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陰謀編 プレイステッド領
人質、退屈でだらける
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囚われて数日。
すっかり不自由な生活にも慣れましたーっ! って、なんでだよっ。ダメじゃん、慣れたら……しかし人間は慣れる生き物だからなぁ。ゴロリとベッドに横になり、手持ち無沙汰に無理やり借りた冒険小説に目を流す。
だって……せっかくリヒトが俺を助けに遥々プレイステッド辺境伯領まで来たのに、ちびっこ狼で俺を物理的に助け出すのは無理だし。魔法をぶっ放せば脱出できるけど、この屋敷は全壊となり、下手したら怪我人が出てしまう。それはちょっと、小市民の俺には耐えられません……。
なので、正攻法の助けを待つことにしたら、既にこの屋敷にヴァスコが手配した密偵とイライアス様が手配した密偵が入りこんでいるとな! すっげぇ、あの二人の能力の高さ。それでは、脱出作戦をと腕まくりしたのに、密偵さん二人からの指示は「動くな」でした。しょんぼり。
ヴァスコが手配した密偵は下働きの少年で、毎朝俺の部屋の掃除に訪れる。そのときに小さな紙片を隠していくんだけど、毎回隠し場所が違うんだよ。探すのにひと苦労だし、書かれている内容はわりとどうでもいいことばかり。もしかして俺の暇つぶし用?
もう一人の密偵はキッチンメイドとして入り込んでいる。俺と直接の接触はないかけど、たまぁ~に、食事の中から紙片が出てくる。うっかり飲んじゃったらどうするの! しかも、その紙片の内容も「待て」の一択。
俺としては脱出作戦で華麗にこの屋敷から出て、あの黒蛇ちゃんを鼻で笑ってやりたいんだけど、なんで二人して俺の動きを止めるのかな? 若干、紙片のメモ書きから圧を感じて、逆らうのが怖い。ガクブル。
だから、俺は指示どおり待ってますよ。じっとしてますよ。ダイエットも停滞中ですよ。踏み台昇降と腹筋、スクワットしかできないからね。あ~あ、もう少しでスッキリボディを手に入れられるんだけど。腹肉が摘まめるのは、セシル君としてはアウトだろうなぁ。俺は柔らかいほうが好きだけど。
「ガウッ」
「なんだよ、リヒト。男は柔らかいのが好きなの。これは真理なの。そんな悲しそうな顔をするなよ。前の理人はガッチガチの鍛えた体だったけど、今のリヒトはもふもふで柔らかいだろう?」
ひょいと手を伸ばしてズーンと落ち込んでいるリヒトの体を抱き上げる。ふわっとした毛と温かい体に癒されるぅ。
はああぁぁぁぁぁぁっ。俺はいつまでここにいればいいんだろう。あれから、黒蛇ちゃんも姿を現さないし。俺はうんざりとした気持ちで嵌め殺しの窓辺へと近づく。せめて、ここから見える景色が海だったら……。こんな裏庭の芝じゃなくて、海だったら……。今からでも、海側の部屋に変えてくんないかな。
一人で行動したいと切実に思う。
大切な人が攫われた。しかも、攫った奴から、わけわからん手紙を貰った、持ってきた奴がオールポート伯爵家の騎士団長で、彼の裏切りに腹が立って切り捨ててやろうとしたら、王族でありセシルと顔見知りの第二王子に止められた。無視してバッサリと斬ってしまおうとしたら、王命が発令されてしまった。
「そんなに睨むなよっ。俺はお前たちのことを思って、あの使者の命を救ったんだぞ? お前が浅慮であのハリソン? って男を殺したら、セシルはすっげぇ怒ると俺は確信している」
……なんでこいつは王族のくせに、下っ端兵士のような口調なのだろう? ウェントブルック辺境伯領の騎士たちも荒事が多いせいか、普段はくだけた口調だが、なんで王子様のこいつが?
「……相変わらず、ぼんやりとした野郎だな、ルーカス。お前のその怜悧な美貌に騙される奴が多いけど、興味のないことはぼんやり野郎だと知られたら、百年の恋も一瞬で覚めるだろうな!」
「別にいい」
セシルが残れば、あとは別にいい。それは今も昔も変わらない。俺が欲するのはセシルだけ。地位も名誉も爵位もいらない。なのに……なぜセシルの解放の条件が、俺がウェントブルック辺境伯を継ぐことなんだ? 俺には立派な兄がいて、その兄がウェントブルック辺境伯なのだが……。
「ルーカス。お前、プレイステッド辺境伯家が……、ああいや、ラファエルの奴がお前にウェントブルック辺境伯を継ぐことを強要する意味がわかってないな?」
ダドリー殿下の言葉に俺はコクンと頷いた。……プレイステッド辺境伯の二番目の息子の顔もぼんやりとしている。そんな奴に執着される理由がわからない。
「……もういい。お前には戦力以外は期待しない。とにかく、今回のセシル誘拐は極秘中の極秘。絶対に周りに知られてないけない。いいな」
バシンと肩を強めに叩かれたが、痛くも痒くもない。むしろ第二王子であるダドリー殿下のひ弱さに驚く。そろそろ王位継承のスペアという役割を終える彼の脆弱さに、今後の彼の進路が危ぶまれる。
「お前さ……、失礼なこと考えているだろう? そういうところ、セシルと似ているよな。とにかく、俺とお前は少数の騎士を率いて、転移の魔道具でプレイステッド辺境伯領へ侵入する。だが、俺たちの敵はプレイステッド辺境伯ではない」
「プレイステッド辺境伯ではない?」
「そうだ。彼やプレイステッド辺境伯領は、今回のセシル誘拐には関わっていない。すべてはラファエルの単独犯行だ」
「……ラファエル?」
コテンと首を傾げた俺へ、冷たい視線を向けるとダドリー殿下は深いため息を吐いた。
すっかり不自由な生活にも慣れましたーっ! って、なんでだよっ。ダメじゃん、慣れたら……しかし人間は慣れる生き物だからなぁ。ゴロリとベッドに横になり、手持ち無沙汰に無理やり借りた冒険小説に目を流す。
だって……せっかくリヒトが俺を助けに遥々プレイステッド辺境伯領まで来たのに、ちびっこ狼で俺を物理的に助け出すのは無理だし。魔法をぶっ放せば脱出できるけど、この屋敷は全壊となり、下手したら怪我人が出てしまう。それはちょっと、小市民の俺には耐えられません……。
なので、正攻法の助けを待つことにしたら、既にこの屋敷にヴァスコが手配した密偵とイライアス様が手配した密偵が入りこんでいるとな! すっげぇ、あの二人の能力の高さ。それでは、脱出作戦をと腕まくりしたのに、密偵さん二人からの指示は「動くな」でした。しょんぼり。
ヴァスコが手配した密偵は下働きの少年で、毎朝俺の部屋の掃除に訪れる。そのときに小さな紙片を隠していくんだけど、毎回隠し場所が違うんだよ。探すのにひと苦労だし、書かれている内容はわりとどうでもいいことばかり。もしかして俺の暇つぶし用?
