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恋愛編① 冬ごもり
セシル、仮装……はしていない
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き、気まずぅぅぅぅぅぅぅっ。
俺は俯き、ひたすらカップに注がれた茶を啜る。前に座るは王都から無事に帰還した我が兄上と愛娘。隣に座るのは王国騎士団副団長ルーカス・ウェントブルック。セシル君の元カレ。
ん? 座る並びがおかしくないか? なんで、お前が俺の隣に座ってんだよっ。
ギリギリと歯を鳴らしてルーカスの面を睨むけど、奴は涼しい顔で兄上と歓談してやがる。
兄上もザ・社交辞令のオンパレードで、本当はルーカスよりも俺の膝の上でカジカジと干し肉を齧っているリヒトに興味津々だ。兄上、かわいいモン好きだものね。もふもふしたくて、さっきから右手がワキワキ動いているのは、見なかったことにしてあげよう。だから、ルーカスを説得してこの屋敷から追い出してください!
「お父様。ヴァゼーレでは危ないことはなかったのですか?」
胸の前で両手を組み合わせ、コテンと首を傾げて問いかけてくるシャーロットちゃんのあざとさよ……。でも知っている。俺、知っている。この子、無意識なの。天然ものなの。はぁぁぁぁぁぁぁっ、かわいい!
「大丈夫だよ。魔獣の狼は話が通じて、最終的にはヴァゼーレを守る神獣扱いになったから。春の社交シーズンが過ぎたらヴァゼーレに一緒に行こうね」
冬ごもりのあとは春の社交シーズンの準備に入るし、父上が突貫工事で整備するといっても、三ヶ月ぐらいで町全部を整えられるわけもない。来年の春の終わりごろにシャーロットちゃんを連れてヴァゼーレに行くのが、タイミング的にバッチリだと思う。
「はい。楽しみにしています」
にっこり笑顔のシャーロットちゃんも、目は俺の膝の上の毛玉に釘付けだ。モテモテだなリヒト。ま……お前はシャーロットちゃんが俺の娘だと知ったとき、愕然とした表情で口から食べていた肉の塊を零していたが。俺もまさか、理人より先に結婚して子どもができるとは思わなかったよ……って、拓海じゃなくてセシル君のことだけど。
「その頃、都合がつけば私も行こう。トレヴァーも連れて行きたいが、いいか?」
「はい。イライアス様もどうぞご一緒に」
父上はシャーロットちゃんに蟠りがあるみたいだが、兄上はシャーロットちゃんに対して、とても親切で紳士に接してくれる。さすが、兄上! やっぱり、兄上は頼りになります!
「王都ではシャーロットのことも気にかけてくださり、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、兄上は目を優しく細めて俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。本当はリヒトをわしゃわしゃしたいのだろう。その代役を甘んじて受けとめます。
「シャーロットは王都で立派に伯爵代理を務めていたよ。褒めてあげなさい」
「はい」
わーい! シャーロットちゃんが褒められたーっ! 俺もあとでいーっぱい褒めよう!
「父上もすぐにシャーロットのことを受け入れよう。いつまでも片意地は張ってられないさ。シャーロットは我らが愛するハーディング家の天使、セシルの娘なんだからね」
「……は、ははは、ハハハ」
乾いた笑いが出ちゃう。どうして、この白豚に成り果てた姿をした弟を見て「天使」というワードが出てくるのか……。兄上、さてはブラコン重症者だな? うん、知ってた。
「……愛するセシルの娘……シャーロット嬢は、セシルの子ども」
「なに、呟いてんだ? シャーロットちゃんは俺の娘だと言っただろうが」
どうした、ルーカス? 頭が沸いたか? なら、王都へ帰れ。帰って医者に頭を診てもらえ。
ルーカスは頭をブルルッと振ると、爽やかな笑顔をシャーロットちゃんに向けた。
「そうですね、貴女はセシルが愛する娘だ。なら……俺にとっても大事な人だ。これからもよろしく」
サッと手を差し出すと、戸惑うシャーロットちゃんの手を握りくるりと向きを変え、その白い手の甲にチュッとリップ音。おい、てめえ! なにしてやがるっ。
「は……はい、よろしくお願いします」
ポッと頬をピンクに染めたシャーロットちゃんに俺の顎が外れるかと思ったわ! くっそう、シャーロットちゃんに手を出したら絶対に許さんぞ!
明日は冬まつり当日。今夜は屋敷に泊っていけば? と兄上を誘ったら、家族で冬まつりを迎える約束をしていると笑顔で帰られていった。ありがとう、兄上! でも分厚い報告書はいらんかった! ベンジャミンが両手に捧げ持ち俺に目を通すように迫ってくるようううぅぅっ。
シャーロットちゃんはライオネルが作った冬まつり用のドレスとコートの試着中。マリーとライラでサイズ直しをしてくれるそうだ。晩餐のデザートにはトビー作のレアチーズケーキが出て、満面の笑顔で頬張っていた。うんうん、たんとお食べ。
そうして、迎えた冬まつり当日。領都クレモナでは賑やかに始まっているお祭りだが、領主である俺は夕方から参加。一足先にシャーロットちゃんは領都へ行っている。孤児院への奉仕やホテルでのイベントへの参加など、地道な努力が花咲き、シャーロットちゃんの悪役令嬢という悪評は聞こえなくなった。今頃、仲良くなった孤児たちとシスターと冬まつりを楽しんでいるだろう。
「さて、俺たちもでかけるか」
ようやく報告書を読み終わったと思ったら、ラスキン博士から「魔獣研究所に関する提案書」が届きやがった。目を通してダメな箇所を赤字で直し送り返してやったわ。
「……セシル様。もしかして仮装ですか?」
「なにバカなことを言ってんだ、ディーン?」
俺はライオネルが用意した白い毛皮のフワフワコートで防寒しているが、どこが仮装なんだよ?
「だって、クラークに描いて渡した雪だるまにそっくりですよ?」
うがーっ! ちがう、ちがうわっ!
今年の冬は白豚から雪だるま伯爵へとモデルチェンジした俺でした……って、ちがうわああああぁぁぁぁっ!
俺は俯き、ひたすらカップに注がれた茶を啜る。前に座るは王都から無事に帰還した我が兄上と愛娘。隣に座るのは王国騎士団副団長ルーカス・ウェントブルック。セシル君の元カレ。
ん? 座る並びがおかしくないか? なんで、お前が俺の隣に座ってんだよっ。
ギリギリと歯を鳴らしてルーカスの面を睨むけど、奴は涼しい顔で兄上と歓談してやがる。
兄上もザ・社交辞令のオンパレードで、本当はルーカスよりも俺の膝の上でカジカジと干し肉を齧っているリヒトに興味津々だ。兄上、かわいいモン好きだものね。もふもふしたくて、さっきから右手がワキワキ動いているのは、見なかったことにしてあげよう。だから、ルーカスを説得してこの屋敷から追い出してください!
「お父様。ヴァゼーレでは危ないことはなかったのですか?」
胸の前で両手を組み合わせ、コテンと首を傾げて問いかけてくるシャーロットちゃんのあざとさよ……。でも知っている。俺、知っている。この子、無意識なの。天然ものなの。はぁぁぁぁぁぁぁっ、かわいい!
「大丈夫だよ。魔獣の狼は話が通じて、最終的にはヴァゼーレを守る神獣扱いになったから。春の社交シーズンが過ぎたらヴァゼーレに一緒に行こうね」
冬ごもりのあとは春の社交シーズンの準備に入るし、父上が突貫工事で整備するといっても、三ヶ月ぐらいで町全部を整えられるわけもない。来年の春の終わりごろにシャーロットちゃんを連れてヴァゼーレに行くのが、タイミング的にバッチリだと思う。
「はい。楽しみにしています」
にっこり笑顔のシャーロットちゃんも、目は俺の膝の上の毛玉に釘付けだ。モテモテだなリヒト。ま……お前はシャーロットちゃんが俺の娘だと知ったとき、愕然とした表情で口から食べていた肉の塊を零していたが。俺もまさか、理人より先に結婚して子どもができるとは思わなかったよ……って、拓海じゃなくてセシル君のことだけど。
「その頃、都合がつけば私も行こう。トレヴァーも連れて行きたいが、いいか?」
「はい。イライアス様もどうぞご一緒に」
父上はシャーロットちゃんに蟠りがあるみたいだが、兄上はシャーロットちゃんに対して、とても親切で紳士に接してくれる。さすが、兄上! やっぱり、兄上は頼りになります!
