不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第6章 勇者の戦い

7 聖なる想い

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 俺はベルクと対峙していた。
 奴に一撃入れたとはいえ、まだまだ油断はできない。

「彼方くん……?」

 突然、声がした。

「えっ……!?」

 ギクリとして振り返る。

 そこに立っていたのは、おとなしげな容貌の美しい少女──。
 雫だ。

「なんで、ここに……!?」

 俺は苦い声でうめいた。

「ごめんなさい。彼方くんが心配になって、つい……」

 巻き添えを避けるために戦場を離したっていうのに、追いかけてきたのか──。
 いや、彼女の性格を考えれば、予想すべきだったか。

「ふん、その女はお前の想い人だったな。弱点発見だ!」

 ベルクが笑った。
 凄絶な笑みだった。

「罪もない者を手にかけるのは辛いが、これも勝利のため──ひいては、世界を守るためだ。まず、そいつから斬る──」
「させるかぁっ!」

 ベルクの斬撃が雫を襲う。

 俺はその攻撃軌道上に体を投げ出した。

「ぐあっ……」

 直後、右肩に焼けるような痛みが走る。
 雫を守ることを優先したから、奴の剣技を受け止めきれなかったのだ。

「彼方くん!」

 雫が悲痛な絶叫を上げる。

 左肩に焼けるような痛みが走った。
 吹き出す血が、地面に赤い斑点を作る。

 俺は【近接格闘】のスキルで、前蹴りを繰り出した。

「ちっ……」

 バックステップでそれを避けるベルク。

 俺は剣を振り回し、牽制しながら、なんとか距離を取る。
 片腕に雫を抱いて。

「大丈夫か、雫」
「私より、彼方くんが……」

 雫は真っ青な顔をしていた。

「血が、いっぱい……」

 涙声でうめく。

「これくらい、大丈夫だ。雫はここから離れろ」

 痛みをこらえ、無理やり笑顔を作る俺。

「彼方くん……」
「あいつは危険だ。雫を襲うかもしれない。俺が食い止めるから、早く逃げてくれ」
「でも──」
「逃がすと思うか?」

 ベルクが俺をにらみつけた。

「この俺の顔に傷をつけた罰だ。その女を、お前の目の前でむごたらしく殺してやる」
「ベルク──」
「いや、その前にたっぷりと犯してやろうか? くくく」
「お前……!」

 何が世界の平和のためだ。

 こいつはどこまでも自分本位だ。
 顔に傷をつけた俺への恨みを晴らすために、雫にひどいことをしようとしている。

 絶対に──させない!
 雫には【加護】のスキルをかけてあるけど、さすがにベルクの実力なら簡単に突破してくるだろう。

 彼女を守るためには、俺が戦うしかない。

「雫、俺が守る……絶対に離れるな!」
「……はい」
「巻きこんですまない」
「私が勝手についてきたんです。謝るのは私の方です……」

 雫は目に涙を浮かべ、うめく。

「私が馬鹿なことをして、彼方くんが……」
「違う、馬鹿なのは異世界人こいつらだ。自分本位で他人の犠牲なんて、なんとも思わない。俺は──」

 夜天を構える。

「俺の剣は──そんな奴らから罪なき人を守るための剣だ」

 勇者であろうとなかろうと。
 それは変わらない。

「だから、力を貸せ──夜天!」
「お前の、志のままに」

 夜天の刀身がまばゆい輝きを放つ。

「さあ、決着の時だ……ベルク!」

 俺は聖剣を手に突進する。
 ベルクもまた突進してきた。

 シンプルな、力のぶつかり合いだ。
 俺たちの斬撃が衝撃波を生み出し、互いの中間地点で衝突した。

 ごおおおおんっ!

 大気が震える、轟音。
 強大なエネルギー同士がぶつかり合った余波で、周囲に激しい突風が吹き荒れる。

「きゃあっ……!」

 その風に雫が吹き飛ばされる。

「雫!」
「大丈夫です、彼方くん……」

 倒れながらも、彼女は俺を見ていた。
 懸命に、応援してくれている。

「う、おおおおおおっ!」

 俺は聖剣に力を込める。
 その意志に呼応し、刀身がさらに輝きを増した。

「勇者の聖なる力か!? だが、俺だって──クラスチェンジして得た力がある!」

 ベルクの剣からも強烈な輝きがあふれる。

「消えろ、下賤げせんな者!」

 嘲笑とともに、ベルクの斬撃の圧力が一気に増した。

「くっ……うううううっ……!」

 さっき切り裂かれた左肩から、血が噴き出した。
 激痛で、剣を持つ手がしびれてくる。

 力が、入らない。
 このままじゃ押しこまれる……っ!

「彼方くん!」

 雫の声が聞こえた。

「負けないで!」
「雫……!」
「私、信じてますから! 絶対に──」

 そのとたん、聖剣の輝きが増した。

「なんだ──!?」

 いや、聖剣だけじゃない。
 俺の体からも、光があふれている。
 痛みが薄れていく。

 まるで雫の声に──祈りに、力をもらっているかのように。

「出力が上がっている……彼方、今なら!」

 夜天の声にうなずき、俺は聖剣を掲げた。
 刀身にすさまじいエネルギーが集中しているのが分かる。

 今なら、撃てる。
 理屈ではなく本能で悟った。

 最強のEXスキルの一つ、【退魔雷撃剣たいまらいげきけん】を。

「ひっ、その技は──」

 ベルクの顔に驚愕の表情が浮かんだ。

「おおおおおっ!」

 気合とともに振り下ろした俺の聖剣から、虹色の斬撃エネルギーと黄金の雷撃が同時に飛ぶ。

「が……ぁぁぁっ……」

 胸元を深々と切り裂かれ、全身を雷に打ち据えられ、ベルクは倒れ伏した。
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