120 / 135
第7章 勇者の意志
10 武闘家ナダレ
しおりを挟む
「貴殿が夏瀬彼方か。お初にお目にかかる。私はナダレと申す者」
ナダレは俺に向かって丁寧に一礼した。
己に厳しく、他人に優しく、礼をわきまえ──非の打ちどころのない紳士的な雰囲気。
実際、ナダレは実力と仁徳を兼ね備え、多くの人から慕われていた。
だけど、俺は知っている。
奴の本性は、強烈な戦闘マニアである。
その闘争本能は、妄執と呼んでも差し支えのないもの。
『一周目』の人生では、自分より強くなってしまった俺に嫉妬し、襲いかかってきた。
さすがに強敵だった。
苦戦の末に、俺はナダレを打ち倒した。
だが、それは勇者がかつての仲間を乱心によって殺した──というふうに広まり(ベルク辺りが広めたようだ)、俺は追われる身となった。
とはいえ、今はまだそんな関係には至っていない。
ナダレも紳士的な態度を崩さない。
「なんの用だ、ナダレ」
俺は警戒態勢のまま、たずねた。
『一周目』で初めて会ったとき、確かナダレのレベルは70から80くらいだったはず。
今の俺の敵じゃない。
だけど、ベルクにしろ、フィーラにしろ、『一周目』よりも強くなっている。
今の時間軸では、まだ身に着けていないはずのスキルを使い、レベルもずっと高い。
だとすれば、現時点のナダレも『一周目』のときより高レベルであることは、十分予想できた。
それが、どの程度なのか。
こいつは、俺と戦いに来たんだろうか?
俺はすでに異世界人のベルクとフィーラを殺している。
その敵討ちや制裁のために現れたのか。
それとも──?
「質問があって来た」
ナダレが言った。
飄々とした態度に敵意は見られない。
「貴殿はなぜ勇者になることを拒否した?」
「──見ず知らずのお前たちのために、命を懸ける義理はない。そう考えただけだ」
「嘘だな」
即答された。
「なんの根拠があって言うんだ、ナダレ」
「目を見れば分かる。貴殿は──他者のために命を懸けられる人種だ。人を想い、人を守り、剣を振る──真の勇者の資質を備えし者。だからこそ選ばれたのだろうが、な」
「買いかぶりすぎだ。俺はそんな正義感は持ってないし、もっと利己主義だよ」
「私は貴殿の上っ面ではなく、魂の部分を見て、言っている。感じるのだ、勇者の資質を」
と、ナダレ。
随分と俺を買ってくれているようだ。
そういえば、『一周目』でも俺のことを一番評価してくれていたのは、ベルクでもフィーラでもアリアンでもなく──ナダレだった。
「……勇者の資質、ね」
「その貴殿が、我らが世界ファルセリアを見捨てるとは思えない。他に理由があるのだろう?」
深い光をたたえた黒瞳が俺を見据える。
俺の心の底まで見透かすような眼光──。
理由なら、あるさ。
俺は『一周目』の人生で、魔王退治の後にさんざん異世界人たちから迫害されたんだからな。
だけど、それを『二周目』のナダレに言っても仕方がない。
俺にとっては地続きの人生経験でも、ナダレにとっては未知の話でしかない。
「理由なら言ったとおりだ。見ず知らずのお前たちのために、命を懸ける義理はない」
「答えるつもりはない、ということか」
ナダレがわずかに眉を寄せた。
──戦う気か?
フィーラのように、俺を殺して、新たな勇者候補を出現させようとするのか。
ベルクのように、感情のままに俺を殺そうとするのか。
あるいは──。
「なら、そのことはいい。本題に入ろう」
と、ナダレ。
ん、本題?
今までのは、単なる前振りだったということか?
