128 / 135
第8章 勇者の運命
6 『門番』
しおりを挟む
「ちいっ、なんて圧力だ……!」
矢継ぎ早に放たれる光弾を前に、俺は大きく後退した。
【近接格闘】スキルの能力を全開にして、フルスピードで動き回る。
わずかでも気を抜けば、数百単位の光弾のどれかを食らうだろう。
直撃すれば、人間の体なんて骨も残らず消し飛ばされる威力であろう光弾のどれかを。
その大半を避け、避けきれないものは聖剣夜天の一振りで切り裂く。
──高位魔族『門番』との戦いは、熾烈を極めた。
身長3メートルほどの、人型の魔族。
全身が真っ白で滑らかな体表。
顔には仮面がつけられており、大小合わせて八つの目が描かれていた。
「さすがに……強い」
「そろそろ私があなたたちにかけた強化スキルの効果が切れるころですね……!」
俺の隣でナダレが、背後でアリアンがうめいた。
そう──俺は現在、ナダレ、アリアンとともに戦っている。
場所はナダレたちに案内された異空間。
その奥に、『門番』がたたずんでいた。
普段は異なる世界の間に通じる道を管理し、その扉の開閉役を担っているのだという。
厳密には、魔界と他の世界との間の通路を、だ。
世界間通路の管理能力を持つ『門番』を倒し、こちらで用意した別の魔族に『門番』としての能力を移し替える。
その後に、魔界が俺たちの世界やファルセリアに攻めてこないように『扉』を閉じる。
これがナダレたちの提案である。
そのためには『門番』を倒すのが絶対条件だ。
結局、俺が選んだのは彼らの提案だった。
もちろん、心の底から信用しているわけじゃない。
ナダレたちが『一周目』で俺を裏切ったことは忘れない。
今回だって、どんな思惑を隠しているか分からない。
だが、少なくとも『門番』打倒には彼らの力が必要なんだろう。
実際、『門番』は強い。
とてつもなく、強い……!
「いっけぇぇぇぇっ、【退魔聖燐咆】!」
俺は渾身の意思力を込めて、夜天を振り下ろした。
現在の俺が使える最強の攻撃スキルである。
鮮烈な爆光が異空間を照らし出す。
人間界で使ったら、周囲にクレーターができていたかもしれない。
それでさえ、『門番』の体表にわずかな傷をつけただけだった。
「攻撃防御ともに圧倒的……か。ふむ」
ナダレがつぶやく。
そのナダレも以前よりもかなり戦闘能力がアップしていた。
なんでもアリアンから事前に『祝福』を受け、『武闘家』から『武神』へとクラスチェンジしていたということだ。
以前の数倍の格闘能力で『門番』に仕掛けるものの、奴はそれをも上回る近接戦闘能力でナダレを寄せつけない。
まして俺の【近接格闘】スキルじゃ、太刀打ちできない。
この戦いが始まってから、俺はほとんど中距離攻撃ばかりを仕掛け、近接戦闘は避けていた。
「二人とも、もう一度【スキルブースト】をかけます!」
アリアンが叫んだ。
僧侶系のスキルである【スキルブースト】。
名前の通り、それをかけてもらうと一定時間、使用スキルの威力が倍増する。
俺とナダレはすでに【スキルブースト】を四度かけてもらっていた。
効果が切れては、かけ直してもらい、また切れてはかけ直してもらい──という具合だ。
「【スキルブースト】!」
アリアンの錫杖から薄桃色の輝きがあふれ、俺とナダレの体を包んだ。
力が、湧き上がってくる。
「はあ、はあ、はあ……」
アリアンの息が荒い。
さすがに五度も【スキルブースト】を使い、体力や精神力が底を尽きかけているんだろう。
いいかげんに『門番』を倒さなければ──。
もしかしたらレグルドや他の魔族も駆けつけるかと思ったが、その気配はなかった。
俺の返事をどこかで待っている状態なんだろうか。
この一週間は、毎日のように──友人さながらにレグルドと出かけていただけに、少し心が痛む。
りぃぃぃぃぃぃぃんっ。
鈴虫の羽音のような鳴き声とともに、『門番』が襲いかかった。
これだけ長時間戦っているというのに、まるで衰えを見せない。
むしろ、アリアンから治癒や強化を受け続けているのに、俺たちの方が弱ってきているくらいだ。
だけど、退けない。
こいつを倒すことで、魔族がこの世界にやって来る脅威を終わらせられるんだ。
「だから──必ず勝つ!」
吠えて、俺は聖剣を振り上げた。
