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第10章 アマビリスの乙女
24 大詰め
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「エル」
「はい!」
狙ったかのようなタイミングで瘴気が動き出し、こちらに向かってくる。
「「シールドッ」」
それに私とレヴィ君は一早く反応し、自分達の周りに素早くシールドを展開させた。
シールドを発動させた直後、そこに瘴気がぶつかり衝撃が身体にまで伝わる。
物理的質量も増している為、一人では防ぐのが厳しかったかもしれず、もし破られれば命はないのだと、どこか確信がある。
正直怖いし、体が震える。けれどここで負けるわけにはいかないし、私だって皆に良い所を見せたい気持ちだって確かにあるのだ。
だから絶対に押し負けるものですか!
「エル、踏ん張れっ!」
「はい!レヴィ君も頑張って下さい」
正直あまり余裕のない中そう返事を返せば、レヴィ君はどこか悪戯っぽく、挑発的な笑みを浮かべてこう言った。
「誰に言ってる。俺がいるんだから大丈夫に決まっているだろう」
彼とて余裕があるわけでも、ましてや格好つけでもない。きっとこの状況に気持ちが高揚しているのだ。
私は知っている。この状態の彼は強いということを。
何よりも心強く、それを見てしまったら思わず笑みが零れてしまう。
「それより、反撃するなら今の内だぞ!」
そんな私の心情など露知らずなレヴィ君は、今度は前衛に立つ二人に向かって大きく声を張り上げる。
「分かってるわ!――行くわよ、フラン」
「ああ!」
こちらの合図を待っていたと言わんばかりに、二人はお互いに息を合わせると、同時に強く呪文を唱えた。
「「ファイアーキャノンッ!!」」
姉様とフランさん、二人の魔力で生成された火の塊。
通常よりも二倍の威力を持ったそれが、瘴気の塊へと向かっていく。瘴気と巨大な火の塊、その両者がぶつかり、衝撃で派手に爆発が起こった。
予想していたよりも大きい衝撃波に驚きつつも、こちら側と倒れて動けないベラ先輩にも、前もって防御の魔法を発動させていた為、今の爆発で誰一人巻き添えを食らうことも、怪我を負うこともなかったのは幸いといえるだろう。建物からも離れているので屋敷自体にも被害はない。
……本当に本気で魔法を使ったよね、二人共。確かに全力でって言ったけど、生半可な攻撃では意味がない事は分かっているけれど、それにしたって伴う威力と衝撃が半端じゃないよ。
そう内心苦笑いを浮かべたが、まだ戦いは完全には終わっていなかった。
煙漂う炎の中から瘴気の塊が躍り出る。今の攻撃で削れたのか、サイズが小さくなったものの少しだ。あの攻撃を食らっても尚、その程度しか削れていなかった。動きも鈍く見えるが完全に機能が停止しているわけでもなく、炎から這い出してきた瘴気は、またしても猪突猛進にこちらに向かって突っ込んで来るのだった。
「やっぱり今のだけでは効かなかったわね」
「でも外側が削れている。全く効いていなかったわけではないようだね」
そんな中、前衛の二人は焦ることなく、迫りくる瘴気を見つめながら、冷静に状況判断をし、再度立てた作戦を実行に移していく。
「それじゃもう一度行くわよ。フラン、私が隙を作るわ。そこを手加減なしの貴方の炎で攻撃して頂戴。そうしたら私が直ぐに氷結魔法で氷漬けにするわ!」
「了解」
一度目の攻撃が効かなかった場合も想定し、失敗した段階で既に次の一手を考え実行に移す姉様達。
…凄い。それに連携もしっかりとれていて姉様の指示も的確。これが学院最上級生の実力。
魔法学院を無事卒業できれば将来はもう約束されたも同然。そう言われているのが今改めて分かった気がする。
年齢的にはまだまだ子供なのに、そんな事も忘れてしまう程の実力。それはまさに大人も圧巻する力だった。
「行くわよ。
――リフレクションッ!」
そして姉様が今唱えたのは反射魔法。その名の通り、魔法攻撃をそっくりそのまま相手にお返しするという効果なのだが、今回は少し違った使い方をするようだ。恐らくは単に瘴気を跳ね返してしまおうと言う寸法だろう。
「ぐっ…、流石に重いわね…。でもこの程度、どうって事ないわ!」
…1…、2の…3…っ!!
