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旦那様と義姉②
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「…………え」
私と同じように、義姉も驚いたらしい。
それはまあ、当然だ。義姉曰く“自分は異世界からの転生者で、この“乙女ゲーム”世界のヒロインなんです”なんて話を本気で信じる人はいない。お義父さん達以外では。
「あ……あんたは、一体……」
「お義姉さん」
初対面の義姉には、旦那様がただの不審人物としか思えないようだ。その全身から恐怖しているのが見て取れる。
とはいえ、この国の貴族的には男爵令嬢の義姉が公爵様である旦那様を“あんた”呼ばわりするのはアウトだ。空気を破るみたいになるけど、ここは私が間に入ろう。と、私は義姉に向かい合う。
「お義姉さんは初対面だと思うのでご紹介します。
こちらは今私が侍女見習いとしてお世話頂いてるフランシス・クラウディア公爵様。そしてご婦人は私の師匠であるジェシカ・リドリー女伯爵様です」
「えっ!?」
説明が終わると、お義姉さんの目が、これ以上ない程に見開いた。
「だ、だって、アンタが貰われてったのは魔神公爵で……」
「魔神……?」
一瞬だけう~んと考えてから、ハッと気がついた。
――クラウディア公爵は魔神公爵という別名がある。
公爵家に来る前に聞いた、旦那様についての様々な恐ろしい噂の数々。私を恐怖に落としたそれら。
今では遠くなった昔の事だ。全く噂なんて当てにならない。実物はそんな犯罪まがいな行為と全く無縁なお方だ。せいぜい魔法や魔道具の研究の最中に部屋を爆発させて皆で半日大掃除するとか、朝起きたら全員、獣耳と尻尾が付いていて失意のどん底に落ちい……らないで、一直線に旦那様の研究室に押しかけたら、
『あれ? 何か中途半端に効果が出た感じ? いや~国の軍部から獣に化ける薬を作って欲しいって依頼があってさ☆ ああ大丈夫、1週間で効果切れるから』
といけしゃあしゃあと言いやが、いや仰られた挙げ句、豹獣人化したリリアンさん達に『どこが大丈夫じゃあ!』と切れられるとか……。
……訂正。結構やらかしておられました。
因みに私がなったのは狐だった。尻尾が一本でなかったのは未だに謎です。
「ああ、それか」
そんな噂の当人は、義姉の言葉に気を悪くする様子もなく、軽く笑い飛ばす。
「ほら私、魔法に関しては天才で、その事で公爵位なんてもらってるでしょ?
元は平民以下のくせに自分達より国に必要とされてるなんておかしい、って思うお貴族サマ達に妬まれたりしてるから、その辺りが流してるんだよねー」
「……自分で天才、って……」
「誰も否定出来ない辺りがムカつくっつーか……」
堂々と言ってのける旦那様に、師匠とシドさんが白い目を向けている。
確かに旦那様相手の刺客は多い。魔力で勝てない分、どちらかと言うと魔力防御をかけた物理が多いけど、大概は私かアントニオさんで裁けている。
微妙な空気が漂う中、旦那様が絞めるように仰った。
「つもる話も聞きたい話もあるから、取りあえず皆でウチにおいで?」
公爵邸に帰った私達は、話があるからと書斎に通された。入室前に、軽食付きのお茶の用意をマーサさんに指示する旦那様。……そう言えばご飯、まだだった。
来客用のテーブルに、ジェシカ師匠とシドさんが並んで座る。その向かいに義姉。
着席を許された私が少し迷っていたら、
「お前はこっち」
旦那様の隣に椅子が滑るように移動し、止まった。
「おい……」
シドさんが何か言おうとすると横から師匠が
「……シド。世の中の家族ってのが皆、お互いを思いやっている訳じゃない。適度な距離、ってもんは色々だ。――なぁ?」
