幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
219 / 229
第10章 アマビリスの乙女

24 大詰め

しおりを挟む
「エル」

「はい!」

狙ったかのようなタイミングで瘴気が動き出し、こちらに向かってくる。

「「シールドッ」」

それに私とレヴィ君は一早く反応し、自分達の周りに素早くシールドを展開させた。

シールドを発動させた直後、そこに瘴気がぶつかり衝撃が身体にまで伝わる。
物理的質量も増している為、一人では防ぐのが厳しかったかもしれず、もし破られれば命はないのだと、どこか確信がある。

正直怖いし、体が震える。けれどここで負けるわけにはいかないし、私だって皆に良い所を見せたい気持ちだって確かにあるのだ。

だから絶対に押し負けるものですか!

「エル、踏ん張れっ!」

「はい!レヴィ君も頑張って下さい」

正直あまり余裕のない中そう返事を返せば、レヴィ君はどこか悪戯っぽく、挑発的な笑みを浮かべてこう言った。

「誰に言ってる。俺がいるんだから大丈夫に決まっているだろう」

彼とて余裕があるわけでも、ましてや格好つけでもない。きっとこの状況に気持ちが高揚しているのだ。
私は知っている。この状態の彼は強いということを。

何よりも心強く、それを見てしまったら思わず笑みが零れてしまう。



「それより、反撃するなら今の内だぞ!」

そんな私の心情など露知らずなレヴィ君は、今度は前衛に立つ二人に向かって大きく声を張り上げる。

「分かってるわ!――行くわよ、フラン」

「ああ!」

こちらの合図を待っていたと言わんばかりに、二人はお互いに息を合わせると、同時に強く呪文を唱えた。

「「ファイアーキャノンッ!!」」

姉様とフランさん、二人の魔力で生成された火の塊。
通常よりも二倍の威力を持ったそれが、瘴気の塊へと向かっていく。瘴気と巨大な火の塊、その両者がぶつかり、衝撃で派手に爆発が起こった。

予想していたよりも大きい衝撃波に驚きつつも、こちら側と倒れて動けないベラ先輩にも、前もって防御の魔法を発動させていた為、今の爆発で誰一人巻き添えを食らうことも、怪我を負うこともなかったのは幸いといえるだろう。建物からも離れているので屋敷自体にも被害はない。


……本当に本気で魔法を使ったよね、二人共。確かに全力でって言ったけど、生半可な攻撃では意味がない事は分かっているけれど、それにしたって伴う威力と衝撃が半端じゃないよ。


そう内心苦笑いを浮かべたが、まだ戦いは完全には終わっていなかった。


煙漂う炎の中から瘴気の塊が躍り出る。今の攻撃で削れたのか、サイズが小さくなったものの少しだ。あの攻撃を食らっても尚、その程度しか削れていなかった。動きも鈍く見えるが完全に機能が停止しているわけでもなく、炎から這い出してきた瘴気は、またしても猪突猛進にこちらに向かって突っ込んで来るのだった。

「やっぱり今のだけでは効かなかったわね」

「でも外側が削れている。全く効いていなかったわけではないようだね」

そんな中、前衛の二人は焦ることなく、迫りくる瘴気を見つめながら、冷静に状況判断をし、再度立てた作戦を実行に移していく。

「それじゃもう一度行くわよ。フラン、私が隙を作るわ。そこを手加減なしの貴方の炎で攻撃して頂戴。そうしたら私が直ぐに氷結魔法で氷漬けにするわ!」

「了解」

一度目の攻撃が効かなかった場合も想定し、失敗した段階で既に次の一手を考え実行に移す姉様達。

…凄い。それに連携もしっかりとれていて姉様の指示も的確。これが学院最上級生の実力。
魔法学院を無事卒業できれば将来はもう約束されたも同然。そう言われているのが今改めて分かった気がする。
年齢的にはまだまだ子供なのに、そんな事も忘れてしまう程の実力。それはまさに大人も圧巻する力だった。


「行くわよ。
――リフレクションッ!」

そして姉様が今唱えたのは反射魔法。その名の通り、魔法攻撃をそっくりそのまま相手にお返しするという効果なのだが、今回は少し違った使い方をするようだ。恐らくは単に瘴気を跳ね返してしまおうと言う寸法だろう。

「ぐっ…、流石に重いわね…。でもこの程度、どうって事ないわ!」

…1…、2の…3…っ!!