矢継ぎ早に放たれる光弾を前に、俺は大きく後退した。
【近接格闘】スキルの能力を全開にして、フルスピードで動き回る。
わずかでも気を抜けば、数百単位の光弾のどれかを食らうだろう。
直撃すれば、人間の体なんて骨も残らず消し飛ばされる威力であろう光弾のどれかを。
その大半を避け、避けきれないものは聖剣夜天の一振りで切り裂く。
──高位魔族『門番』との戦いは、熾烈を極めた。
身長3メートルほどの、人型の魔族。
全身が真っ白で滑らかな体表。
顔には仮面がつけられており、大小合わせて八つの目が描かれていた。
「さすがに……強い」
「そろそろ私があなたたちにかけた強化スキルの効果が切れるころですね……!」
俺の隣でナダレが、背後でアリアンがうめいた。
そう──俺は現在、ナダレ、アリアンとともに戦っている。
場所はナダレたちに案内された異空間。
その奥に、『門番』がたたずんでいた。
普段は異なる世界の間に通じる道を管理し、その扉の開閉役を担っているのだという。
厳密には、魔界と他の世界との間の通路を、だ。
世界間通路の管理能力を持つ『門番』を倒し、こちらで用意した別の魔族に『門番』としての能力を移し替える。
その後に、魔界が俺たちの世界やファルセリアに攻めてこないように『扉』を閉じる。
これがナダレたちの提案である。
そのためには『門番』を倒すのが絶対条件だ。
結局、俺が選んだのは彼らの提案だった。
もちろん、心の底から信用しているわけじゃない。
ナダレたちが『一周目』で俺を裏切ったことは忘れない。
今回だって、どんな思惑を隠しているか分からない。
だが、少なくとも『門番』打倒には彼らの力が必要なんだろう。
実際、『門番』は強い。
とてつもなく、強い……!
「いっけぇぇぇぇっ、【退魔聖燐咆】!」
俺は渾身の意思力を込めて、夜天を振り下ろした。
現在の俺が使える最強の攻撃スキルである。
鮮烈な爆光が異空間を照らし出す。
人間界で使ったら、周囲にクレーターができていたかもしれない。
それでさえ、『門番』の体表にわずかな傷をつけただけだった。
「攻撃防御ともに圧倒的……か。ふむ」
ナダレがつぶやく。
そのナダレも以前よりもかなり戦闘能力がアップしていた。
なんでもアリアンから事前に『祝福』を受け、『武闘家』から『武神』へとクラスチェンジしていたということだ。
以前の数倍の格闘能力で『門番』に仕掛けるものの、奴はそれをも上回る近接戦闘能力でナダレを寄せつけない。
まして俺の【近接格闘】スキルじゃ、太刀打ちできない。
この戦いが始まってから、俺はほとんど中距離攻撃ばかりを仕掛け、近接戦闘は避けていた。
「二人とも、もう一度【スキルブースト】をかけます!」
アリアンが叫んだ。
僧侶系のスキルである【スキルブースト】。
名前の通り、それをかけてもらうと一定時間、使用スキルの威力が倍増する。
俺とナダレはすでに【スキルブースト】を四度かけてもらっていた。
効果が切れては、かけ直してもらい、また切れてはかけ直してもらい──という具合だ。
「【スキルブースト】!」
アリアンの錫杖から薄桃色の輝きがあふれ、俺とナダレの体を包んだ。
力が、湧き上がってくる。
「はあ、はあ、はあ……」
アリアンの息が荒い。
さすがに五度も【スキルブースト】を使い、体力や精神力が底を尽きかけているんだろう。
いいかげんに『門番』を倒さなければ──。
もしかしたらレグルドや他の魔族も駆けつけるかと思ったが、その気配はなかった。
俺の返事をどこかで待っている状態なんだろうか。
この一週間は、毎日のように──友人さながらにレグルドと出かけていただけに、少し心が痛む。
りぃぃぃぃぃぃぃんっ。
鈴虫の羽音のような鳴き声とともに、『門番』が襲いかかった。
これだけ長時間戦っているというのに、まるで衰えを見せない。
むしろ、アリアンから治癒や強化を受け続けているのに、俺たちの方が弱ってきているくらいだ。
だけど、退けない。
こいつを倒すことで、魔族がこの世界にやって来る脅威を終わらせられるんだ。
「だから──必ず勝つ!」
吠えて、俺は聖剣を振り上げた。
11
あなたにおすすめの小説
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる