モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの

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雨宿り~2~

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『空虚な目をしていたから』
 私を弟子にと養父に言って下さった後。
2人だけになったところで、彼女はそう言った。
 師匠は、私の目線にしゃがみ込むと、女性にしてはゴツゴツした手を私に伸ばす。ビクッと身をすくめたら、驚いたように手を止めてくださった。けど私が落ち着いたのを見届けてから再び手を伸ばし、そっと頬を撫でられる。
 ざらっとした感触は、それまで生きてきた中で初めてだった。こんなに優しく触れてくれる人がいるのかと。
 それをくれた人は、優しい目で私を見て、
『……あとは、勘かな。あんたはやれるヤツだってね』
そうニカリ、と笑った。
 胸の辺りがほわん、と暖かくなった。ずっと知らなかった安心感。包み込まれるような安定感。
 それまで私の中で、人は自分を傷付ける存在だった。それが普通だった。
でもこの時から、それだけではないのだと知ったんだ。

 後はひたすら頑張った。
最初は弟子とは名ばかりの雑用係だったのが、ある程度体力がついたところで急に訓練を付けられるようになる。
 私が師匠の初めての弟子らしく、ギルドでは好奇の目にさらされた。
“あの戦闘狂が、初めて弟子をとったぞ”
“あんな子供がか? はっ馬鹿らしい、何かの間違いだ。以前王命で将来有望とかいう騎士が弟子になったが、それでも三日保たなかっただろう”
“大の男でも音を上げるというからな、あの女の訓練は……!”
 驚愕と嘲りが背中にぶつけられる。
当然だ。彼らはベテラン冒険者。この道一筋に邁進してきたのだ。私のような子供が師匠の弟子などとあり得ない。認めない事など、想定内だ。
 だから関係無い。私は師匠に、結果で答えれば良い。

それから一月程経った後。
“今回あの弟子が参加するらしいぞ”
“貴族の気まぐれなら哀れだな、ガキのままおっ死んじまうとか?”
“何言ってんだ? 止めないと”
“はっ! どうして止めるんだ? 戦闘狂に目ぇつけられたガキが1人、死ぬだけだろう!”

 私は討伐に参加する事になった。軽いとはいえ初めての戦闘。とにかく師匠に受けた教えの通りに武器を奮う。
魔獣といえど生き物だ。でも守らねばならない存在がいるなら滅せねば。その思いでひたすら全力で挑む。――いや、全力以上の、その先まで。
 全ては……師匠に報いる為に。

 そして――初戦闘は成功した。

“初討伐でそこまで?――化け物か!?”
“いや戦闘ばかりじゃない、殲滅する作戦を提案したのもあのガキらしいぞ?”
“それだけじゃない、全ての魔獣を急所一撃で倒したって!”

 相変わらず誰かの言葉が聞こえるけど、今までのぶつけられているような感覚は無いから別に良い。
ひょっとして、子供だから気を遣ってくれたのかな? とチラリと思ったけど、すぐに思い直した。
 ――ココはそんなに甘い場所じゃない。


 そんな風に色々あって。
私は新米冒険者として仲間入りが出来た。
それから何故か、ギルドでの私の扱いが変った。いやギルド関係だけでなく、他の冒険者達がやたら構ってもらえるようになった。
訓練でうまく出来れば、大げさな位に頭をわしゃわしゃ撫でて褒めて下さり、
雑踏の中ではぐれないようにと手を繋いで頂いたりして下さる。
最初の頃はビックリして、なかなか慣れなかった。頭を撫でられるのも、手を繋いだことも初めてだったから。今ではそこにリリアンさん達も加わったから、毎日何らかのスキンシップを受けているので相当慣れたと思う。

「いやそれ、普通に子供にする事だから」
私の話の後、旦那様にそんな風に言われてしまった。
「……そうですか?」
 そう言えばマーサさんにもそんな風に言われたっけ。
「…………で、どうして私と抱き合う事は出来ないのかな?」
 私としては、旦那様のどうしてに、どうしてなのですが?
「師匠は女性なので……!」
ドキドキしなくて良いからですっ。
 色々違うんですよ。触れて分かる男性的なたくましさとか、こう言ってる間も、はだけられた襟元から見える鎖骨とか首筋とか、色々……。
と、しどろもどろに言ったら、やはり魔術師な答えが返ってきた。
「……なら私も女性になれば、お前は安心出来るの?」
何でそうなるんですか!?
あまりに想定外過ぎる。この方変化も出来るの?
 肉体を変える魔法は、上級魔法の中でも特に難易度が高い。
でもひどい拒絶反応を伴うらしく、出来たとしてもあまりやりたがらない。って、屋敷のご本に書いてあった。
「お前が望むなら、この体も女人化出来るけど……。どんなのが良い? 美人? 巨乳?」
 ま、魔術師なんてぇ……!
「それとも……お前の実母のようになれ、とか?」
 室内の温度が急に下がった。
 
「…………ママ……」
「…………“ママ”?」
知らずに声がかすれた。急に様子のおかしくなった私を旦那様が顔を覗き込む。
 うつむいたまま、私は言ってしまう。


「ママは、私を……抱っこなんかしません」


 祖母と父? が死んだ後。
2人のお金が目的で私を引き取った“ママ”は、私の事をこう言った。
“あのババアに似た、可愛げの無い子”だと。
 そして、彼女言うところの“ババア” である祖母も同じ事を言っていた。
“あのアバズレの子供だからかしら? 全く可愛げがない”。
 そんな感じだったので言葉はもちろん、スキンシップなど考えた事もなかった。
 
「……ずいぶん壮絶な場所に生まれたんだね、お前」
 話し終えた私に、呆れたような感心したような様子で旦那様は言った。
「それにしてもその2人はずいぶん人を見る目がないね。お前はこんなに可愛いのに」
「――可愛い、ですか? 私」
「うん、すごく可愛い」
言葉と一緒にギュ、って抱きしめられた。
 包み込まれるような優しい抱擁に、カーッと顔が熱くなる。だって私は親にすら、可愛いとか抱きしめられたことなんてなかったんだ。心臓の鼓動がうるさい。
「あ、相手は旦那様、相手は旦那様……!」
「?何それ」
「冷静になるためのおまじないですっ」
「……微妙に傷付くんだけど」

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