「王都ではシャーロットのことも気にかけてくださり、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、兄上は目を優しく細めて俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。本当はリヒトをわしゃわしゃしたいのだろう。その代役を甘んじて受けとめます。
「シャーロットは王都で立派に伯爵代理を務めていたよ。褒めてあげなさい」
「はい」
わーい! シャーロットちゃんが褒められたーっ! 俺もあとでいーっぱい褒めよう!
「父上もすぐにシャーロットのことを受け入れよう。いつまでも片意地は張ってられないさ。シャーロットは我らが愛するハーディング家の天使、セシルの娘なんだからね」
「……は、ははは、ハハハ」
乾いた笑いが出ちゃう。どうして、この白豚に成り果てた姿をした弟を見て「天使」というワードが出てくるのか……。兄上、さてはブラコン重症者だな? うん、知ってた。
「……愛するセシルの娘……シャーロット嬢は、セシルの子ども」
「なに、呟いてんだ? シャーロットちゃんは俺の娘だと言っただろうが」
どうした、ルーカス? 頭が沸いたか? なら、王都へ帰れ。帰って医者に頭を診てもらえ。
ルーカスは頭をブルルッと振ると、爽やかな笑顔をシャーロットちゃんに向けた。
「そうですね、貴女はセシルが愛する娘だ。なら……俺にとっても大事な人だ。これからもよろしく」
サッと手を差し出すと、戸惑うシャーロットちゃんの手を握りくるりと向きを変え、その白い手の甲にチュッとリップ音。おい、てめえ! なにしてやがるっ。
「は……はい、よろしくお願いします」
ポッと頬をピンクに染めたシャーロットちゃんに俺の顎が外れるかと思ったわ! くっそう、シャーロットちゃんに手を出したら絶対に許さんぞ!
明日は冬まつり当日。今夜は屋敷に泊っていけば? と兄上を誘ったら、家族で冬まつりを迎える約束をしていると笑顔で帰られていった。ありがとう、兄上! でも分厚い報告書はいらんかった! ベンジャミンが両手に捧げ持ち俺に目を通すように迫ってくるようううぅぅっ。
シャーロットちゃんはライオネルが作った冬まつり用のドレスとコートの試着中。マリーとライラでサイズ直しをしてくれるそうだ。晩餐のデザートにはトビー作のレアチーズケーキが出て、満面の笑顔で頬張っていた。うんうん、たんとお食べ。
そうして、迎えた冬まつり当日。領都クレモナでは賑やかに始まっているお祭りだが、領主である俺は夕方から参加。一足先にシャーロットちゃんは領都へ行っている。孤児院への奉仕やホテルでのイベントへの参加など、地道な努力が花咲き、シャーロットちゃんの悪役令嬢という悪評は聞こえなくなった。今頃、仲良くなった孤児たちとシスターと冬まつりを楽しんでいるだろう。
「さて、俺たちもでかけるか」
ようやく報告書を読み終わったと思ったら、ラスキン博士から「魔獣研究所に関する提案書」が届きやがった。目を通してダメな箇所を赤字で直し送り返してやったわ。
「……セシル様。もしかして仮装ですか?」
「なにバカなことを言ってんだ、ディーン?」
俺はライオネルが用意した白い毛皮のフワフワコートで防寒しているが、どこが仮装なんだよ?
「だって、クラークに描いて渡した雪だるまにそっくりですよ?」
うがーっ! ちがう、ちがうわっ!
今年の冬は白豚から雪だるま伯爵へとモデルチェンジした俺でした……って、ちがうわああああぁぁぁぁっ!
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ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
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