不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第1章 勇者の帰還

4 八条雫1

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「お前は機嫌が悪いと、八つ当たりで俺を殴ったよな。何度も何度も」

 俺は杉山の胸ぐらをつかんだまま言った。

 ああ、数十年来の記憶がどんどんよみがえってくる。
 思い出しただけで腹が立つ。

「く……ううぅ……」

 杉山の表情には驚きと恐怖の色があった。

 昨日までは気弱ないじめられっ子だった俺の変化に驚いているのか。
 まあ『今の俺』と『昨日までの俺』の間には、異世界で勇者として戦った日々や数十年の人生経験っていう隔たりがあるからな。

「生まれ変わった記念に、返礼しておくぞ」

 俺は杉山の腹に数発のパンチを食らわせた。
 下手に顔を殴ると、跡が残って面倒なことになるかもしれない。

「ぐええ……」

 苦鳴を上げて吹っ飛ぶ杉山。

「がはっ、あ、はぁ……っ」

 地面に倒れたまま、奴は起き上がれないようだ。

 いい気分だった。
 今まで散々いじめられた相手を、今度は俺が好き勝手にいたぶることができる。

「てめぇ……こんなことして、ただですむと……はぐぅっ……!」

 叫びかけた奴の口に、靴の先を突っこむ。
 大きな声を出されて、人が来ては困る。

「よく考えろ、杉山」

 俺は冷たく言い放った。

「このことを周りに言えば、デメリットがあるのはお前のほうだ」
「む……ぅぅ……っ……!?」

 杉山は戸惑いと恐怖の混じった目で俺を見上げていた。

「『夏瀬ごとき』にボコられた情けない奴──お前の仲間内での評価は地に落ちる」
「っ……!」
「誰にも言わないよな、杉山?」

 俺は口の端を吊り上げて笑った。

「お前が言わなければ、俺も誰にも言わない」

 杉山は無言だ。
 だけど、その瞳は俺の言葉に納得したようだった。

 それを確認して、靴の先を奴の口から離す。

 唾液がついて気持ち悪いが仕方ない。
 後で洗っておこう。

「当然だけど、二度とこんな真似はするなよ。もし俺の靴がまた隠されていたときは、お前をまず叩きのめす」
「な、何……!?」
「犯人が誰だろうと、だ。またぶっ飛ばされたくなかったら──他の連中が同じような真似をしないか、お前が見張っておけ」
「うぐ……ぐ……わ、わかった……」

 俺がじろりとにらむと、杉山はおびえたようにうなずいた。
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