不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第4章 勇者の日常

17 勇者の戦い

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 ──『一周目』のとき、初めて出会った災禍級魔獣は絶望的な強さだった。

「こいつ、強い……っ!」

 俺は魔獣を前にうめいた。

 当時の俺のレベルは100ほど。
 今の俺よりはずっと強いが、それでも災禍級魔獣との力の差は歴然だ。

「勇者様、治癒を──【ヒール】!」

 全身に負ったダメージを、背後に控える僧侶アリアンが回復呪文で治してくれる。

「助かる、アリアン」
「もう一度いけるかい、カナタくん?」

 隣に聖騎士ベルクが並ぶ。

「私もまだ戦えそうだ、カナタ」

 逆隣で武闘家ナダレが身構えた。

「あたしが援護するわ。全員で力を合わせれば勝てる」

 杖を手に、凛と告げる魔法使いフィーラ。

「そうだ、俺たちで奴を倒す」

 仲間たちを見回す俺。

「相手がどれだけ強くても──勇者パーティの名にかけて。力なき人々を守るために」
「ふふ、それでこそ勇者だよ、カナタくん」
「いい闘志だ」
「勇者様、あなたのために私も全力を尽くします」
「お前だけにいい格好はさせないわよ、カナタ」

 ベルクが、ナダレが、アリアンが、フィーラが、俺に向かって微笑み混じりにうなずく。

「みんな、俺に力を貸してくれ!」

 ここで逃げれば、魔獣は間違いなく町を襲う。
 大勢の人が殺される。

 それを守るのが勇者の使命だから。
 そして、同じく使命を負って戦う大切な仲間たちがいたから。

 そう、あのころは『大切な仲間』だと信じていたから……。



 俺は刹那的に思い出した回想を頭から振り払い、目の前の敵に意識を向け直した。

 ──スキル【モンスター図鑑】取得、発動。

 新たなスキルを使い、眼前の災禍級魔獣の情報を得た。
 この間みたいなレッサーデーモン程度ならともかく、このクラスの敵だと事前情報が欲しいからな。

────────────────────────────────────
 名前   :スラッシャーF
 クラス  :災禍級
 レベル  :200
 攻撃   :490
 防御   :150
 HP   :3800
 MP   :400
 固有スキル:【切り裂く触手】【形態変化】
 汎用スキル:【俊敏】【頑強】
────────────────────────────────────

 さすがにステータスが高い。
 レベルが二ケタにとどまっている俺とは、雲泥の差だ。

「素手でやりあうのは危険か」

 俺は後ろに下がりながら、周囲を見回した。
 武器が──できれば剣のようなものがほしい。

 がうあっ!

 雄叫びを上げ、『スラッシャーF』が背中から刃付きの触手を伸ばしてきた。
 今度は七本。

 それらをかいくぐりつつ、頭の中で戦法を練る。

「剣──そうか」

 俺は後退から一転、前に出た。

 迫る触手群を見据える。
 慎重に間合いを測る。

「ぐっ……!」

 一本を避けきれず、肩を薙がれた。

 だけど、軽傷だ。

 このまま──。
 俺は触手をつかみ、強引に引っこ抜いた。

 先端の刃を外し、剣のように構える。
 同時に、スキル【武器格闘】発動。

「これで──」

 さらに迫る触手を剣で切り飛ばしつつ、間合いを詰めた。

「終わりだ!」

 繰り出した斬撃で、スラッシャーFの胴体を深々と切り裂いた。

 青黒い鮮血が噴水のように吹き出る。



 るぐおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!



 スラッシャーFの全身が黒いオーラに包まれた。

 同時に、その体が数倍のサイズに膨張する。
 足が八本に増え、狼を思わせる顔に五本の角が生えた。

「第二形態──!?」

 同時に、数百の触手がいっせいに殺到する。

「がっ!? ああっ……」

 とても防ぎきれず、俺は壁際まで吹っ飛ばされた。

 全身がバラバラになりそうな衝撃だった。
 ごぼっ、と血の塊を吐き出す。

────────────────────────────────────
 名前   :スラッシャーF
 クラス  :災禍級
 レベル  :350
 攻撃   :770
 防御   :510
 HP   :8200
 MP   :2400
 固有スキル:【鋭利に切り裂く触手】【触手増殖】
 汎用スキル:【俊敏】【頑強】【超速回復】
────────────────────────────────────

「さすがにこれは──無理かもしれないな」

 俺は苦痛に顔をしかめながら、つぶやいた。

 相手はさらに力を上げた。
 この手ごたえだと、今の俺のステータスじゃ勝てないだろう。

 どうする──。

 こみ上げる、焦り。
 不安。
 そして恐怖。

 こんな感覚は、久しぶりだ。
 そう、『一周目』の異世界での戦いで、強敵相手に何度か味わったあの感覚だった。

「──やれるだけ、やってみるか」

 ギシュリとの戦いで大量に入った経験値で、スキルを強化すれば──。

 さっき得た経験値をすべて【武器格闘】のスキルレベルアップにつぎ込んだ。
 すでに【近接格闘】のほうは以前にカンストまでレベルアップさせていたため、これで二種の【格闘】スキルが最大レベルになったわけだ。



 ──【近接格闘】【武器格闘】ともにスキルカンスト。第二解放スキルを取得できます。



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