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よのぎさんとは本当に連絡が取れなかった。
知っているのは彼女が所属する事務所の連絡先だけ。しかし、しばらく仕事を受けていないようだった。
100万円を渡した。50歳にもなってまだ女の人の涙に弱い自分に呆れて、お金のことは忘れようとした矢先、21万円を返しに来てくれた。
「諸々の支払いが済んだので、その残りです。本当にありがとうございます」
今度は夜ではなく、昼間の会社だった。あまり来訪者に会わない僕のところに若い女の人が来たので、会社のみんなが不審がる。
秘書もいないから一番社歴の浅い垣沼さんがだいぶ失敗したと思われる濃すぎる緑茶を出してくれた。深緑というより苔のようだ。
「斎川よのぎさんですよね? 私、大ファンです」
垣沼さんの言葉に戸惑いつつ、
「ありがとう」
とはにかむというよりはあからさまに困った顔をした。
「先生知り合い? すげえ」
「垣沼さん、仕事して」
と僕は言った。
「はーい。失礼しました」
うん、僕にもわかるよ。第一線を退いたというのに目がよのぎさんを見てしまうね。
美しい人は相手を怯ませる力を持っている。
そんなに細い足で歩けるの? と聞きたい。
よのぎさんが薄化粧だから対面に座って彼女の話を聞くことができる。
「お茶、濃いですね」
よのぎさんがむせる。
「彼女、今年入ったばかりの新卒で。今の子はお茶も淹れられないって言うけど本当なんだな」
「大卒であれば私と同じ年ですかね」
「やっぱり社会に出てると違うよね。君は、落ち着いている」
動きからして違う。
社長室は机と金庫があるだけ。普段は僕もアトリエで作業をしているせいで、この部屋はほぼ応接室のようになっている。
「今日、ここに来るからずっと緊張していました。私もお茶は淹れられる自信はありません。それでも先生は本当に私をお嫁さんにしてくれますか?」
この前とは違う、獲物を捕らえるような目ではなく、恥じらうような甘えるような、それでいてこの間よりもすっきりした顔をしていた。
「いいの? おじさんだよ。でも僕には家族がいないから、僕が死んだらお金は全部君のものだね」
「困ります。そういうんじゃないんです。ただ先生と、夫婦になりたい」
騙しているのだろうか。騙されているのだろうか。緑茶のカテキンは脳にいいらしいのに二人して悩んでしまった。結婚は二人が同意すればできるものの、数えるほどしか仕事をしていないし、それよりも好意も行為もない。
「少し考える?」
と提案すると、
「はい」
と頷いて、二人で苦いお茶を飲んだ。お茶の緑はきれい。でもよのぎさんはもっときれい。指の先から足まで、どこまでもきれいだ。
「これ全部、先生の?」
トロフィーとか盾の価値はわからないが、棚に並んだそれらを食い入るように見つめる君の立ち姿をとても美しいと思った。
知っているのは彼女が所属する事務所の連絡先だけ。しかし、しばらく仕事を受けていないようだった。
100万円を渡した。50歳にもなってまだ女の人の涙に弱い自分に呆れて、お金のことは忘れようとした矢先、21万円を返しに来てくれた。
「諸々の支払いが済んだので、その残りです。本当にありがとうございます」
今度は夜ではなく、昼間の会社だった。あまり来訪者に会わない僕のところに若い女の人が来たので、会社のみんなが不審がる。
秘書もいないから一番社歴の浅い垣沼さんがだいぶ失敗したと思われる濃すぎる緑茶を出してくれた。深緑というより苔のようだ。
「斎川よのぎさんですよね? 私、大ファンです」
垣沼さんの言葉に戸惑いつつ、
「ありがとう」
とはにかむというよりはあからさまに困った顔をした。
「先生知り合い? すげえ」
「垣沼さん、仕事して」
と僕は言った。
「はーい。失礼しました」
うん、僕にもわかるよ。第一線を退いたというのに目がよのぎさんを見てしまうね。
美しい人は相手を怯ませる力を持っている。
そんなに細い足で歩けるの? と聞きたい。
よのぎさんが薄化粧だから対面に座って彼女の話を聞くことができる。
「お茶、濃いですね」
よのぎさんがむせる。
「彼女、今年入ったばかりの新卒で。今の子はお茶も淹れられないって言うけど本当なんだな」
「大卒であれば私と同じ年ですかね」
「やっぱり社会に出てると違うよね。君は、落ち着いている」
動きからして違う。
社長室は机と金庫があるだけ。普段は僕もアトリエで作業をしているせいで、この部屋はほぼ応接室のようになっている。
「今日、ここに来るからずっと緊張していました。私もお茶は淹れられる自信はありません。それでも先生は本当に私をお嫁さんにしてくれますか?」
この前とは違う、獲物を捕らえるような目ではなく、恥じらうような甘えるような、それでいてこの間よりもすっきりした顔をしていた。
「いいの? おじさんだよ。でも僕には家族がいないから、僕が死んだらお金は全部君のものだね」
「困ります。そういうんじゃないんです。ただ先生と、夫婦になりたい」
騙しているのだろうか。騙されているのだろうか。緑茶のカテキンは脳にいいらしいのに二人して悩んでしまった。結婚は二人が同意すればできるものの、数えるほどしか仕事をしていないし、それよりも好意も行為もない。
「少し考える?」
と提案すると、
「はい」
と頷いて、二人で苦いお茶を飲んだ。お茶の緑はきれい。でもよのぎさんはもっときれい。指の先から足まで、どこまでもきれいだ。
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