【完結】王太子は元婚約者から逃走する

みけの

文字の大きさ
7 / 15

真相①

しおりを挟む
 一方、スタン公爵家では……。

「王宮からの報告です」
執事が神妙な顔で、公爵夫妻に一礼する。
 スタン公爵家の大広間。
そこにいるのは夫妻だけじゃない。長男のアンリとその妹のセレナもいる。
そして……公爵と交流のある者数人と、屋敷で働く使用人達。彼らは固唾を呑み、執事の言葉を待っている。
そんな彼らに執事は、気を持たせるような間を置いた後。
「殿下が王太子の地位を返上し、大使として旅立った……と」
少し口角を上げて、内容を告げた。


「…………」
誰もが直ぐに理解出来なかったのは、執事の表情から結果を読み取れなかったためだ。
 しかし誰も知らなかったが、彼はお茶目なところがあるらしい。困惑する彼らにニッと笑うことで、言葉の意味を告げた。

  我々は成功した、勝利したと。

 「………………や……」
プルプル震えるかすかな声は合図だったか。聞いた誰かが大声で叫んだ。

 「やったー!」

わぁぁー!! と、歓声があちこちから沸き起こる。腕を振り上げる者、ハイタッチする者。皆晴れ渡るような笑顔で、一つの喜びを分かち合う。
「あのアホ王太子を追い出せた!」
「これでもう心配ないわね!」
「やれたんだな、俺達でも……!」
「ああ! 公爵様方のお力になれた……やったんだ…!」
うれし涙を浮かべ口々に言い合うが、やがてその視線は、1人の人物に注がれる。
「……でも1番頑張ってくれたのは……」

「あなたですね!!」

 その場にいる全員の感謝は、1人の女性に向けられた。
――王太子の前で“セレナ”だった彼女に。

「い、いや私なんて……。皆で頑張ったからですよ……」
 

  実はこの令嬢、セレナではない。
彼女はシダー男爵家の令嬢でマリアンヌ。セレナとは遠縁の親戚だ。
が、血が薄いにも関わらず、彼女とセレナは幼少期、双子のようにそっくりだった。今は……髪の色と瞳の色くらいで、多少面影が残っているか程度。体格に至っては丸っきり違う。
公爵家と男爵家という立場の違いはあれど、領地が隣同士だったため家族ぐるみで仲が良かった。
そんな彼女が何故、セレナになりすましたかと言うと……。

 半月程前。
「こんにちは! 門番さん。マリアンヌ・シダーが訪ねて来たとお取り次ぎ願えますか? お野菜持ってきたから裏口回りますね」
荷馬車から降りたマリアンヌが、顔なじみの門番に話しかけた。
 “野菜の出来が良かったから、届けに行く”と数日前に頼りを出した。いつもなら使用人に行ってもらうのだが、彼は腰を痛めた祖母の看病をしなくてはならず、ならば私が、とマリアンヌが申し出たのだ。久しぶりに仲良しの少女の顔が見たかったのもある。
(セレナ、元気かな? お野菜喜んでくれるかな?)
 何か、王太子様の婚約者に選ばれたって聞いた。偉い人になったから、私とは話してくれないかな? ま、元気だったらそんなことはいいや。
 門番はマリアンヌに気付くと、厳つい顔をふっと綻ばせた。
「マリアンヌさんは、いつもお元気ですね……」
「えへへ、また貫禄がついた! ってよく言われるよ」
あははと笑ったついでに、お腹をパンパンと叩いてみせる。
 はしたないって言われそうだけど、自分には“貴族のオジョウサマ”らしさなんて必要がない。毎日畑を耕して牧場の牛や羊を育てる健康な体。太い腕も、大きくて丸まった手も、全てを守る為のものだ。
ここに来るまででも、私を見て“デブ”とか“豚”とかコソコソ言って笑ってる人がいたけど分からないんだね。
この体で、大切なものをたくさん守れているってことを。


 あれ?
そこでマリアンヌは気付いた。
「……? 門番さん、何か疲れていません?」
「い、いえ……自分は平気ですよ」
強がっていても声が疲れている。何かないか、とポシェットをごそごそして、ああこれをと小袋を出して手に持たせた。
「これドライフルーツ。良かったら食べてください」
お仕事中でもちょっとした合間に、口に入れられるし。
「あ、ありがと……ございます……!」
って、ええ!? ちょっと門番さん?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

ただの婚約破棄なんてため息しか出ませんわ

アキナヌカ
恋愛
私、ユディリーア・パヴォーネ・スカラバイオスは、金の髪に美しい蒼い瞳を持つ公爵令嬢だ。だが今は通っていた学園の最後になる記念の舞踏会、そこで暇を持て余して公爵令嬢であるのに壁の花となっていた。それもこれも私の婚約者である第一王子が私を放っておいたからだった、そして遅れてやってきたヴァイン様は私との婚約破棄を言いだした、その傍には男爵令嬢がくっついていた、だが私はそんな宣言にため息をつくことしかできなかった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

「王妃としてあなたができること」を教えてください

頭フェアリータイプ
ファンタジー
王妃候補達に王太子様が決意を問う。そんな一幕。

婚約破棄された公爵令嬢は冒険者ギルドの魅力的な受付嬢

天田れおぽん
ファンタジー
フレイヤ・ボルケーノ公爵令嬢は、婚約破棄されので公爵令嬢だけど冒険者ギルドの受付嬢になった。 ※他サイトにも掲載中

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...