もう一人の密偵はキッチンメイドとして入り込んでいる。俺と直接の接触はないかけど、たまぁ~に、食事の中から紙片が出てくる。うっかり飲んじゃったらどうするの! しかも、その紙片の内容も「待て」の一択。
俺としては脱出作戦で華麗にこの屋敷から出て、あの黒蛇ちゃんを鼻で笑ってやりたいんだけど、なんで二人して俺の動きを止めるのかな? 若干、紙片のメモ書きから圧を感じて、逆らうのが怖い。ガクブル。
だから、俺は指示どおり待ってますよ。じっとしてますよ。ダイエットも停滞中ですよ。踏み台昇降と腹筋、スクワットしかできないからね。あ~あ、もう少しでスッキリボディを手に入れられるんだけど。腹肉が摘まめるのは、セシル君としてはアウトだろうなぁ。俺は柔らかいほうが好きだけど。
「ガウッ」
「なんだよ、リヒト。男は柔らかいのが好きなの。これは真理なの。そんな悲しそうな顔をするなよ。前の理人はガッチガチの鍛えた体だったけど、今のリヒトはもふもふで柔らかいだろう?」
ひょいと手を伸ばしてズーンと落ち込んでいるリヒトの体を抱き上げる。ふわっとした毛と温かい体に癒されるぅ。
はああぁぁぁぁぁぁっ。俺はいつまでここにいればいいんだろう。あれから、黒蛇ちゃんも姿を現さないし。俺はうんざりとした気持ちで嵌め殺しの窓辺へと近づく。せめて、ここから見える景色が海だったら……。こんな裏庭の芝じゃなくて、海だったら……。今からでも、海側の部屋に変えてくんないかな。
一人で行動したいと切実に思う。
大切な人が攫われた。しかも、攫った奴から、わけわからん手紙を貰った、持ってきた奴がオールポート伯爵家の騎士団長で、彼の裏切りに腹が立って切り捨ててやろうとしたら、王族でありセシルと顔見知りの第二王子に止められた。無視してバッサリと斬ってしまおうとしたら、王命が発令されてしまった。
「そんなに睨むなよっ。俺はお前たちのことを思って、あの使者の命を救ったんだぞ? お前が浅慮であのハリソン? って男を殺したら、セシルはすっげぇ怒ると俺は確信している」
……なんでこいつは王族のくせに、下っ端兵士のような口調なのだろう? ウェントブルック辺境伯領の騎士たちも荒事が多いせいか、普段はくだけた口調だが、なんで王子様のこいつが?
「……相変わらず、ぼんやりとした野郎だな、ルーカス。お前のその怜悧な美貌に騙される奴が多いけど、興味のないことはぼんやり野郎だと知られたら、百年の恋も一瞬で覚めるだろうな!」
「別にいい」
セシルが残れば、あとは別にいい。それは今も昔も変わらない。俺が欲するのはセシルだけ。地位も名誉も爵位もいらない。なのに……なぜセシルの解放の条件が、俺がウェントブルック辺境伯を継ぐことなんだ? 俺には立派な兄がいて、その兄がウェントブルック辺境伯なのだが……。
「ルーカス。お前、プレイステッド辺境伯家が……、ああいや、ラファエルの奴がお前にウェントブルック辺境伯を継ぐことを強要する意味がわかってないな?」
ダドリー殿下の言葉に俺はコクンと頷いた。……プレイステッド辺境伯の二番目の息子の顔もぼんやりとしている。そんな奴に執着される理由がわからない。
「……もういい。お前には戦力以外は期待しない。とにかく、今回のセシル誘拐は極秘中の極秘。絶対に周りに知られてないけない。いいな」
バシンと肩を強めに叩かれたが、痛くも痒くもない。むしろ第二王子であるダドリー殿下のひ弱さに驚く。そろそろ王位継承のスペアという役割を終える彼の脆弱さに、今後の彼の進路が危ぶまれる。
「お前さ……、失礼なこと考えているだろう? そういうところ、セシルと似ているよな。とにかく、俺とお前は少数の騎士を率いて、転移の魔道具でプレイステッド辺境伯領へ侵入する。だが、俺たちの敵はプレイステッド辺境伯ではない」
「プレイステッド辺境伯ではない?」
「そうだ。彼やプレイステッド辺境伯領は、今回のセシル誘拐には関わっていない。すべてはラファエルの単独犯行だ」
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