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陰謀編 プレイステッド領
人質、密偵とコンタクトをとる
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リヒトが助けに来た!
だけど別に俺の虜囚生活は変わらなかった。部屋に居つくリヒトを誤魔化すのに苦慮したぐらいだ。トイレの中に隠すわけにはいかないしね。俺に会ったら会ったでリヒトもくつろいじゃって、俺の救出はどうしたの? 仔狼一匹じゃ無理なのはわかっているけども。
「ガルルッ」
ん? 魔法をぶっ放して屋敷を壊滅させてもいいなら、やる? いやいや、止めて。お願いだから、止めて。もうちょっと穏便にお願いします、と頭を下げたら別動隊が助けに来るまで待つことになった。
結果、リヒトは自ら囚われにきた愛玩ペットとして、この部屋で生活している。……食事を二人で分けているからダイエットには丁度いいと思うことにした。
じゃあ、俺が暴れたのは単に部屋の掃除が雑で腹が立っただけかと言うと、そうではない。この部屋にちゃんとした理由で連絡役を招待するためだ。
騒いだ翌日の朝、騎士たちが扉を開けてポンッと放り込んできたのは、背の低いそばかすが目立つ少年だった。
「……おはよう」
あれ? これは外しちゃったかな? ペタリと床に座り込んだ少年は、俺に向かって慌てて頭を下げると裏返った声で「お掃除に来ました」と言った。
「お願いします」
「はい!」
そうして、テキパキと手早く掃除がされていく。水回りも丁寧に、水滴を拭ってタオルの交換や石鹸の補充。ベッドメイキングも端までピッチリと、完璧に仕上げて部屋を去っていった。まだ子どもなのに、プロフェッショナルだ。
俺は、ベッドに敷かれたシワひとつないシーツを気持ちよさそうに撫でると、ピタリとその手を止めた。なんか、ガサリとした感触が……。ゴソゴソとシーツの下に手を突っ込むと小さな紙片が隠されていた。
「……うわっ、あの子がそうなんだ……」
下働きの少年はヴァスコが放った密偵でした。どうやって王都から密偵を手配したんだろう? 俺が誘拐されて犯人がラファエル・プレイステッドで、この屋敷に囚われているって……ただの王都屋敷の執事が……。本当に謎の人物である。そして主人が誘拐されているのにも関わらず、ヴァスコは降って湧いたトラブルに満面の笑みで対応しているんだろうなぁ。俺の誘拐がヴァスコの暇つぶしになっているのは、複雑な気分だが、これでようやく外部との連絡が取れるぜぇい!
ちなみに紙片に書かれていた内容は、ヴァスコの指示で屋敷を探っているということと、これからの連絡方法だった。俺は彼とイライアス様が手配したキッチンメイドの密偵が協力できるように、その旨を書き記した。
オールポート伯爵領、領主屋敷では隣領のハーディング侯爵とそのパートナーを交えて伯爵誘拐の対応について話し合っていた。というより、使用人ではどうしようもない事態に、伯爵の兄であるハーディング侯爵にお伺いを立てていた。
「それでは、私たちには何もするな、と?」
悲痛な面持ちでベンジャミンが声を上げると、ライラも真っ青な顔で口元を手で覆う。ノーマンは部屋の隅に立ち空気と化していた。
「そうだ。今回のことはプレイステッド辺境伯の者が関わっている可能性が高い。お前たちでは太刀打ちできない。そうだな……そちらの希望どおり、シャーロットには知られないように心を配ってくれ」
自分たちの主人とは似ても似つかない厳つい顔の侯爵にピシャリと言われてしまったら、ベンジャミンは反対することもできずに、ただ頷くだけだった。その様子をハーディング侯爵のパートナーであり、王族お気に入りのドレスメーカーであるイライアスは冷静に観察していた。
「あの、俺はぜひセシル様救出の人員に入れてください。下っ端で構いませんので」
ハイハイと右手を上げてアピールするのは、伯爵の従者であり誘拐されたときに側にいたディーンだ。
「……本気か?」
「はい。オールポート領からセシル様が連れ去られたプレイステッド辺境伯領まで、徒歩で移動するのも覚悟の上です」
ディーンはキッと凛々しい顔で宣言したが、ハーディング侯爵の眉は困ったようにちょっと下がった。ディーンは元々こちらの陣営として数えていたから、本人のやる気があるのはよろしい。だが……大事な弟の奪還にバカ正直に馬車に乗って移動するわけがない。だが、ここで話すのは憚られるので、ハーディング侯爵はむっつりと黙った。
「そう。じゃあディーンはこちらで預かる。くれぐれも貴方たちはいつも通りに過ごすこと。シャーロットに気取られないように」
代わりにイライアスがベンジャミンたちに釘を刺す。シャーロットには、父であるセシルはダドリー王子からの招待で王都へ行っていることになっている。滞在はオールポートの王都屋敷ではなく、王宮で寝泊まりしていると。シャーロットは疑いもせずにその話を信じ、いまは自分の婚約の話に夢中だった。
「何かわかったことがあったら報告する」
それだけ言い置くとハーディング侯爵とそのパートナーはディーンを連れて、あっさりと自分の領地に帰っていった。
帰っていったとみせかけて、実は本当の作戦会議場所として設けたサレルノに馬車を向けていた。サレルノには、オールポート伯爵の誘拐にブチ切れているラスキン博士やクラーク、ハーディング前侯爵がギリギリと歯ぎしりしながら役者がそろうのを待っている。
ハーディング侯爵とそのパートナーだけでなく、ここサレルノにはルーカス・ウェントブルックとダドリー王子が参加予定だ。そして、ちゃっかりサレルノにもヴァスコの密偵は潜んでいた。