最後のところで鋭い目を向けられ、義姉がビクリ、と肩をすくめた。
私と同じように、義姉も驚いたらしい。
それはまあ、当然だ。義姉曰く“自分は異世界からの転生者で、この“乙女ゲーム”世界のヒロインなんです”なんて話を本気で信じる人はいない。お義父さん達以外では。
「あ……あんたは、一体……」
「お義姉さん」
初対面の義姉には、旦那様がただの不審人物としか思えないようだ。その全身から恐怖しているのが見て取れる。
とはいえ、この国の貴族的には男爵令嬢の義姉が公爵様である旦那様を“あんた”呼ばわりするのはアウトだ。空気を破るみたいになるけど、ここは私が間に入ろう。と、私は義姉に向かい合う。
「お義姉さんは初対面だと思うのでご紹介します。
こちらは今私が侍女見習いとしてお世話頂いてるフランシス・クラウディア公爵様。そしてご婦人は私の師匠であるジェシカ・リドリー女伯爵様です」
「えっ!?」
説明が終わると、お義姉さんの目が、これ以上ない程に見開いた。
「だ、だって、アンタが貰われてったのは魔神公爵で……」
「魔神……?」
一瞬だけう~んと考えてから、ハッと気がついた。
――クラウディア公爵は魔神公爵という別名がある。
公爵家に来る前に聞いた、旦那様についての様々な恐ろしい噂の数々。私を恐怖に落としたそれら。
今では遠くなった昔の事だ。全く噂なんて当てにならない。実物はそんな犯罪まがいな行為と全く無縁なお方だ。せいぜい魔法や魔道具の研究の最中に部屋を爆発させて皆で半日大掃除するとか、朝起きたら全員、獣耳と尻尾が付いていて失意のどん底に落ちい……らないで、一直線に旦那様の研究室に押しかけたら、
『あれ? 何か中途半端に効果が出た感じ? いや~国の軍部から獣に化ける薬を作って欲しいって依頼があってさ☆ ああ大丈夫、1週間で効果切れるから』
といけしゃあしゃあと言いやが、いや仰られた挙げ句、豹獣人化したリリアンさん達に『どこが大丈夫じゃあ!』と切れられるとか……。
……訂正。結構やらかしておられました。
因みに私がなったのは狐だった。尻尾が一本でなかったのは未だに謎です。
「ああ、それか」
そんな噂の当人は、義姉の言葉に気を悪くする様子もなく、軽く笑い飛ばす。
「ほら私、魔法に関しては天才で、その事で公爵位なんてもらってるでしょ?
元は平民以下のくせに自分達より国に必要とされてるなんておかしい、って思うお貴族サマ達に妬まれたりしてるから、その辺りが流してるんだよねー」
「……自分で天才、って……」
「誰も否定出来ない辺りがムカつくっつーか……」
堂々と言ってのける旦那様に、師匠とシドさんが白い目を向けている。
確かに旦那様相手の刺客は多い。魔力で勝てない分、どちらかと言うと魔力防御をかけた物理が多いけど、大概は私かアントニオさんで裁けている。
微妙な空気が漂う中、旦那様が絞めるように仰った。
「つもる話も聞きたい話もあるから、取りあえず皆でウチにおいで?」
公爵邸に帰った私達は、話があるからと書斎に通された。入室前に、軽食付きのお茶の用意をマーサさんに指示する旦那様。……そう言えばご飯、まだだった。
来客用のテーブルに、ジェシカ師匠とシドさんが並んで座る。その向かいに義姉。
着席を許された私が少し迷っていたら、
「お前はこっち」
旦那様の隣に椅子が滑るように移動し、止まった。
「おい……」
シドさんが何か言おうとすると横から師匠が
「……シド。世の中の家族ってのが皆、お互いを思いやっている訳じゃない。適度な距離、ってもんは色々だ。――なぁ?」
最後のところで鋭い目を向けられ、義姉がビクリ、と肩をすくめた。
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