だけど、俺が勇者になるか、ならないか、というファルセリアにとっては重大な事項が前振りになるとしたら──。
ナダレの本題っていうのは、なんだ。
「私はこの世界──『第十五世界』に来る際、誤って別の時代に迷いこんでしまった。貴殿たちの歴史で言うと『戦国時代』というやつだな」
語り始めるナダレ。
「そこで数年を過ごした。まあ、いくつかの事件に巻きこまれたが、その辺はどうでもよい。この時代になんとかたどり着けないかと方策を探している最中、私はある存在に出会った」
「ある……存在?」
「運命の、女神だ」
ナダレが厳かに告げた。
ナダレは俺に向かって丁寧に一礼した。
己に厳しく、他人に優しく、礼をわきまえ──非の打ちどころのない紳士的な雰囲気。
実際、ナダレは実力と仁徳を兼ね備え、多くの人から慕われていた。
だけど、俺は知っている。
奴の本性は、強烈な戦闘マニアである。
その闘争本能は、妄執と呼んでも差し支えのないもの。
『一周目』の人生では、自分より強くなってしまった俺に嫉妬し、襲いかかってきた。
さすがに強敵だった。
苦戦の末に、俺はナダレを打ち倒した。
だが、それは勇者がかつての仲間を乱心によって殺した──というふうに広まり(ベルク辺りが広めたようだ)、俺は追われる身となった。
とはいえ、今はまだそんな関係には至っていない。
ナダレも紳士的な態度を崩さない。
「なんの用だ、ナダレ」
俺は警戒態勢のまま、たずねた。
『一周目』で初めて会ったとき、確かナダレのレベルは70から80くらいだったはず。
今の俺の敵じゃない。
だけど、ベルクにしろ、フィーラにしろ、『一周目』よりも強くなっている。
今の時間軸では、まだ身に着けていないはずのスキルを使い、レベルもずっと高い。
だとすれば、現時点のナダレも『一周目』のときより高レベルであることは、十分予想できた。
それが、どの程度なのか。
こいつは、俺と戦いに来たんだろうか?
俺はすでに異世界人のベルクとフィーラを殺している。
その敵討ちや制裁のために現れたのか。
それとも──?
「質問があって来た」
ナダレが言った。
飄々とした態度に敵意は見られない。
「貴殿はなぜ勇者になることを拒否した?」
「──見ず知らずのお前たちのために、命を懸ける義理はない。そう考えただけだ」
「嘘だな」
即答された。
「なんの根拠があって言うんだ、ナダレ」
「目を見れば分かる。貴殿は──他者のために命を懸けられる人種だ。人を想い、人を守り、剣を振る──真の勇者の資質を備えし者。だからこそ選ばれたのだろうが、な」
「買いかぶりすぎだ。俺はそんな正義感は持ってないし、もっと利己主義だよ」
「私は貴殿の上っ面ではなく、魂の部分を見て、言っている。感じるのだ、勇者の資質を」
と、ナダレ。
随分と俺を買ってくれているようだ。
そういえば、『一周目』でも俺のことを一番評価してくれていたのは、ベルクでもフィーラでもアリアンでもなく──ナダレだった。
「……勇者の資質、ね」
「その貴殿が、我らが世界ファルセリアを見捨てるとは思えない。他に理由があるのだろう?」
深い光をたたえた黒瞳が俺を見据える。
俺の心の底まで見透かすような眼光──。
理由なら、あるさ。
俺は『一周目』の人生で、魔王退治の後にさんざん異世界人たちから迫害されたんだからな。
だけど、それを『二周目』のナダレに言っても仕方がない。
俺にとっては地続きの人生経験でも、ナダレにとっては未知の話でしかない。
「理由なら言ったとおりだ。見ず知らずのお前たちのために、命を懸ける義理はない」
「答えるつもりはない、ということか」
ナダレがわずかに眉を寄せた。
──戦う気か?
フィーラのように、俺を殺して、新たな勇者候補を出現させようとするのか。
ベルクのように、感情のままに俺を殺そうとするのか。
あるいは──。
「なら、そのことはいい。本題に入ろう」
と、ナダレ。
ん、本題?
今までのは、単なる前振りだったということか?
だけど、俺が勇者になるか、ならないか、というファルセリアにとっては重大な事項が前振りになるとしたら──。
ナダレの本題っていうのは、なんだ。
「私はこの世界──『第十五世界』に来る際、誤って別の時代に迷いこんでしまった。貴殿たちの歴史で言うと『戦国時代』というやつだな」
語り始めるナダレ。
「そこで数年を過ごした。まあ、いくつかの事件に巻きこまれたが、その辺はどうでもよい。この時代になんとかたどり着けないかと方策を探している最中、私はある存在に出会った」
「ある……存在?」
「運命の、女神だ」
ナダレが厳かに告げた。
11
あなたにおすすめの小説
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる