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王太子、辞めます
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「父上、母上!」
「今は謁見中だぞ、国王と言いなさい」
「どうしたのです? 貴方は今日、セレナ・スタン嬢に会いに行ったのでは」
重鎮もいる謁見の間に、涙と汗でぐしょ濡れなまま飛び込んできた私を、両親は眉をひそめてたしなめてくる。
「わわ、私が愚かでした!! 私ではセレナをどうすることも出来ません!! 婚約破棄撤回はなかったことにと、公爵に伝えて下さい!!」
「セレナ嬢に会って、そう思ったのだな」
「あああああ、あれはセレナではありません! 悪鬼です、悪鬼に取り憑かれたのです」
2人も悪鬼を妃にしろなどとは言わないはず。
しかし彼らはなおも言う。
「だが、その原因を作ったのはそなただ」
「今更婚約破棄撤回からの撤回など、もっての外です。言った筈です。“次はない”と」
一向に考えを変えない様子に、私は内心舌打ちした。……今回は本当に、本気らしい。
息子の私が言うのも何だが、両親は揃ってかなりの優柔不断だ。ルルとの婚約が通ったのも私が“ダメなら王位継承権を放棄する”とごねたからだ。
そんな人達だから、ちょっとごねるだけで案外要求は通るのだ。それがこの調子とは。
でも人の本質はそう、変わらないはずだ。と気を取り直し、説得を続ける。
「私は王太子です、世継ぎを作らねばなりません。ですが今のセレナにその気がおきな……ゴ、ゴホゴホッ! た、体格的に、無理があると思います。彼女もこんな脆弱な私よりもふさわしい男がいるでしょう!」
無理はないはず。そう願いながらチラ、と両親を見るとやはり、いつもの困ったような様子に戻っている。
「貴方がそこまで言うなら、答えてあげたい気はしますが……」
やった! いけそうだ。
「ですが……理解して? 私達は国王と王妃。貴方は王太子、お互いに国を支え、民を守る責任ある立場です。故に貴方が王太子である限り、撤回などはありえません。王太子である限りは!!」
涙混じりに悲痛な声で、私の意思を撥ね除けようとする。
そうか……母上も本心では、私の味方でいたいのか、でも王族だから出来ない、と。
しかし、ならば話は早い。私は笑いそうになるのをどうにか堪え、苦痛を耐える表情を作って宣言した。
「承知しました。私は本日より、王太子の位を返上します」
「……よく決意しました。さ、この書類にサインを。そして貴方には今日から、セドリックの替りに親善大使として隣国に渡りなさい。そしてほとぼりがさめるまで帰国する事を禁じます。」
差し出される書類に、順々にサインをしていく。
セドリックは私の弟だ。つまり王太子の地位は弟に譲られると言うことだ。確かに教育するなら早い方が良い。
そして私は大使として隣国へ行き、当分帰れない。そんなことであの悪鬼から逃れられるなら安いものだ!
「では王子、親善大使として役目を果たしてきなさい」
父上、いや国王陛下の力強い声に応えるように私も背筋を伸ばし、胸に手を当て臣下の礼を取った。
「はっ! 必ずやご期待に添えて見せます」
そして弟の替りに馬車に乗り、港に向かった。馬車の中で、セレナが追いかけて来るのではとビクビクしていたが、何とか船に乗ることが出来た。
船窓から、小さくなる国を見つめる。
セレナ……弱い私を許してくれ。いや、大丈夫だな。
今は少しキモ……いや、心を病んでいるが、元々は優しい君のことだ。
時が経ち、傷心が癒えれば私を許してくれるに違いない。
私も隣国で、務めを果たそう。(以前の)君の事は忘れないよ――。
「今は謁見中だぞ、国王と言いなさい」
「どうしたのです? 貴方は今日、セレナ・スタン嬢に会いに行ったのでは」
重鎮もいる謁見の間に、涙と汗でぐしょ濡れなまま飛び込んできた私を、両親は眉をひそめてたしなめてくる。
「わわ、私が愚かでした!! 私ではセレナをどうすることも出来ません!! 婚約破棄撤回はなかったことにと、公爵に伝えて下さい!!」
「セレナ嬢に会って、そう思ったのだな」
「あああああ、あれはセレナではありません! 悪鬼です、悪鬼に取り憑かれたのです」
2人も悪鬼を妃にしろなどとは言わないはず。
しかし彼らはなおも言う。
「だが、その原因を作ったのはそなただ」
「今更婚約破棄撤回からの撤回など、もっての外です。言った筈です。“次はない”と」
一向に考えを変えない様子に、私は内心舌打ちした。……今回は本当に、本気らしい。
息子の私が言うのも何だが、両親は揃ってかなりの優柔不断だ。ルルとの婚約が通ったのも私が“ダメなら王位継承権を放棄する”とごねたからだ。
そんな人達だから、ちょっとごねるだけで案外要求は通るのだ。それがこの調子とは。
でも人の本質はそう、変わらないはずだ。と気を取り直し、説得を続ける。
「私は王太子です、世継ぎを作らねばなりません。ですが今のセレナにその気がおきな……ゴ、ゴホゴホッ! た、体格的に、無理があると思います。彼女もこんな脆弱な私よりもふさわしい男がいるでしょう!」
無理はないはず。そう願いながらチラ、と両親を見るとやはり、いつもの困ったような様子に戻っている。
「貴方がそこまで言うなら、答えてあげたい気はしますが……」
やった! いけそうだ。
「ですが……理解して? 私達は国王と王妃。貴方は王太子、お互いに国を支え、民を守る責任ある立場です。故に貴方が王太子である限り、撤回などはありえません。王太子である限りは!!」
涙混じりに悲痛な声で、私の意思を撥ね除けようとする。
そうか……母上も本心では、私の味方でいたいのか、でも王族だから出来ない、と。
しかし、ならば話は早い。私は笑いそうになるのをどうにか堪え、苦痛を耐える表情を作って宣言した。
「承知しました。私は本日より、王太子の位を返上します」
「……よく決意しました。さ、この書類にサインを。そして貴方には今日から、セドリックの替りに親善大使として隣国に渡りなさい。そしてほとぼりがさめるまで帰国する事を禁じます。」
差し出される書類に、順々にサインをしていく。
セドリックは私の弟だ。つまり王太子の地位は弟に譲られると言うことだ。確かに教育するなら早い方が良い。
そして私は大使として隣国へ行き、当分帰れない。そんなことであの悪鬼から逃れられるなら安いものだ!
「では王子、親善大使として役目を果たしてきなさい」
父上、いや国王陛下の力強い声に応えるように私も背筋を伸ばし、胸に手を当て臣下の礼を取った。
「はっ! 必ずやご期待に添えて見せます」
そして弟の替りに馬車に乗り、港に向かった。馬車の中で、セレナが追いかけて来るのではとビクビクしていたが、何とか船に乗ることが出来た。
船窓から、小さくなる国を見つめる。
セレナ……弱い私を許してくれ。いや、大丈夫だな。
今は少しキモ……いや、心を病んでいるが、元々は優しい君のことだ。
時が経ち、傷心が癒えれば私を許してくれるに違いない。
私も隣国で、務めを果たそう。(以前の)君の事は忘れないよ――。
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