今度こそ私は現実へと引きずり戻された。
現実では未だ防戦を続ける両者。しかしそんな中、挑発するように少年が言葉を吐いたその直後、またしても彼の魔法の威力が力を増した。
「……っ!まずいわ、このままだと――」
防御で手一杯となり攻撃が出来ないウルが悔しそうにそう零す。
「プロテクションッ」
しかしその時、良く通る声が耳に届いた。
いつの間にか前に出ていたルカが呪文を唱え、それにより発動したシールドをウルの防御壁に重ね合わせる。そうする事によって防御力が一段と強くなる為だろう。
「これ以上貴方の好きにはさせませんよ」
ルカ……。
「エル様、今の内に」
彼はこちらを振り返って私にそう言った。
「分かりました」
「お願いね、エルちゃん」
二人に感謝し、私は目を閉じるとゆっくりと息を吐く。
記憶を見ただけで、あの現象がどういった仕組みなのか正直分からないから、不安な中ぶっつけ本番で成功させなくてはならないわけで……。責任重大だ。
高鳴る気持ちを、心を落ちつかせるように深呼吸。それから意識を集中させる。
初めて聴いたはずなのに、知っているような既視感を覚えたあのメロディー。それに不思議な事に、歌のフレーズが私の頭の中にパッと浮かぶのだ。まるで記憶の中の女性が私に歌ってと言っているかのような。
そうだと嬉しいななんて思いながら、私は頭に浮かんだフレーズを一音一音丁寧に紡ぎ始めた。歌に自分の想いを込めながら。
それから暫くしてから閉じていた目を開き、そして驚愕した。
……っ!
息を呑むほど美しい、幻想的な光景が視界一杯に広がっていたのだから。
しかもあんなに大きな音が轟いていたのが嘘かのように静かになっており、私を中心にしてこの場所全体が淡く光り輝いている。
…綺麗……。私がやった…んだよね。
今まで張りつめていたからであろう蓄積された疲労が、この淡い光に触れた途端癒されていく。いつの間にか冷えてしまった体も段々と元の温かさを取り戻していった。
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