その掛け声と共に瘴気は姉様の狙い通り、奥へと弾き飛ばされていった。
姉様って本当に器用だな。
今の攻撃を反射するシールドに似た壁を生成し、その壁に瘴気が触れた瞬間、繊細なコントロールで壁を柔らかい質に変化させ、バネのような仕組みで弾き飛ばしたのだ。
柔軟な思考を持ち、それを実行できるだけの実力を併せ持つ姉様だからこそできる芸当だ。
「今よ、フラン!」
「ああ、任せてくれ!」
そして姉様に続いてフランさんの出番。
奥へと飛ばされた瘴気を目掛けて、彼は先程と同じ魔法を繰り出す。
「ファイアーキャノンッ!」
手加減なし、そう言っていた姉様の言葉通り、生成された炎の大きさは、先程二人が見せた炎より何倍も大きく、既に彼の元から放たれた炎はその威力申し分なく、瘴気へと向かって綺麗な放物線を描く。
そして外れることなく見事にヒット。その後先程とは比べ物にならない衝撃波が私達に襲い掛かる。
……なんて凄い威力なの…!
あれは最早炎の塊と言った可愛い代物などではない。
この広大な伯爵邸を一瞬にして破壊してしまえる、それ程の力だった。
……本当にこれ、防御魔法を施していなければ、冗談抜きで皆消し炭になっていたよ……。念の為と、中庭に面する側だけでも邸にシールドを展開しておいて良かったな……。
そう安堵したのも束の間。
「アメリア!今だっ!」
フランさんのその声で我に返る。
「ええ!――コンジェラシオンッ!!」
いつでも発動できるよう準備をしていたのだろう。姉様はコントロールの難しい氷結魔法を解き放った。
アメリアside
氷結魔法。
前回使用した際はベラの動きを封じる為、足元だけを狙ったから中々にコントロールが難しかったけれど、今回は瘴気を丸ごと氷漬けにすれば良いし、狙う的も大きく、何より手加減無用だったから尚更やり易かった。
ベラの時に抑えていた魔力を開放し、私の全力をもってして魔法を放つ。
これ以上戦いを続けたくはないし、長引かせたくもない。何よりフランやエル、レヴィ、伯爵達の為にも、そしてベラの為にも。
狙い通り私の最大威力を持った氷結は瘴気に命中。当たった部分から凍っていき、見る見るうちに瘴気全てが氷の中に封じられていく。
瘴気は動きを止め、ついに完全に封じられた――――一瞬でもそう思ってしまった。
「……え」
ある一定まで氷漬けになったところで、どういう訳か氷の侵食が完全に止まってしまったのだった。
……一体どういうこと!?
「どうしたんだ?アメリア」
私の様子、そして異変に気づいたのか、フランが心配の声をかけてくる。
しかし当の私は瘴気から目を離すことが出来ず、咄嗟に答えを返せなかった。
何故なのか分かってしまったから。
見れば瘴気の一部から黒い手のようなものが突き出ていて、それが氷の侵食を止めていたのだ。
…あの手のようなもの、氷に触れているのに凍らないっ!有り得ない!!魔法で止めているのならまだしも……!
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。早くしなければせっかく氷漬けにした部分まで破壊されてしまうかもしれない。
でも一体どうしたら……。
今までに感じたことのない焦りが、考えれば考えるほど目の前を真っ白に染めていった。
エルシアside
やった!あと一歩、といったところで異変は起こった。
最初に気づいたのはフランさんの様子からだった。
やる気に満ち溢れていた彼からは、病み上がりとは思えない程、頼もしさを感じていた。だが姉様を見ているその横顔からは心配、焦りといった感情が伝わってくる。
一体何があったというのか?
二人の先にいる瘴気を見ればその答えは一目瞭然だった。
姉様が発動させた渾身の氷結魔法。
それを受けて尚それは完全には凍り付いておらず、それどころか腕のようなものを生やし、氷が全身を覆うのを阻止しているように見えたのだ。
ずっと思っていたけれど、あの瘴気、まるで意志があるかのような動きをしていた。
そもそも瘴気は人の寄り付かなくなった場所、いわゆる穢れのある場所や魔物などから発生する現象であり、霧のようなものなのだ。
当たり前だが霧が生き物のように自在に動くというのは有り得ない。
それなのにこの瘴気は自在に動き回っている。
この瘴気はもしかして瘴気ではないのか?瘴気に似た何かなのか?一体何なのか?
考えがグルグルと頭を巡り、おかしくなりそう。どうしたら良いのか分からなくなってくる。
『まだ諦めるには早いわよ、エルちゃん』
そんな時だった。唐突に頭に声が響いたのは。
――この声は…っ!!
