包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見

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 一人前17000円のすき焼きのコースを夕飯に御馳走しても、よのぎさんはご機嫌ななめ。

「ごめんなさい」
「怒っているわけではありません」
「口調が怒ってるよ。ほら、デザートあげるから」
「さっきケーキも食べたので、そんなに入りません」
 よのぎさんが喜びそうなことがわからない。夫婦として致命的。仲直りの仕方なんて誰に聞けばいいのだろう。習わなかった。

 意外と怒りっぽいんだな。そういうところは女性的。いつもなら手をつないで歩く坂道で、左手が寂しい。


「よのぎさん、一緒にお風呂に入ろうか?」
 うちに入った一歩目で聞いてみた。
 今まで彼女が望んで僕が拒絶したのがそれしか思い浮かばなかった。

「そんな…。いいですよ」
 怒っていても一緒にお風呂に入るという思考がわからない。喧嘩って普通、距離を取るものなのではないだろうか。僕はただ、夜に君と一緒に眠らない想像をしたくないだけ。

「七さん、頭から洗うのね。知らなかった」
 あ、もう平常通り。

 そうか。無駄に長く生きている分、僕のほうが女の人はこうって決めつけているのかもしれない。よのぎさんはよのぎさん。他の人とは違うのだ。

「よのぎさんはどこから洗うの?」
 少し考えて、
「左手」
 と答えた。お風呂の入り方がまるで違う。僕は先に、頭と体を洗い湯船に浸かる。

 よのぎさんはまず湯船。
「そのほうが毛穴の汚れが落ちるって聞いたもん」
「よのぎさん、入るからどっちかに寄って」
「はい」
 背が高いし腕と足はよのぎさんのほうが格段に長いのに前方に身を縮める。
 背中がきれい。肩甲骨が美しすぎて天使の羽と見紛う。

 肩甲骨の真ん中にキスをしたら、
「くすぐったい」
 と頬を赤らめる。

「初めての夫婦喧嘩ってことは初めての仲直りなんだね」
「私、怒ってないですよ」
「怒ってるよ。夫なのでわかります。ひどいことを言いました。よのぎさんの人となりをバカにしたわけではありません。ただ、あまりにも君が僕のことを好きなようなので、それって恋にのぼせてる感じなのかと」
「そうなのかなぁ。でもそうでもなくちゃこんなことできない」
 と振り向いて肩を甘噛みする。

 それから新しい家のお風呂をどうするか、のぼせるまで話した。
「湯船は二人で入れるくらいがいいな。檜とか憧れるけど掃除が大変よね? 七さん、テレビつけたい? ジャグジーは? ライオンの口からお湯が出るやつは?」
 全部よのぎさんの好きにしたらいい。僕は長く生きてもあと数十年だから、一人残る君が寂しくない家がいい。

 今、相続の話をしたらきっとまた君は怒るのだろう。そんな話聞きたくないと耳を塞ぐ。今はまだ子どもがいないから財産は全部よのぎさんのもの。それはそれで厄介そうだから、追々。確定申告のときに会計士さんに相談すればよかった。

 よのぎさんて、いくらあったら残りの人生を困らずに生きられるのだろう。家が大きいと固定資産税がかかるんだよな。そうしたら、また働くのだろう。きっともう大丈夫。

 いつか、よのぎさんの寝顔を僕以上に大事に撫でる人がいるのだろう。よのぎさんは眠りが深いからちょっと触ったくらいでは起きません。頬にキスをしてもおいしくはありません。でも、してしまう。やみつきになること必至。だからたっぷり愛してあげてください。

 離れることは辛いな。でもよのぎさんを愛してしまったのだからしょうがない。自分が死ぬ夢ばかり見る。よのぎさんが泣いている。生きている現実のほうが君がずっと笑っているから、夢の中のようです。
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