「やれやれ、薬師のババアを働かせ過ぎだよ、ヴァスコの奴め」
だけど別に俺の虜囚生活は変わらなかった。部屋に居つくリヒトを誤魔化すのに苦慮したぐらいだ。トイレの中に隠すわけにはいかないしね。俺に会ったら会ったでリヒトもくつろいじゃって、俺の救出はどうしたの? 仔狼一匹じゃ無理なのはわかっているけども。
「ガルルッ」
ん? 魔法をぶっ放して屋敷を壊滅させてもいいなら、やる? いやいや、止めて。お願いだから、止めて。もうちょっと穏便にお願いします、と頭を下げたら別動隊が助けに来るまで待つことになった。
結果、リヒトは自ら囚われにきた愛玩ペットとして、この部屋で生活している。……食事を二人で分けているからダイエットには丁度いいと思うことにした。
じゃあ、俺が暴れたのは単に部屋の掃除が雑で腹が立っただけかと言うと、そうではない。この部屋にちゃんとした理由で連絡役を招待するためだ。
騒いだ翌日の朝、騎士たちが扉を開けてポンッと放り込んできたのは、背の低いそばかすが目立つ少年だった。
「……おはよう」
あれ? これは外しちゃったかな? ペタリと床に座り込んだ少年は、俺に向かって慌てて頭を下げると裏返った声で「お掃除に来ました」と言った。
「お願いします」
「はい!」
そうして、テキパキと手早く掃除がされていく。水回りも丁寧に、水滴を拭ってタオルの交換や石鹸の補充。ベッドメイキングも端までピッチリと、完璧に仕上げて部屋を去っていった。まだ子どもなのに、プロフェッショナルだ。
俺は、ベッドに敷かれたシワひとつないシーツを気持ちよさそうに撫でると、ピタリとその手を止めた。なんか、ガサリとした感触が……。ゴソゴソとシーツの下に手を突っ込むと小さな紙片が隠されていた。
「……うわっ、あの子がそうなんだ……」
下働きの少年はヴァスコが放った密偵でした。どうやって王都から密偵を手配したんだろう? 俺が誘拐されて犯人がラファエル・プレイステッドで、この屋敷に囚われているって……ただの王都屋敷の執事が……。本当に謎の人物である。そして主人が誘拐されているのにも関わらず、ヴァスコは降って湧いたトラブルに満面の笑みで対応しているんだろうなぁ。俺の誘拐がヴァスコの暇つぶしになっているのは、複雑な気分だが、これでようやく外部との連絡が取れるぜぇい!
ちなみに紙片に書かれていた内容は、ヴァスコの指示で屋敷を探っているということと、これからの連絡方法だった。俺は彼とイライアス様が手配したキッチンメイドの密偵が協力できるように、その旨を書き記した。
オールポート伯爵領、領主屋敷では隣領のハーディング侯爵とそのパートナーを交えて伯爵誘拐の対応について話し合っていた。というより、使用人ではどうしようもない事態に、伯爵の兄であるハーディング侯爵にお伺いを立てていた。
「それでは、私たちには何もするな、と?」
悲痛な面持ちでベンジャミンが声を上げると、ライラも真っ青な顔で口元を手で覆う。ノーマンは部屋の隅に立ち空気と化していた。
「そうだ。今回のことはプレイステッド辺境伯の者が関わっている可能性が高い。お前たちでは太刀打ちできない。そうだな……そちらの希望どおり、シャーロットには知られないように心を配ってくれ」
自分たちの主人とは似ても似つかない厳つい顔の侯爵にピシャリと言われてしまったら、ベンジャミンは反対することもできずに、ただ頷くだけだった。その様子をハーディング侯爵のパートナーであり、王族お気に入りのドレスメーカーであるイライアスは冷静に観察していた。
「あの、俺はぜひセシル様救出の人員に入れてください。下っ端で構いませんので」
ハイハイと右手を上げてアピールするのは、伯爵の従者であり誘拐されたときに側にいたディーンだ。
「……本気か?」
「はい。オールポート領からセシル様が連れ去られたプレイステッド辺境伯領まで、徒歩で移動するのも覚悟の上です」
ディーンはキッと凛々しい顔で宣言したが、ハーディング侯爵の眉は困ったようにちょっと下がった。ディーンは元々こちらの陣営として数えていたから、本人のやる気があるのはよろしい。だが……大事な弟の奪還にバカ正直に馬車に乗って移動するわけがない。だが、ここで話すのは憚られるので、ハーディング侯爵はむっつりと黙った。
「そう。じゃあディーンはこちらで預かる。くれぐれも貴方たちはいつも通りに過ごすこと。シャーロットに気取られないように」
代わりにイライアスがベンジャミンたちに釘を刺す。シャーロットには、父であるセシルはダドリー王子からの招待で王都へ行っていることになっている。滞在はオールポートの王都屋敷ではなく、王宮で寝泊まりしていると。シャーロットは疑いもせずにその話を信じ、いまは自分の婚約の話に夢中だった。
「何かわかったことがあったら報告する」
それだけ言い置くとハーディング侯爵とそのパートナーはディーンを連れて、あっさりと自分の領地に帰っていった。
帰っていったとみせかけて、実は本当の作戦会議場所として設けたサレルノに馬車を向けていた。サレルノには、オールポート伯爵の誘拐にブチ切れているラスキン博士やクラーク、ハーディング前侯爵がギリギリと歯ぎしりしながら役者がそろうのを待っている。
ハーディング侯爵とそのパートナーだけでなく、ここサレルノにはルーカス・ウェントブルックとダドリー王子が参加予定だ。そして、ちゃっかりサレルノにもヴァスコの密偵は潜んでいた。
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