突如響いた聞き覚えのある声に、私ははっとして辺りを見回した。
『こっちよ。エルちゃん』
もう一度響いた、誘導するようなその声に従い、ゆっくりと振り返る。
「………ウルッ!」
彼女は私が今にも泣き出しそうな声を出した事に、やや眉を下げ、それでも口元に笑みを湛えると言った。
「遅くなってごめんなさい。待たせたわね、エルちゃん」
そこにはまるで救世主のように眩い光を纏った、小さな精霊がいた。
「はい!」
狙ったかのようなタイミングで瘴気が動き出し、こちらに向かってくる。
「「シールドッ」」
それに私とレヴィ君は一早く反応し、自分達の周りに素早くシールドを展開させた。
シールドを発動させた直後、そこに瘴気がぶつかり衝撃が身体にまで伝わる。
物理的質量も増している為、一人では防ぐのが厳しかったかもしれず、もし破られれば命はないのだと、どこか確信がある。
正直怖いし、体が震える。けれどここで負けるわけにはいかないし、私だって皆に良い所を見せたい気持ちだって確かにあるのだ。
だから絶対に押し負けるものですか!
「エル、踏ん張れっ!」
「はい!レヴィ君も頑張って下さい」
正直あまり余裕のない中そう返事を返せば、レヴィ君はどこか悪戯っぽく、挑発的な笑みを浮かべてこう言った。
「誰に言ってる。俺がいるんだから大丈夫に決まっているだろう」
彼とて余裕があるわけでも、ましてや格好つけでもない。きっとこの状況に気持ちが高揚しているのだ。
私は知っている。この状態の彼は強いということを。
何よりも心強く、それを見てしまったら思わず笑みが零れてしまう。
「それより、反撃するなら今の内だぞ!」
そんな私の心情など露知らずなレヴィ君は、今度は前衛に立つ二人に向かって大きく声を張り上げる。
「分かってるわ!――行くわよ、フラン」
「ああ!」
こちらの合図を待っていたと言わんばかりに、二人はお互いに息を合わせると、同時に強く呪文を唱えた。
「「ファイアーキャノンッ!!」」
姉様とフランさん、二人の魔力で生成された火の塊。
通常よりも二倍の威力を持ったそれが、瘴気の塊へと向かっていく。瘴気と巨大な火の塊、その両者がぶつかり、衝撃で派手に爆発が起こった。
予想していたよりも大きい衝撃波に驚きつつも、こちら側と倒れて動けないベラ先輩にも、前もって防御の魔法を発動させていた為、今の爆発で誰一人巻き添えを食らうことも、怪我を負うこともなかったのは幸いといえるだろう。建物からも離れているので屋敷自体にも被害はない。
……本当に本気で魔法を使ったよね、二人共。確かに全力でって言ったけど、生半可な攻撃では意味がない事は分かっているけれど、それにしたって伴う威力と衝撃が半端じゃないよ。
そう内心苦笑いを浮かべたが、まだ戦いは完全には終わっていなかった。
煙漂う炎の中から瘴気の塊が躍り出る。今の攻撃で削れたのか、サイズが小さくなったものの少しだ。あの攻撃を食らっても尚、その程度しか削れていなかった。動きも鈍く見えるが完全に機能が停止しているわけでもなく、炎から這い出してきた瘴気は、またしても猪突猛進にこちらに向かって突っ込んで来るのだった。
「やっぱり今のだけでは効かなかったわね」
「でも外側が削れている。全く効いていなかったわけではないようだね」
そんな中、前衛の二人は焦ることなく、迫りくる瘴気を見つめながら、冷静に状況判断をし、再度立てた作戦を実行に移していく。
「それじゃもう一度行くわよ。フラン、私が隙を作るわ。そこを手加減なしの貴方の炎で攻撃して頂戴。そうしたら私が直ぐに氷結魔法で氷漬けにするわ!」
「了解」
一度目の攻撃が効かなかった場合も想定し、失敗した段階で既に次の一手を考え実行に移す姉様達。
…凄い。それに連携もしっかりとれていて姉様の指示も的確。これが学院最上級生の実力。
魔法学院を無事卒業できれば将来はもう約束されたも同然。そう言われているのが今改めて分かった気がする。
年齢的にはまだまだ子供なのに、そんな事も忘れてしまう程の実力。それはまさに大人も圧巻する力だった。
「行くわよ。
――リフレクションッ!」
そして姉様が今唱えたのは反射魔法。その名の通り、魔法攻撃をそっくりそのまま相手にお返しするという効果なのだが、今回は少し違った使い方をするようだ。恐らくは単に瘴気を跳ね返してしまおうと言う寸法だろう。
「ぐっ…、流石に重いわね…。でもこの程度、どうって事ないわ!」
…1…、2の…3…っ!!
