83 / 234
領地経営編②
領主、天才針子の過去を知る
しおりを挟む
とにかく落ち着いて話をしましょうと、店内の奥に入れてもらうことにした。
イライアス様が監督しライオネルのこだわりが詰まった店はとてもセンスがよく、キレイとかわいいが溢れた商品で埋められている。
むむっ、白豚にはちと敷居が高い店だな。
案内された接客室……つまり高貴な方専用の個室は、白くて曲線を強調した調度品に囲まれており、白とピンクのカーテンには金糸で花の刺繍が施され、毛足の長い絨緞はベージュと白の市松模様。
かあーっ、落ち着かねぇ。ケツがもぞもぞする。
「すみません、セシル様。ライオネルさんはとっても人見知りで内気な方ですので、私が代わりにご説明します」
ケイシーさんがキリリッとした表情で、こちらを見据える。
こ、怖いんだけどおおおおおぉぉぉっ。
この店の店主であるライオネルは、高い背を屈めてお茶の支度をしているので、ディーンが慌ててヘルプに行った。
俺の隣にシャーロットちゃんがちょこんと猫足ソファーに座る。大丈夫? 白豚と天使が座って華奢な猫足が折れたりしない?
「コホン。改めてこちらが王家御用達デザイナーイライアス様の秘蔵っ子。天才針子のライオネル氏です」
ん? なんかすごい紹介だったな。手でも叩いておくか? パチパチパチ。
釣られてシャーロットちゃんも控え目にパチパチパチ。
「そっ……そんな、て、てててて、天才だ、なんて……そんな……」
あー、会話が進まない。どうしてこの人はこんなにビビッてるんだ? あれか貴族とか白豚とか関係なしで極度の人見知りなのか?
そんなに人とコミュニケーション取れなくて接客は大丈夫?
俺の不安な心情が顔に出ていたのか、ライオネルはしょんぼりと眉を下げて泣きそうな顔になる。
「セシル様。ライオネル氏の腕はたしかなのです! どうか、見捨てないであげてください」
「ケイシーさんがそこまで惚れ込んでいるのに邪険にはしないよ。シャーロットちゃんも彼が作った服が大好きだしね」
俺の言葉に横に座るシャーロットちゃんが、頭がもげそうなほどの勢いで頷いている。
「あ……。そ、そのワンピース。とっても……お、お似合いです。シャ……シャーロット様」
ほわっと頬を紅色に染めて、うちの天使を褒める挙動不審な天才針子ライオネル。シャーロットちゃんの可憐さがわかるのは素晴らしい慧眼だが、疚しい気持ちがあったらギルティだ!
「あ……ありがとう、ごさいます」
消えそうな声でお礼を言うシャーロットちゃん。あ、うちの子も人見知りだったわ。主にセシル君のせいで。
「セシル様。ライオネル氏がこのような恰好をしているのにも事情があるのです!」
「は? このようなって、ええ? 好きで着ているんじゃないの? このドレス」
俺がなんちゃらの国のなんちゃらみたいなエプロンドレスを指差すと、ライオネルは顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
「だから、事情があるんですっ」
ギロッとケイシーさんに睨まれて、俺はすうーっと指をおろした。
あれ? 俺って白豚だけど伯爵様だよね? 俺って偉いんだよね?
ケイシーさんの話はちょっと重かった。
ライオネルはただの女装っ子ではなかった。
この世界、俺も知ったときはびっくりしたけど、女性の数が圧倒的に少ない……あれ? 俺の周りには結構いるけど?
「そうですね。女性は大事にされますから教育もしっかりと受けられます。そのため私のように文官試験を受け働くことができたり、貴族のお屋敷で上級使用人として雇用されることも多いです。正直……リタやヘレンのような子が珍しいのです」
どうも、少ないから田舎の農村などでは、女の子は囲われて外には出れないことが多いそうです。そりゃ、いくら男でも神に祈れば身ごもれるとは言ってもねぇ、女性がいない地域の出生率は少ないみたいだし。
だから、女性が多そうな職場、つまり針子の職場にも男性は多く、ライオネルも実家が古着屋だったからか幼いときから針を持ち、チクチクと縫物をしていた。
そして、その技能がとび抜けて凄かった……らしい。
驚いた母たちは、有名なサロンにライオネルを押し込んで輝かしい未来を夢見ていたが……彼には致命的な欠点があった。
「ど、どうしても……ひ、人と話す……に、苦手……で……」
ああ、もう! 声が小さいよっ! ただ話しているだけなのに、号泣したあとの掠れ声みたいでいたたまれない気持ちになるぜ。
話すのが苦手でオドオドしていた背ばかりが高い少年は、サロンでの接客を禁止され日々繕いものをするだけ。どんなに憧れてもドレスはおろか飾りのレースや刺繍さえもさせてはもらえなかった。
このまま、職人たちの繕いものだけをする毎日で終わるのかと絶望していたころ、サロンに立ち寄ったイライアス様によって引き抜かれる。
「そしてイライアス様はライオネル氏にドレスをお召しになることを勧められたのです!」
「え……なんで?」
「それは……女性相手の苦手意識が少しでも軽減されるようにとのイライアス様のお考えです!」
嘘だな。
あの人、絶対に面白がってライオネルにドレスを着せたに違いない。
しかし、俺は口を噤んだ。バカ正直にドレスを着て必死に苦手な接客に挑んでいるライオネルに敬意を表して。
別に、俺も「おもしれー」とか思ってないよ。ホントだよ?
