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第10章 アマビリスの乙女

23 愛の力…アメリアside

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「姉様……っ!!」

エルが顔を真っ青をにして私を呼んでいる。
どうしてそんな焦った顔をしているの?そう不思議に思ったのが最初。
けれどその直後、背後から凄まじい魔力を感じて、その不気味さに体が固まってしまい、それでも意を決して振り返ったと同時。

…え?

目の前が真っ黒に染まった。



一瞬だったのか数分だったのか定かではないけれど、気が付いたら私は横になっていて、不気味な雰囲気に寒気を催していた体に何かの温もりが伝わってきて、え?と戸惑いながらも何故か酷く安心してしまった。

……違う…、これは人だわ……、人の体温。それもこの温かさは――……。

「大丈夫か?アメリア」

どうして直ぐに気が付かなかったのだろう。そこにいたのは――。

「………フラン…ッ!」

ずっとずっと心配で、自分の心を律していないと不安で不安でどうにかなってしまいそうで。そんな感情を抱えて、自分でも気が付かない内に心が押しつぶされそうになっていた。


ずっと会いたかった。彼に。フランに。

そう願った彼がどういうわけか今、私の目の前にいる。

へ…?幻覚…?

あまりにも状況が分からな過ぎて、気が動転してしまっていて目が回る。



「間に合って良かった。待たせて悪かったね」

「え…あの、えっと…、フラン…?」

混乱してしまって意味を持たない言葉達しか口から出てこない中、唐突に気づいてしまったことがある。

本当に今更なのだけれど、不安な気持ちから一転、それを自覚した瞬間、恥ずかしい気持ちが私の心を独占する。
何せ私は今、彼の腕の中にいる状態であり、温かいと感じていたのはフランが私を横抱きにして抱えていて、体温が伝わるくらい近い距離にいるからという訳で。


何この状況//////――。

…どうしてこんな…?今の今まで私そこに立っていたわよね?
そうだ、それにあの不気味な魔力は一体何だったの…?というかそもそもどうしてフランがここにいるの…?

疑問が山ほど浮かんできて、更に頭が混乱した。



「だいぶ混乱しているようだね。けれどすまない。説明は後だ。今はこちらを何とかしないと」

私が言葉を失っている様子から、混乱しているのを察したらしい彼は、優しくそう宥めてくれるが、話は後だとその視線を前へと向ける。
混乱収まらぬまま私もそれに倣い視線を移すと、そこにはベラから発生していた瘴気だろう黒い靄が、更に見た目の威勢と力の威力が増したものが宙を滞留していたのだった。

そこでまたあることに気づく。先程の目の前で全てが真っ黒に染まった時のあれは、この威力の増した瘴気だったのだという事に。


「……姉様っ!!」

その時、もう一人私を呼ぶ声に、反射でそちらを見れば、先程見た時よりも更に青い顔をしてこちらに駆けつけて来たエルと、珍しく少し焦った表情を見せるレヴィの姿が目に入る。

レヴィにしては本当に珍しいことだけど、それはさておき、エルにはまた心配をかけてしまったわね。それに対しては申し訳なく思う。

「エル、レヴィ。二人共怪我はなさそうで良かったわ」

「姉様こそ…。本当に心配したんですからね!」

「全くだ。俺でも一瞬肝を冷やしたぞ」

全面的に感情をあらわにするエルと、呆れ顔のもう調子がいつも通りに戻ってしまった仏頂面のレヴィ。あまりにも対照的過ぎてついおかしくなってしまう。

「二人共心配かけてごめんなさいね。でも私も大丈夫。怪我もないわ。
フランが助けてくれたから。そうでしょう?フラン」

「ああ、間一髪だったけれど間に合って良かったよ」

「フランさん!もう動いて大丈夫なんですか!?」

私の事しか見えていなかったのか、急にフランがいたことに気が付いたらしいエルが、大袈裟な程に驚く。
でも私も同じ気持ち。まるで心情をエルが代弁してくれたみたい。

「うん。
ぼーっとしてしまって、思考もまともに出来なかったんだが、少し前漸く意識がはっきりしたんだ。
それもこれも邸に来ていた彼のおかげだよ。
それに君達も来てくれてありがとう。詳しく聞いてはいないが、何となく状況は理解しているよ」

フランの言う 彼 とはテオ君の事だ。
きっと私達が戦闘中、彼がフランに治癒魔法を施してくれていたのだろうと予想がつく。
けれどこの短時間での治癒では全回復は流石に出来ていない。
見ていれば分かる。
気丈を装っていても、フランの顔色は少し悪い。体力もまだ全快ではないんだ。

それなのに無理をして私を助けてくれて……、不謹慎だけど嬉しい気持ちの方が大きかった。


だがそうとなれば長居は無用。一刻も早くあの瘴気の塊をどうにかしなければならないことには変わりない。


「アメリア、すまないが一緒に頼めるかい?」

「…ええ、もちろん。……でもその前に…、そろそろ下ろしてくれないかしら…?」

ずっとこの恥ずかしい体勢だったことを思い出し、このままでは私の心臓が持たないので、照れくさく思いながらも彼に物申す。
あ、すまない。そう言ってゆっくり下ろしてくれた彼もいくらか緊張しているようで、顔が赤く、それが更に私の頬を熱くする。

とまあそれはさておき、やはり体力が完全には回復していないのだと、今の彼の言葉からも分かって心配になる。自分一人で瘴気に立ち向かうのが難しいからこそ、一緒に頼むと申し出たのだろうから。

全く、本当に無茶なのか頑固なのか良く分からない人。
…でもそんなところも好きで、私が支えたいとも思っている彼の好きなところなのだ。


そう考えていると、不意に手を握られる。
握られた手から彼の緊張や温かさが伝わってきて、こんな状況だというのに口が緩んでしまう。

私は敢えて彼の方は見ずに、ただフランの手をそっと握り返す。


「それじゃ、行くわよ!フラン」

覚悟もやる気もあったけれど、フランがいる事で更に気合が入ったわ。何からも負ける気がしない。

「ああ。アメリア、君の事は僕が守るから安心して」

「ちょ、ちょっとこんな時に何を――」

ついテンションが上がってしまったのは私だけではないらしい。フランも普段はあまり言わないような事を言って、私の気持ちを振り回す。
全くこんな時だけ調子良いんだから……。

「そういうわけだ。君達二人にも力を貸してほしい」

「はい!防御は任せてください。二人はこちらの事は気にせず、全力で行っちゃってください!」

「エルの言うとおり、俺もいるんだ。こちらは心配するな。こいつも俺が守るから安心しろ。
それよりもそちらの方が心配だがな。くれぐれもしくじるなよ」

フランは私だけでなく後ろにいるエルとレヴィにもサポートをお願いし、それを二人は任せてと言わんばかりに、全力で応えてくれて。

「本当レヴィは可愛くないわね。でもその意気でエルの事、頼んだわよ」

「任せろ」

可愛くはないけれどその実力は確かで、そこはちゃんと認めているし、レヴィにならエルを任せられると思っているから、私の可愛い妹の事は頼むわよ、レヴィ。

「頼もしい後輩だな。僕達も負けてられないな」

「そうね。それじゃ皆、行くわよ!」

私の声と共に全員が臨戦態勢をとった。
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