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第4章 勇者の日常
15 災禍級魔獣1
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「──強大な魔の気配を感じます」
アリアンの言葉に、ベルクは眉を寄せた。
「魔の気配?」
「呪詛級の魔獣──いえ、もしかしたら災禍級かもしれません」
「災禍級……!」
ベルクは息をのんだ。
降魔級に次ぐ力を持ち、高位魔族に匹敵するといわれる強力な魔獣だ。
彼やアリアンが力を合わせても、とても立ち向かえるような相手ではない。
「し、しかし、強い力を持つ魔はこの世界には来られないんじゃなかったか?」
ベルクたちの世界とこの世界との間に通路を開いたことで、空間に大きな亀裂ができてしまった。
どうやら向こうの世界のモンスターたちの一部が、その亀裂を通ってこの世界へ現れているようだ。
とはいえ、二つの世界間を移動するには、『力』が強いほどより広い通路が必要らしい。
今の亀裂では、あまり強いモンスターは通れないはずだが──。
「本来は、そうです。ただし──」
と、アリアン。
「魔族がその肉体と魂を生け贄にすることで、強引に召喚するやり方があります。あるいは、それを使ったのかもしれません」
「なぜ、わざわざこの世界で──」
「勇者候補を亡き者にするためでしょう」
と、アリアン。
「ただ──今の候補は勇者の使命を拒否しています。彼を殺すことは、魔族には利がないはずですが」
「何か別の目的があるのかな?」
「分かりません。魔王側に新たな動きがあるのかも……」
ベルクの問いに、アリアンは眉をひそめた。
「この世界のあちこちに、魔の痕跡があります。今日も『プール』とやらに出かけたり、色々と見回っていましたが……」
アリアンが語る。
「魔族たちの策動の正体は、いまだつかめず……ですね」
「ともあれ、今は魔獣のことだ」
ベルクが立ち上がった。
壁に立てかけた愛用の剣を手に、告げる。
「この世界の人間が犠牲になるのを見ていられない。僕らも行こう」
「お待ちください、ベルク」
部屋から出ようとした彼を、アリアンが止めた。
「危険すぎます」
「だけど──愛と正義のために戦うのが、僕らの使命だろう」
「ここは私たちの世界ではありません。それに勇者を連れて帰ることこそが、最優先でしょう」
「む、むう……」
「魔獣が勇者候補を──あのナツセ・カナタを殺してくれるなら、手間が省けるというもの。この世界に多くの犠牲が出るかもしれませんが、心を鬼にして耐えるのです。魔王を倒すために」
打算的な考え方にハッとなる。
が、心の片隅ではそれに賛同している自分がいた。
正直、愛だの正義だのと他人の前では美辞麗句を並べるのが好きな彼だが、リスクを冒すのは嫌だった。
「分かった……この世界の人間たちよ、すまない」
言って、ベルクは沈痛な表情を浮かべてみせた。
……アリアンの視線が、妙に冷ややかに感じたのは気のせいだろうか。
アリアンの言葉に、ベルクは眉を寄せた。
「魔の気配?」
「呪詛級の魔獣──いえ、もしかしたら災禍級かもしれません」
「災禍級……!」
ベルクは息をのんだ。
降魔級に次ぐ力を持ち、高位魔族に匹敵するといわれる強力な魔獣だ。
彼やアリアンが力を合わせても、とても立ち向かえるような相手ではない。
「し、しかし、強い力を持つ魔はこの世界には来られないんじゃなかったか?」
ベルクたちの世界とこの世界との間に通路を開いたことで、空間に大きな亀裂ができてしまった。
どうやら向こうの世界のモンスターたちの一部が、その亀裂を通ってこの世界へ現れているようだ。
とはいえ、二つの世界間を移動するには、『力』が強いほどより広い通路が必要らしい。
今の亀裂では、あまり強いモンスターは通れないはずだが──。
「本来は、そうです。ただし──」
と、アリアン。
「魔族がその肉体と魂を生け贄にすることで、強引に召喚するやり方があります。あるいは、それを使ったのかもしれません」
「なぜ、わざわざこの世界で──」
「勇者候補を亡き者にするためでしょう」
と、アリアン。
「ただ──今の候補は勇者の使命を拒否しています。彼を殺すことは、魔族には利がないはずですが」
「何か別の目的があるのかな?」
「分かりません。魔王側に新たな動きがあるのかも……」
ベルクの問いに、アリアンは眉をひそめた。
「この世界のあちこちに、魔の痕跡があります。今日も『プール』とやらに出かけたり、色々と見回っていましたが……」
アリアンが語る。
「魔族たちの策動の正体は、いまだつかめず……ですね」
「ともあれ、今は魔獣のことだ」
ベルクが立ち上がった。
壁に立てかけた愛用の剣を手に、告げる。
「この世界の人間が犠牲になるのを見ていられない。僕らも行こう」
「お待ちください、ベルク」
部屋から出ようとした彼を、アリアンが止めた。
「危険すぎます」
「だけど──愛と正義のために戦うのが、僕らの使命だろう」
「ここは私たちの世界ではありません。それに勇者を連れて帰ることこそが、最優先でしょう」
「む、むう……」
「魔獣が勇者候補を──あのナツセ・カナタを殺してくれるなら、手間が省けるというもの。この世界に多くの犠牲が出るかもしれませんが、心を鬼にして耐えるのです。魔王を倒すために」
打算的な考え方にハッとなる。
が、心の片隅ではそれに賛同している自分がいた。
正直、愛だの正義だのと他人の前では美辞麗句を並べるのが好きな彼だが、リスクを冒すのは嫌だった。
「分かった……この世界の人間たちよ、すまない」
言って、ベルクは沈痛な表情を浮かべてみせた。
……アリアンの視線が、妙に冷ややかに感じたのは気のせいだろうか。
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