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逃げても無駄
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「!?」
背後から聞こえる声に振り返って、ギョ! と目を見開く。
突き飛ばした筈のセレナが、すぐ近くまで追いついて来ていたのだ。
ドレスをものともしない、風のような早さでセレナは私を追っている。巨体の顔にある小さい目が、絶対に逃がすものか、と騙っている。
あ、あんなデブなのに、どうして早いんだ!? と思うと同時に先程の公爵の言葉が頭に浮かんだ。
――娘は貴方様を離しはしない、貴方様がではなく、娘の方が離さないのです。……そう、どんな事があろうと。
セレナは……私の愛するセレナは、私を愛するが故に、狂気に走った。
あの言葉の意味は、そういう事だったのだ。
な、なら公爵もあんまりだろう! このような事態になるのなら何故面会を許可した?
私は王太子! この国の次期王なのだぞ! 娘が可愛かろうが私を優先するべきだろう!!
だがそんな悪態を吐く余裕はない。頭を絞めているのは恐怖心だけだ。
「はあ、はあ……っ」
何とか屋敷の外に出て、庭園の影に身を潜ませていた。大きな植え込みの影に身を潜め、疲れた体を休ませる。
セレナを何とか巻いたが……ここから馬車のある処まで人目を避けて進まねばならない。使用人が助けてくれると思っていたのに奴らは私を見ても
「まあお嬢様! 王太子殿下と寄りを戻されたのですね!」
「鬼ごっこですか? 微笑ましいですわ……!」
「我々も負けられませんね! よっお2人さん♪」
「こら、おめでたい事でも止めなさい、不敬でしょ?』
と、何やら微笑ましい笑顔で会話するだけで、丸っきり私を救おうとしなかった。
どうなっているのだ、公爵家は? ――と言うかこの屋敷、こんなに複雑だったか?
セレナの婚約者として幼い頃から良く来ていたから、ある程度構造は把握している。ただ帰り道を行けばいい筈なのに、来た筈の廊下がなかったりエントランスに向かっていたのがいつの間にか元の場所に戻っていたり……。
「おんやぁー? こげなトコに人がいっだよ」
頭上から声が振ってくる。
ハッと顔を上げると、白髪頭でシワだらけの老人がいた。前掛けと長靴を身につけているから庭師だろう。
「だ、黙っていろ! 隠れてるんだ」
焦りつつ小声で言うが、庭師は首を傾げ手の平を耳にかざし、こちらに向ける。
「はぁー?」
「! お、大声を出すな! 気付かれるだろう……!」
だがヤツはそれも分からないようで、
「はぁぁー!?」
大声で聞き返してくる。……ちっ、耳が遠いのか!
「だから! 黙っていろと!!」
「見つけましたわ、殿下!!」
「おんやぁ、お嬢様かぁ?」
「ぴゃああ!!」
邸内から、セレナにロックオンされてしまった。
しまった! つい苛ついて大声が……!!
巨体が私めがけて突進してくる。私ははね上がるようにして起き上がり、こちらに弾丸のように突進してくるデブ……じゃない! セレナを、すんでの所で避けた。
そして……。
「た、助けてくれぇええええ!!」
叫びながら逃げた。
「どうなさいました殿下? まだずいぶんと早いですが……」
もはや体力を搾り取られた体でやっと馬車の前に来た私を、馭者が呑気に出迎える。
「逃げ……いや、城へ戻るぞ、今すぐ!!」
「? は、はい」
必死に訴える私に目を丸くしつつも、用意してくれる様にホッとする。
――私にも、味方がいたのだな。
「? 取りあえずお乗り下さい」
こうしている間にも忌まわしい足音が……近付いてくる!
ダダダダダ!
というか……ずっと走り続ける程の体力が、どこから湧いてくる!?
男の私でもヘトヘトだと言うのに!
……悪鬼だ。
ゾクリ、と背筋が冷たくなる。
セレナは……悪鬼に取り憑かれたのだ……。
ならば……私が逃げるのは正しい。私が結ばれたいのは淑女の鑑である、公爵令嬢のセレナだ。悪鬼ではない。逃走する私は正しい。
「殿下! お待ちになってぇ~! わたくし達は結ばれるしかないのですよ~!!」
「ひいっ! は、早く行ってくれぇー!!」
「?……承知いたしました」
私が乗り込んだと同時に、馬車が走り出す。
セレナの『殿下ぁ!』という声を遠くに感じ、ふーっと息をついた。
……助かった……!
背後から聞こえる声に振り返って、ギョ! と目を見開く。
突き飛ばした筈のセレナが、すぐ近くまで追いついて来ていたのだ。
ドレスをものともしない、風のような早さでセレナは私を追っている。巨体の顔にある小さい目が、絶対に逃がすものか、と騙っている。
あ、あんなデブなのに、どうして早いんだ!? と思うと同時に先程の公爵の言葉が頭に浮かんだ。
――娘は貴方様を離しはしない、貴方様がではなく、娘の方が離さないのです。……そう、どんな事があろうと。
セレナは……私の愛するセレナは、私を愛するが故に、狂気に走った。
あの言葉の意味は、そういう事だったのだ。
な、なら公爵もあんまりだろう! このような事態になるのなら何故面会を許可した?
私は王太子! この国の次期王なのだぞ! 娘が可愛かろうが私を優先するべきだろう!!
だがそんな悪態を吐く余裕はない。頭を絞めているのは恐怖心だけだ。
「はあ、はあ……っ」
何とか屋敷の外に出て、庭園の影に身を潜ませていた。大きな植え込みの影に身を潜め、疲れた体を休ませる。
セレナを何とか巻いたが……ここから馬車のある処まで人目を避けて進まねばならない。使用人が助けてくれると思っていたのに奴らは私を見ても
「まあお嬢様! 王太子殿下と寄りを戻されたのですね!」
「鬼ごっこですか? 微笑ましいですわ……!」
「我々も負けられませんね! よっお2人さん♪」
「こら、おめでたい事でも止めなさい、不敬でしょ?』
と、何やら微笑ましい笑顔で会話するだけで、丸っきり私を救おうとしなかった。
どうなっているのだ、公爵家は? ――と言うかこの屋敷、こんなに複雑だったか?
セレナの婚約者として幼い頃から良く来ていたから、ある程度構造は把握している。ただ帰り道を行けばいい筈なのに、来た筈の廊下がなかったりエントランスに向かっていたのがいつの間にか元の場所に戻っていたり……。
「おんやぁー? こげなトコに人がいっだよ」
頭上から声が振ってくる。
ハッと顔を上げると、白髪頭でシワだらけの老人がいた。前掛けと長靴を身につけているから庭師だろう。
「だ、黙っていろ! 隠れてるんだ」
焦りつつ小声で言うが、庭師は首を傾げ手の平を耳にかざし、こちらに向ける。
「はぁー?」
「! お、大声を出すな! 気付かれるだろう……!」
だがヤツはそれも分からないようで、
「はぁぁー!?」
大声で聞き返してくる。……ちっ、耳が遠いのか!
「だから! 黙っていろと!!」
「見つけましたわ、殿下!!」
「おんやぁ、お嬢様かぁ?」
「ぴゃああ!!」
邸内から、セレナにロックオンされてしまった。
しまった! つい苛ついて大声が……!!
巨体が私めがけて突進してくる。私ははね上がるようにして起き上がり、こちらに弾丸のように突進してくるデブ……じゃない! セレナを、すんでの所で避けた。
そして……。
「た、助けてくれぇええええ!!」
叫びながら逃げた。
「どうなさいました殿下? まだずいぶんと早いですが……」
もはや体力を搾り取られた体でやっと馬車の前に来た私を、馭者が呑気に出迎える。
「逃げ……いや、城へ戻るぞ、今すぐ!!」
「? は、はい」
必死に訴える私に目を丸くしつつも、用意してくれる様にホッとする。
――私にも、味方がいたのだな。
「? 取りあえずお乗り下さい」
こうしている間にも忌まわしい足音が……近付いてくる!
ダダダダダ!
というか……ずっと走り続ける程の体力が、どこから湧いてくる!?
男の私でもヘトヘトだと言うのに!
……悪鬼だ。
ゾクリ、と背筋が冷たくなる。
セレナは……悪鬼に取り憑かれたのだ……。
ならば……私が逃げるのは正しい。私が結ばれたいのは淑女の鑑である、公爵令嬢のセレナだ。悪鬼ではない。逃走する私は正しい。
「殿下! お待ちになってぇ~! わたくし達は結ばれるしかないのですよ~!!」
「ひいっ! は、早く行ってくれぇー!!」
「?……承知いたしました」
私が乗り込んだと同時に、馬車が走り出す。
セレナの『殿下ぁ!』という声を遠くに感じ、ふーっと息をついた。
……助かった……!
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