不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第5章 勇者の試練

7 戻る日常

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 一夜が明け、体力がかなり戻った。

「ではスキル【聖封印】を発動するぞ」

 と、夜天。

「どうやればいいんだ?」
「さっきの戦いのときと同じ要領だ。私が『力』を高める。それに合わせて、お前は【空間封印】を発動させろ」

 言うなり、夜天の刀身から虹色の輝きが立ち上る。

 力が、俺の中に満ちていくような感覚。
 壊れた扉に剣先を向け、俺はスキルを発動した。

【空間封印】──さらに聖剣との連携複合コンボスキル【聖封印】を。

 まばゆい輝きが、周囲を照らし出す。
 壊れた扉を覆うように、虹色のクリスタルが出現した。

「これでしばらくは持つだろう。魔族が、こちらの世界を訪れるための空間通路を閉鎖した。効果は一月から二月といったところだが……」

 夜天が言った。

「向こうからモンスターとか、異世界人がやって来ることはなくなるのか?」
「【聖封印】はあくまでも闇属性を封じるスキルに過ぎない。その他の属性──つまり魔族以外のモンスターや、異世界の人間の往来までは止められない」
「……そっか」

 俺は小さく息をついた。
 さすがに、そこまで万能じゃないわけか。

「ただ、世界間を行き来するのは簡単なことではない、そう頻繁に現れることはない」
「それまでに、完全にこの世界との通路を塞がないとな」

 結局は、今までと同じ方針──俺がEXジョブ【楽園の大神官】を習得するしかない。

 ただ、夜天のおかげで魔族の脅威は当分去ったはずだ。

「ありがとう、夜天」
「礼は不要だ」

 剣から響く夜天の声は、朗らかだった。

「我々は──相棒なのだからな」

    ※

「扉が、封じられたようですね。魔族や魔獣の気配も去りました」

 僧侶アリアンが静かに告げた。

「そうか、よかった」

 聖騎士ベルクはホッと安堵する。

「カナタが何かをしたのかもしれません」
「やはり、彼は本物の勇者の魂を持っているんだ。説得できる可能性だってある」

 アリアンの言葉にベルクは調子づいた。

「ですが、ベルク──」
「僕はもう一度カナタに会ってくるよ」

 にっこりと笑う。

 一度は拒否されたとはいえ、カナタは勇者候補に選ばれた少年なのだ。
 その心根は、誰よりも善性に満ちているはず。

 きっと分かり合えるはずだ──。

    ※

 扉を封印し直した後、俺はアパートに戻って登校の準備を終えた。

 慌ただしいけど、今日からまた一週間、学校生活だ。

 ちなみに、夜天はアパートに置いてある。
 学校に持っていくわけにはいかないからな。

 ただ、聖剣は主の意志に従って、空間を超えて駆けつける能力を持つ。
 仮にベルクたちや、あるいはモンスターの襲来があったとしても、基本的には即時召喚が可能というわけだ。
 と、

「おはようございます、彼方くん」

 通学路を歩いていると、雫が声をかけてきた。

「……おはよう、雫」
「? どうかしましたか、彼方くん?」

 キョトンと首をかしげる雫。

「ん?」
「なんだか、ちょっと元気がないみたいで……」

 雫は心配そうな顔だ。
 そっと俺の袖をつかみ、見つめてくる。

「──大丈夫だ」

 いつも俺を気遣ってくれる、雫。
 俺も、そんな彼女を守りたい。

「学校に行こう」
「はい」

 雫がはにかんだように微笑む。

 大切な──守りたい、笑顔。

 今の俺には、今まで以上に『大切なものを守るための力』がある。
 聖剣『夜天』という力が。

 だけど、まだまだ足りない。

 もっと強くなるんだ。

 扉を完全に封印し、ベルクやアリアン、そして異世界人とのゴタゴタも解決して。

 雫たちと平和に、穏やかに、暮らしていきたい──。


     ※

次回から第6章になります。
掲載まで少し間が空きますが、気長にお待ちいただけましたら幸いです。
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