その掛け声と共に瘴気は姉様の狙い通り、奥へと弾き飛ばされていった。
姉様って本当に器用だな。
今の攻撃を反射するシールドに似た壁を生成し、その壁に瘴気が触れた瞬間、繊細なコントロールで壁を柔らかい質に変化させ、バネのような仕組みで弾き飛ばしたのだ。
柔軟な思考を持ち、それを実行できるだけの実力を併せ持つ姉様だからこそできる芸当だ。
「今よ、フラン!」
「ああ、任せてくれ!」
そして姉様に続いてフランさんの出番。
奥へと飛ばされた瘴気を目掛けて、彼は先程と同じ魔法を繰り出す。
「ファイアーキャノンッ!」
手加減なし、そう言っていた姉様の言葉通り、生成された炎の大きさは、先程二人が見せた炎より何倍も大きく、既に彼の元から放たれた炎はその威力申し分なく、瘴気へと向かって綺麗な放物線を描く。
そして外れることなく見事にヒット。その後先程とは比べ物にならない衝撃波が私達に襲い掛かる。
……なんて凄い威力なの…!
あれは最早炎の塊と言った可愛い代物などではない。
この広大な伯爵邸を一瞬にして破壊してしまえる、それ程の力だった。
……本当にこれ、防御魔法を施していなければ、冗談抜きで皆消し炭になっていたよ……。念の為と、中庭に面する側だけでも邸にシールドを展開しておいて良かったな……。
そう安堵したのも束の間。
「アメリア!今だっ!」
フランさんのその声で我に返る。
「ええ!――コンジェラシオンッ!!」
いつでも発動できるよう準備をしていたのだろう。姉様はコントロールの難しい氷結魔法を解き放った。
アメリアside
氷結魔法。
前回使用した際はベラの動きを封じる為、足元だけを狙ったから中々にコントロールが難しかったけれど、今回は瘴気を丸ごと氷漬けにすれば良いし、狙う的も大きく、何より手加減無用だったから尚更やり易かった。
ベラの時に抑えていた魔力を開放し、私の全力をもってして魔法を放つ。
これ以上戦いを続けたくはないし、長引かせたくもない。何よりフランやエル、レヴィ、伯爵達の為にも、そしてベラの為にも。
狙い通り私の最大威力を持った氷結は瘴気に命中。当たった部分から凍っていき、見る見るうちに瘴気全てが氷の中に封じられていく。
瘴気は動きを止め、ついに完全に封じられた――――一瞬でもそう思ってしまった。
「……え」
ある一定まで氷漬けになったところで、どういう訳か氷の侵食が完全に止まってしまったのだった。
……一体どういうこと!?
「どうしたんだ?アメリア」
私の様子、そして異変に気づいたのか、フランが心配の声をかけてくる。
しかし当の私は瘴気から目を離すことが出来ず、咄嗟に答えを返せなかった。
何故なのか分かってしまったから。
見れば瘴気の一部から黒い手のようなものが突き出ていて、それが氷の侵食を止めていたのだ。
…あの手のようなもの、氷に触れているのに凍らないっ!有り得ない!!魔法で止めているのならまだしも……!
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。早くしなければせっかく氷漬けにした部分まで破壊されてしまうかもしれない。
でも一体どうしたら……。
今までに感じたことのない焦りが、考えれば考えるほど目の前を真っ白に染めていった。
エルシアside
やった!あと一歩、といったところで異変は起こった。
最初に気づいたのはフランさんの様子からだった。
やる気に満ち溢れていた彼からは、病み上がりとは思えない程、頼もしさを感じていた。だが姉様を見ているその横顔からは心配、焦りといった感情が伝わってくる。
一体何があったというのか?
二人の先にいる瘴気を見ればその答えは一目瞭然だった。
姉様が発動させた渾身の氷結魔法。
それを受けて尚それは完全には凍り付いておらず、それどころか腕のようなものを生やし、氷が全身を覆うのを阻止しているように見えたのだ。
ずっと思っていたけれど、あの瘴気、まるで意志があるかのような動きをしていた。
そもそも瘴気は人の寄り付かなくなった場所、いわゆる穢れのある場所や魔物などから発生する現象であり、霧のようなものなのだ。
当たり前だが霧が生き物のように自在に動くというのは有り得ない。
それなのにこの瘴気は自在に動き回っている。
この瘴気はもしかして瘴気ではないのか?瘴気に似た何かなのか?一体何なのか?
考えがグルグルと頭を巡り、おかしくなりそう。どうしたら良いのか分からなくなってくる。
『まだ諦めるには早いわよ、エルちゃん』
そんな時だった。唐突に頭に声が響いたのは。
――この声は…っ!!
突如響いた聞き覚えのある声に、私ははっとして辺りを見回した。
『こっちよ。エルちゃん』
もう一度響いた、誘導するようなその声に従い、ゆっくりと振り返る。
「………ウルッ!」
彼女は私が今にも泣き出しそうな声を出した事に、やや眉を下げ、それでも口元に笑みを湛えると言った。
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