不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第8章 勇者の運命

2 勇者と魔族2

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「──その『門番』を倒せば『扉』が閉じる、ということなのか?」

 俺はたずねた。

『門番』を倒せば、魔界の者がこの世界やファルセリアに侵入できなくなる──。
 ナダレはそう説明していた。

 だが、魔族レグルドも同じく『門番』打倒を提案してきた。
 仮にナダレの言葉が正しければ、実行すると魔王軍はファルセリアに侵攻することができなくなるはずだ。

 その矛盾点が気にかかる。
 どちらかが嘘を言っているのか。
 それとも──。

「『門番』を倒すと、新たな『門番』が生まれる。そいつを俺様たちが手なずける」

 レグルドが告げた。

「そうすればファルセリアと魔界は自由に行き来できるようになる。現状では不可能な魔界全軍によるファルセリア侵攻も可能になる、ってことだ」

 ……なるほど、それならナダレの言葉とも矛盾は出てこない、のか?

 どちらの提案を受けるにしても、鍵は『門番』という高位魔族だろう。
 レグルドたちが『門番』打倒を掲げるということは、魔族とはいえ魔王軍に与しているわけではないのかもしれない。

 情報が少なすぎるから、判断ができないが……。

「……考えさせてくれ」

 俺は無難に保留の答えを選択した。

「へっ、慎重じゃねーの」
「即答できる話じゃないだろ」
「そうか? 俺様ならまず決断する。それから動くぜ」

 レグルドが笑う。

「その先にどんな戦いが待ち受けていようと、この剣ですべてを斬り倒す!」

 抜き放った剣は、禍々しい黒い輝きを放っていた。
 まるで、魔剣だ。

「まあ、保留なら保留でいいさ。だが俺様たちもあまり長くは待てない」

 剣をしまい、レグルドが言った。

「そうだな……一週間後に答えを聞こうか。いい返事を待っているぜ、勇者殿」

 ニヤリと笑い、魔族は背を向けた。

 返答は一週間後──。
 それはナダレが課した期限と同じだった。



 俺は元来た道を引き返し、遺跡を出た。

「あ、帰ってきました! よかった、無事で~」

 雫がホッとしたような顔で俺を出迎えてくれた。

「私のダウジング通り。彼方は無傷」
「先輩ならめったなことはないと思ってたけどね。でも、ちょっと心配だったかも」

 いつも通りの凪沙さんに、苦笑する月子。

「──悪い、思ったより時間がかかった」

 俺は三人に謝った。

 ナダレやレグルドと立て続けに出会い、それぞれと話していたからな。

「心配させてしまったな」
「遺跡が崩れないかとヒヤヒヤしました」
「雫は、自分も愛する彼方を追いかけていく、と必死だった」
「あ、あ、あい……する、なんて言ってないです!?」

 凪沙さんの言葉に、雫は顔を赤くする。

「じゃあ、愛情はない、と?」
「え、それは、その……」

 雫はさらに顔を赤らめ、俺をチラチラと見た。

 ん、どうした?

「あいかわらず雫ちゃんって可愛い~」

 月子がはしゃいでいる。

「可愛すぎるから、すりすりしちゃお」

 と、雫に頬ずりをし始めた。

「きゃんっ、もう、月子ちゃんったら」

 雫は照れたように顔を赤くしつつ、微笑んでいる。

 いつも通りの和やかな光景。
 絶対に守りたい──絶対に、壊させたくない光景だ。

 そのために、俺が何をすべきか。

 ナダレの提案か、魔族の申し出か……どちらを受けるべきなんだろう。

 あるいは、さらに別の道を探すべきなのか。

 期限は、一週間だ。



 そして──翌日。

「また会ったな、勇者殿」

 登校した俺の元に、一人の少年が歩いてきた。

「お前──」

 呆然と彼を見つめる俺。

 遺跡で会ったときと服装が違うし、翼も見えなくしているみたいだけれど。

 そいつは、高位魔族レグルドだった。
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