不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第1章 勇者の帰還

32 探索のち再会2

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「どうなってるんだ……?」

 俺は顔を近づけ、壁画に目を凝らした。

 ヴ……ン。

 音がして、俺の視界が切り替わる。

「えっ? えっ!?」

 天空に浮かぶ、壮麗な城。
 街道を進む、無数の魔物。
 きらびやかな剣を持つ騎士。
 咆哮する竜。

 いくつもの光景が視界に広がり、やがて──消える。
 気が付けば、目の前には元の壁画があった。

「彼方くん……?」

 背後で雫が怪訝そうにたずねる。

「……いや、なんでもない」
「壁画をジッと見ていた。もしかして……恋?」

 真顔で言う凪沙さん。

「なんで壁画に恋しなきゃいけないんですか!?」
「場を和ませる冗談」
「あ、そ、そうですか……」
「またどこかが崩れるといけませんし、そろそろ戻ったほうがいいかもしれません」

 と、雫。

「賛成。奥まで来れたし、とりあえず引き返す」

 凪沙さんがうなずく。

「詳しい調査は後日。撤収」
「あ、その前に──」

 俺はスマホを取り出し、壁画を撮影しておいた。

 壁画については、いずれまた調べないとな。

 さっき見た、いくつかの光景──。

 あれは間違いなく。

 俺が勇者として過ごした、異世界の景色だった。



 落とし穴まで戻る途中、俺たちは別の道を発見した。
 そこを通ると地上まで出ることができた。

 とりあえず三人そろって生還できてホッとする。

 俺たちはその足でファミレスにやって来た。
 ちょっとした打ち上げである。

「ふう、大変でしたけど、無事に戻れてよかったです」
「大冒険」
「ですねー」

 ワイワイと楽しげな雫と凪沙さん。

「こんなの一年のときに県外の洞くつ探検をして以来です」
「あれはなかなかだった。トラップてんこ盛り」
「でも雫が部に来てないときにも、何回か古代遺跡巡りですごいのがあった。月子と一緒に潜り抜けたけど」
「えっ、普段どんな活動してるの、オカルト研究部って……?」

 ますます異世界の冒険者じみてきたな。
 落とし穴からまっさかさまに墜落したり、槍のトラップにかかったりした割にけっこうタフなのは、意外と慣れてるからなのか、二人とも……。

「今日は彼方くんが守ってくれましたから安心でした」

 雫が微笑む。

「ありがとうございます。頼もしかったです」
「感謝」
「お、おう」

 二人からぺこりと頭を下げられ、なんとなく照れてしまう俺。

「彼方はなかなか見込みがある。またオカルトを求めて、みんなで探索」
「いいですねー、わくわくします。月子ちゃんも来ればいいのに~」
「月子を見かけたら誘ってみる」
「ですねー。オカルト研究部のフルメンバーで今度は冒険しましょう~」

 二人はまたもやワイワイと盛り上がっていた。
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