その掛け声と共に瘴気は姉様の狙い通り、奥へと弾き飛ばされていった。

姉様って本当に器用だな。

今の攻撃を反射するシールドに似た壁を生成し、その壁に瘴気が触れた瞬間、繊細なコントロールで壁を柔らかい質に変化させ、バネのような仕組みで弾き飛ばしたのだ。
柔軟な思考を持ち、それを実行できるだけの実力を併せ持つ姉様だからこそできる芸当だ。

「今よ、フラン!」

「ああ、任せてくれ!」

そして姉様に続いてフランさんの出番。
奥へと飛ばされた瘴気を目掛けて、彼は先程と同じ魔法を繰り出す。

「ファイアーキャノンッ!」

手加減なし、そう言っていた姉様の言葉通り、生成された炎の大きさは、先程二人が見せた炎より何倍も大きく、既に彼の元から放たれた炎はその威力申し分なく、瘴気へと向かって綺麗な放物線を描く。
そして外れることなく見事にヒット。その後先程とは比べ物にならない衝撃波が私達に襲い掛かる。


……なんて凄い威力なの…!

あれは最早炎の塊と言った可愛い代物などではない。
この広大な伯爵邸を一瞬にして破壊してしまえる、それ程の力だった。


……本当にこれ、防御魔法を施していなければ、冗談抜きで皆消し炭になっていたよ……。念の為と、中庭に面する側だけでも邸にシールドを展開しておいて良かったな……。


そう安堵したのも束の間。

「アメリア!今だっ!」

フランさんのその声で我に返る。

「ええ!――コンジェラシオンッ!!」

いつでも発動できるよう準備をしていたのだろう。姉様はコントロールの難しい氷結魔法を解き放った。




アメリアside

氷結魔法。
前回使用した際はベラの動きを封じる為、足元だけを狙ったから中々にコントロールが難しかったけれど、今回は瘴気を丸ごと氷漬けにすれば良いし、狙う的も大きく、何より手加減無用だったから尚更やり易かった。

ベラの時に抑えていた魔力を開放し、私の全力をもってして魔法を放つ。

これ以上戦いを続けたくはないし、長引かせたくもない。何よりフランやエル、レヴィ、伯爵達の為にも、そしてベラの為にも。


狙い通り私の最大威力を持った氷結は瘴気に命中。当たった部分から凍っていき、見る見るうちに瘴気全てが氷の中に封じられていく。
瘴気は動きを止め、ついに完全に封じられた――――一瞬でもそう思ってしまった。


「……え」

ある一定まで氷漬けになったところで、どういう訳か氷の侵食が完全に止まってしまったのだった。

……一体どういうこと!?

「どうしたんだ?アメリア」

私の様子、そして異変に気づいたのか、フランが心配の声をかけてくる。
しかし当の私は瘴気から目を離すことが出来ず、咄嗟に答えを返せなかった。

何故なのか分かってしまったから。
見れば瘴気の一部から黒い手のようなものが突き出ていて、それが氷の侵食を止めていたのだ。

…あの手のようなもの、氷に触れているのに凍らないっ!有り得ない!!魔法で止めているのならまだしも……!


いや、今はそんなことを考えている場合ではない。早くしなければせっかく氷漬けにした部分まで破壊されてしまうかもしれない。
でも一体どうしたら……。

今までに感じたことのない焦りが、考えれば考えるほど目の前を真っ白に染めていった。




エルシアside

やった!あと一歩、といったところで異変は起こった。

最初に気づいたのはフランさんの様子からだった。
やる気に満ち溢れていた彼からは、病み上がりとは思えない程、頼もしさを感じていた。だが姉様を見ているその横顔からは心配、焦りといった感情が伝わってくる。

一体何があったというのか?

二人の先にいる瘴気を見ればその答えは一目瞭然だった。

姉様が発動させた渾身の氷結魔法。
それを受けて尚それは完全には凍り付いておらず、それどころか腕のようなものを生やし、氷が全身を覆うのを阻止しているように見えたのだ。


ずっと思っていたけれど、あの瘴気、まるで意志があるかのような動きをしていた。
そもそも瘴気は人の寄り付かなくなった場所、いわゆる穢れのある場所や魔物などから発生する現象であり、霧のようなものなのだ。
当たり前だが霧が生き物のように自在に動くというのは有り得ない。
それなのにこの瘴気は自在に動き回っている。

この瘴気はもしかして瘴気ではないのか?瘴気に似た何かなのか?一体何なのか?


考えがグルグルと頭を巡り、おかしくなりそう。どうしたら良いのか分からなくなってくる。




『まだ諦めるには早いわよ、エルちゃん』

そんな時だった。唐突に頭に声が響いたのは。

――この声は…っ!!

突如響いた聞き覚えのある声に、私ははっとして辺りを見回した。

『こっちよ。エルちゃん』

もう一度響いた、誘導するようなその声に従い、ゆっくりと振り返る。

「………ウルッ!」

彼女は私が今にも泣き出しそうな声を出した事に、やや眉を下げ、それでも口元に笑みを湛えると言った。

「遅くなってごめんなさい。待たせたわね、エルちゃん」

そこにはまるで救世主のように眩い光を纏った、小さな精霊がいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...