111 / 135
第7章 勇者の意志
1 つながる想い
しおりを挟む
周囲に漂う、むせ返るような血臭。
「ベルク……」
俺は足元に横たわる死体を見下ろす。
聖剣『夜天』の一撃で、ベルクは脳天から真っ二つになった。
当然ながら、完全に絶命している。
「──終わった」
俺は、ふう、と息をついた。
自分でも驚くほど静かな心地だった。
怒りでも、悲しみでも、喜びでも、達成感でもない。
無の境地に近い。
ベルクが死んで──殺して、俺はどう思っているんだろう?
そう、自問する。
かつては一番の仲間だと思っていたこともあった。
『一周目』の人生では魔王軍との戦いで、数えきれないくらいの戦いをともに乗り越えてきた。
そして、俺は裏切られた。
『二周目』の人生でも、結局は同じだった。
俺をふたたび勇者にしようと誘ってくるベルクと──結局は決裂し、戦いになった。
奴は卑劣にも雫にまで攻撃した。
だから、その報いを受けさせた。
「これでよかったんだ……」
討つべき相手を討った。
それだけだ。
それだけの、はずだ。
なのに──。
胸の中にわだかまるモヤモヤした気持ちはなんだろう。
俺は、俺自身の気持ちにまだ整理がついていない。
「とりあえず、死体をこのままにはできないな……」
俺はいったん思考を切り替えた。
廃工場の中庭に行くと、聖剣で攻撃スキルを使って穴を掘る。
そこにベルクの死体を運び、埋めた。
「……雫の元に戻るか」
深いため息をつく。
この光景を見せたくなくて、彼女を先に帰らせてしまったからな。
廃工場を出ると、入り口のところに雫が立っていた。
どうやら俺を待っていてくれたらしい。
「驚かせて悪かったな、雫」
「……彼方くんの用事は、済みましたか?」
「ああ、全部決着をつけた」
雫の問いにうなずく俺。
さっきは、ベルクとの戦いや、そのときの会話で異世界の存在も匂わせてしまった。
雫にどう説明するべきだろうか。
俺がかつて『一周目』の人生で異世界の勇者をやっていた、なんて説明して、彼女は信じてくれるだろうか。
……いや、雫ならきっと信じてくれるだろう。
だけど、それを伝える意味があるのか、俺には分からない。
本来、知る必要のないことだ。
無意味に異世界の存在を知ったことで、アリアンや他の異世界人が襲来したときに巻き添えを食う確率が高くなったりはしないだろうか。
いろいろな考えが頭の中で渦巻き、思考がフリーズしてしまう。
「驚きましたけど……でも、彼方くんは彼方くんです」
微笑む雫。
彼女は聡明だ。
もしかしたら──ある程度のことは感づいているのかもしれない。
それでも、何も聞かないでいてくれる。
「俺はベルクに──今戦っていた奴や、その仲間とちょっとした関係がある。もしかしたら、また命を狙われることもあるかもしれない。だから、そういう場面に出くわしたら雫は逃げてくれ」
俺は彼女をまっすぐ見つめた。
「巻きこみたくない。いや、今回は巻きこんでしまって──なんて詫びていいか、分からない」
深く頭を下げる。
「やめてください。彼方くんは何も悪くありません。襲ってきたのは、あの人でしょう」
雫が微笑んだ。
「あなたの心がまだ整理できていないなら──これから、ゆっくりと決着をつければいいと思います。私でよければ手伝います」
「これから……か」
俺はどうすればいいんだろう。
こっちに来ている異世界人は、残りはアリアンだけなのか。
あるいは他にも来ているのか。
『一周目』のときに因縁深い相手といえば、他に武闘家のナダレもいる。
あいつは、今どうしているんだろう?