イライアス様が監督しライオネルのこだわりが詰まった店はとてもセンスがよく、キレイとかわいいが溢れた商品で埋められている。
むむっ、白豚にはちと敷居が高い店だな。
案内された接客室……つまり高貴な方専用の個室は、白くて曲線を強調した調度品に囲まれており、白とピンクのカーテンには金糸で花の刺繍が施され、毛足の長い絨緞はベージュと白の市松模様。
かあーっ、落ち着かねぇ。ケツがもぞもぞする。
「すみません、セシル様。ライオネルさんはとっても人見知りで内気な方ですので、私が代わりにご説明します」
ケイシーさんがキリリッとした表情で、こちらを見据える。
こ、怖いんだけどおおおおおぉぉぉっ。
この店の店主であるライオネルは、高い背を屈めてお茶の支度をしているので、ディーンが慌ててヘルプに行った。
俺の隣にシャーロットちゃんがちょこんと猫足ソファーに座る。大丈夫? 白豚と天使が座って華奢な猫足が折れたりしない?
「コホン。改めてこちらが王家御用達デザイナーイライアス様の秘蔵っ子。天才針子のライオネル氏です」
ん? なんかすごい紹介だったな。手でも叩いておくか? パチパチパチ。
釣られてシャーロットちゃんも控え目にパチパチパチ。
「そっ……そんな、て、てててて、天才だ、なんて……そんな……」
あー、会話が進まない。どうしてこの人はこんなにビビッてるんだ? あれか貴族とか白豚とか関係なしで極度の人見知りなのか?
そんなに人とコミュニケーション取れなくて接客は大丈夫?
俺の不安な心情が顔に出ていたのか、ライオネルはしょんぼりと眉を下げて泣きそうな顔になる。
「セシル様。ライオネル氏の腕はたしかなのです! どうか、見捨てないであげてください」
「ケイシーさんがそこまで惚れ込んでいるのに邪険にはしないよ。シャーロットちゃんも彼が作った服が大好きだしね」
俺の言葉に横に座るシャーロットちゃんが、頭がもげそうなほどの勢いで頷いている。
「あ……。そ、そのワンピース。とっても……お、お似合いです。シャ……シャーロット様」
ほわっと頬を紅色に染めて、うちの天使を褒める挙動不審な天才針子ライオネル。シャーロットちゃんの可憐さがわかるのは素晴らしい慧眼だが、疚しい気持ちがあったらギルティだ!
「あ……ありがとう、ごさいます」
消えそうな声でお礼を言うシャーロットちゃん。あ、うちの子も人見知りだったわ。主にセシル君のせいで。
「セシル様。ライオネル氏がこのような恰好をしているのにも事情があるのです!」
「は? このようなって、ええ? 好きで着ているんじゃないの? このドレス」
俺がなんちゃらの国のなんちゃらみたいなエプロンドレスを指差すと、ライオネルは顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
「だから、事情があるんですっ」
ギロッとケイシーさんに睨まれて、俺はすうーっと指をおろした。
あれ? 俺って白豚だけど伯爵様だよね? 俺って偉いんだよね?
ケイシーさんの話はちょっと重かった。
ライオネルはただの女装っ子ではなかった。
この世界、俺も知ったときはびっくりしたけど、女性の数が圧倒的に少ない……あれ? 俺の周りには結構いるけど?
「そうですね。女性は大事にされますから教育もしっかりと受けられます。そのため私のように文官試験を受け働くことができたり、貴族のお屋敷で上級使用人として雇用されることも多いです。正直……リタやヘレンのような子が珍しいのです」
どうも、少ないから田舎の農村などでは、女の子は囲われて外には出れないことが多いそうです。そりゃ、いくら男でも神に祈れば身ごもれるとは言ってもねぇ、女性がいない地域の出生率は少ないみたいだし。
だから、女性が多そうな職場、つまり針子の職場にも男性は多く、ライオネルも実家が古着屋だったからか幼いときから針を持ち、チクチクと縫物をしていた。
そして、その技能がとび抜けて凄かった……らしい。
驚いた母たちは、有名なサロンにライオネルを押し込んで輝かしい未来を夢見ていたが……彼には致命的な欠点があった。
「ど、どうしても……ひ、人と話す……に、苦手……で……」
ああ、もう! 声が小さいよっ! ただ話しているだけなのに、号泣したあとの掠れ声みたいでいたたまれない気持ちになるぜ。
話すのが苦手でオドオドしていた背ばかりが高い少年は、サロンでの接客を禁止され日々繕いものをするだけ。どんなに憧れてもドレスはおろか飾りのレースや刺繍さえもさせてはもらえなかった。
このまま、職人たちの繕いものだけをする毎日で終わるのかと絶望していたころ、サロンに立ち寄ったイライアス様によって引き抜かれる。
「そしてイライアス様はライオネル氏にドレスをお召しになることを勧められたのです!」
「え……なんで?」
「それは……女性相手の苦手意識が少しでも軽減されるようにとのイライアス様のお考えです!」
嘘だな。
あの人、絶対に面白がってライオネルにドレスを着せたに違いない。
しかし、俺は口を噤んだ。バカ正直にドレスを着て必死に苦手な接客に挑んでいるライオネルに敬意を表して。
別に、俺も「おもしれー」とか思ってないよ。ホントだよ?
672
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜
なの
BL
社畜として働き詰め、過労死した結城智也。次に目覚めたのは、獣人だらけの辺境村だった。
藁葺き屋根、素朴な食事、狼獣人のイケメンに介抱されて、気づけば賢者としてのチート能力まで付与済み!?
「静かに暮らしたいだけなんですけど!?」
……そんな願いも虚しく、井戸掘り、畑改良、魔法インフラ整備に巻き込まれていく。
スローライフ(のはず)なのに、なぜか労働が止まらない。
それでも、優しい獣人たちとの日々に、心が少しずつほどけていく……。
チート×獣耳×ほの甘BL。
転生先、意外と住み心地いいかもしれない。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる