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第6章 勇者の戦い

6 勇者VS騎士

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「結局は神託の通りにすればいいってことだな。お前は友になれたかもしれない男──だが世界を救うために、俺はあえて非道を行い、お前を斬る!」

 ベルクが剣を振りかぶる。
 陶酔したような表情だ。

 いや、間違いなく自分に酔っているんだろう。

 ……こいつの本質はそれだけだ。

 他者からどう映るか。
 他者から──いかに立派な英雄として映るか。

 そんな虚栄心に満たされている。

 俺のことを友だと呼んだのも、魔王を討ったことさえも。
 他者の視線を意識し、自分に酔いしれるための行動に過ぎない。

「お前の自己満足のために斬られてやるほど、俺は物好きじゃない」

 夜天を構え、ベルクを見据える俺。

「俺は自分自身の未来を切り開くため──そして、過去との決着をつけるために、お前を斬る」
「過去との決着? 何をわけの分からないことを!」

 ベルクが地を蹴り、距離を詰めてきた。

 速い──!?
 しかも、奴の姿がいきなり五つに分裂する。

「聖騎士系のスキルか!」

 さすがに五人のベルクを同時に相手にする愚は犯さず、俺は大きく跳び下がった。
 なおも追撃してくるベルクに、俺は地面の石を拾い、【射撃】スキルで投擲する。

「ちっ!」

 五人のベルクが剣で石群を弾いた。
 その間に、俺はさらに距離を取る。

「──なるほど、今のは分身じゃなく残像の類か」

 さっきの動きを見ると、実際に石を剣で弾き飛ばしていたのは一人だけ。
 残りの四人の剣は石を素通りしていた。

「本物と見まがうほどの、高レベルの残像──」
「ほう、見切ったか? 『聖騎士』の上位ジョブ──『魔滅騎士スレイヤーナイト』の固有スキルである【五心歩法ごしんほほう】を」

 ベルクがニヤリと笑う。

「『魔滅騎士』……だと?」
「俺はアリアンから【祝福】を受け、『聖騎士』からクラスチェンジしたんだ。いくら勇者の力に目覚めているとはいえ、てめーなんかに負けるかよ!」

 吠えて、地を蹴るベルク。
 フィーラと同じく、こいつも『一周目』よりパワーアップしているわけか。
 だけど──、

「パワーアップしたのはお前だけじゃない」

 ベルクが振るった剣を、俺は夜天で受け止めた。

「やるな! ならば──【烈火三段突き】!」

 その名の通り、大気との摩擦で炎を発した剣が突きこまれる。
 まるで刀身が三つに分身したように見える、超速の三連刺突。

 ──【流水駆動・LV3】発動!
 俺は防御系の剣術スキルでことごとくブロックする。

「防いだ、だと……!?」
「今度はこっちからいくぞ」

 俺は夜天を構え直した。

 ──【烈火三段突き】発動!

「同じスキルを……ちいっ!」

 今度はベルクが【流水駆動】を使い、俺の剣を防いだ。

「だったら、これだ!」

 いったんバックステップしたベルクが、すぐに反転して剣を旋回させる。

「【竜巻斬り】!」

 受け切れずに、押される俺。

 確かに、強い。
 中位魔族や災禍級魔獣と戦い、レベルが大幅に上がる前の俺だったら、今の一撃でやられていただろう。

 だけど、今は──今なら!

「遅い!」

 俺はベルクの斬撃をやすやすと弾き返す。

「なんだと!? このパワーは──」
「パワーだけじゃない!」

 俺はさらに踏みこむ。

 音速に匹敵するスピードで叩きこんだ剣が、ベルクの頬を薙いだ。
 端正な顔に、斜めの傷が走る。

「き、貴様ぁっ! 俺の顔に、よくも傷を!」

 怒りの声を上げたベルクは、悪鬼のような表情を浮かべた。
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