と、雫が俺の手を取った。
「雫……?」
「こ、こうしていると、少しは落ち着くかも……なんて」
温かな手だ。
雫のぬくもりは、確かに俺の心を落ち着かせてくれた。
ベルクを殺した直後は、無の境地だったけれど。
今は、心の芯から温まり、癒されていくような心地よさを感じる──。
「ベルク……」
俺は足元に横たわる死体を見下ろす。
聖剣『夜天』の一撃で、ベルクは脳天から真っ二つになった。
当然ながら、完全に絶命している。
「──終わった」
俺は、ふう、と息をついた。
自分でも驚くほど静かな心地だった。
怒りでも、悲しみでも、喜びでも、達成感でもない。
無の境地に近い。
ベルクが死んで──殺して、俺はどう思っているんだろう?
そう、自問する。
かつては一番の仲間だと思っていたこともあった。
『一周目』の人生では魔王軍との戦いで、数えきれないくらいの戦いをともに乗り越えてきた。
そして、俺は裏切られた。
『二周目』の人生でも、結局は同じだった。
俺をふたたび勇者にしようと誘ってくるベルクと──結局は決裂し、戦いになった。
奴は卑劣にも雫にまで攻撃した。
だから、その報いを受けさせた。
「これでよかったんだ……」
討つべき相手を討った。
それだけだ。
それだけの、はずだ。
なのに──。
胸の中にわだかまるモヤモヤした気持ちはなんだろう。
俺は、俺自身の気持ちにまだ整理がついていない。
「とりあえず、死体をこのままにはできないな……」
俺はいったん思考を切り替えた。
廃工場の中庭に行くと、聖剣で攻撃スキルを使って穴を掘る。
そこにベルクの死体を運び、埋めた。
「……雫の元に戻るか」
深いため息をつく。
この光景を見せたくなくて、彼女を先に帰らせてしまったからな。
廃工場を出ると、入り口のところに雫が立っていた。
どうやら俺を待っていてくれたらしい。
「驚かせて悪かったな、雫」
「……彼方くんの用事は、済みましたか?」
「ああ、全部決着をつけた」
雫の問いにうなずく俺。
さっきは、ベルクとの戦いや、そのときの会話で異世界の存在も匂わせてしまった。
雫にどう説明するべきだろうか。
俺がかつて『一周目』の人生で異世界の勇者をやっていた、なんて説明して、彼女は信じてくれるだろうか。
……いや、雫ならきっと信じてくれるだろう。
だけど、それを伝える意味があるのか、俺には分からない。
本来、知る必要のないことだ。
無意味に異世界の存在を知ったことで、アリアンや他の異世界人が襲来したときに巻き添えを食う確率が高くなったりはしないだろうか。
いろいろな考えが頭の中で渦巻き、思考がフリーズしてしまう。
「驚きましたけど……でも、彼方くんは彼方くんです」
微笑む雫。
彼女は聡明だ。
もしかしたら──ある程度のことは感づいているのかもしれない。
それでも、何も聞かないでいてくれる。
「俺はベルクに──今戦っていた奴や、その仲間とちょっとした関係がある。もしかしたら、また命を狙われることもあるかもしれない。だから、そういう場面に出くわしたら雫は逃げてくれ」
俺は彼女をまっすぐ見つめた。
「巻きこみたくない。いや、今回は巻きこんでしまって──なんて詫びていいか、分からない」
深く頭を下げる。
「やめてください。彼方くんは何も悪くありません。襲ってきたのは、あの人でしょう」
雫が微笑んだ。
「あなたの心がまだ整理できていないなら──これから、ゆっくりと決着をつければいいと思います。私でよければ手伝います」
「これから……か」
俺はどうすればいいんだろう。
こっちに来ている異世界人は、残りはアリアンだけなのか。
あるいは他にも来ているのか。
『一周目』のときに因縁深い相手といえば、他に武闘家のナダレもいる。
あいつは、今どうしているんだろう?
と、雫が俺の手を取った。
「雫……?」
「こ、こうしていると、少しは落ち着くかも……なんて」
温かな手だ。
雫のぬくもりは、確かに俺の心を落ち着かせてくれた。
ベルクを殺した直後は、無の境地だったけれど。
今は、心の芯から温まり、癒されていくような心地よさを感じる──。
11
あなたにおすすめの小説
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる