モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの

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義姉と旦那様①

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 ……男爵様が……お義父さんが、義姉を奴隷商人に引き渡そうとしていた?

 「嘘言うんじゃないよ! どこの世界に自分の娘を攫わせる親がいるかい!!」
師匠が男の胸ぐらを掴み上げる。けど、
「嘘じゃないっ! こうやって写真までよこして言ったんだ! “娘を攫うふりをしてから売って欲しい”って!!」
男も必死になって喚き散らす。
――お義父さんが、義姉を攫わせた?
私の見た限りで、実子である義姉の事を彼らは大事にしていた。
“私はゲームのヒロインなの”という他人なら正気を疑う発言を信じ、彼女がねだるままに専門家を呼び、全身を磨かせていた。『可愛い娘』『賢い娘』とことあるごとに褒めあげていたのに………?

「嘘よ!!」

 突然女性の叫び声がした。
誰がこんな場所に?と訝しく思いながらもその声の先に目を向ける。
シドさんがいた。そのそばに立っているのは――。

「――お義姉さん?」

なぜここに? 
「な、なんでこのイベントにパパが出て来るの!? そんなの設定になかった! い、いえ違う! どうしてパパがわたくしを売るのよ、娘なのに!?」
「おい、落ち着け!」
 ワナワナと震え叫び続ける義姉をシドさんが押さえる。でも収まりそうにない。青い顔で戦きながら『どうして』を繰返している。
……ショックなのだろう。
 義姉はお義父さんの実の子供で誰にも愛されていて、ケンカしている処なんて見なかった。
ご夫婦で苛烈な言い争いになっている時でも義姉が来るとピタッと止まって、引きつったような笑顔で誤魔化していた。……気がする。
 それほど大切に思われていたから、受け容れられないのか。

「……私はショックではなかったな」
自分に過去、起こった事を思い出した。
 直接“ママ”の口から“売った”と言われたのではない。実際にはもっと違う言い方だった。
『良い子ね』とか『言う事きくのよ?』みたいな事を言われた……気がする。あの時の事は思い出せない。何故か強固な蓋があるように出て来ない。
ただ……それを言った“ママ”の声の印象だけは覚えている。

……耳にこびりつきそうな、粘っこく甘ったるーい声だった。

 つらつらそんな事を考える辺り、油断していた。
ピリッと産毛を揺らす程度の空気の揺らぎ。――何かが、くる。
「チヨ?」
いきなりクナイを構えた私に、みんなの視線が集まるのを感じながらも神経を研ぎ澄まし――!
「シドさん、後ろ!」
私の声に、シドさんも表情を引き締めて構えた。師匠も臨戦態勢で私の見据える方向を睨む。
「……?」
お義姉さんだけは、ただキョトンとして立っていた。


 最初チリ程度の大きさだったそれは、景色を縦に切り裂くようにして現れた。腰までの髪を靡かせる長身で細身のシルエット。
そこで私の肩の力が抜けた。ここまで来たらもう、誰なのか分かる。

「旦那様……?」

「クラウディア公!?」
シドさんがビックリしている。その間に薄暗がりの中で顔も分かるようになった。いきなり現れた旦那様に、お義姉さんだけがついて行けないように固まったままだ。

 旦那様がなぜここに?
尋ねようとする私より早く、旦那様は師匠をジロリと睨んで言う。
「ジェシカ、チヨは門限には帰せ、って言ったと思うけど?」
階級だけだと(つまり一般常識は除外)旦那様は師匠よりも上。なのに師匠は呆れたように言い返す。
「子供か! アンタなんざ、四六時中べったり一緒のくせに、久々の弟子と師匠の語らいに無粋なこと言うんじゃないよ。……で、まさかわざわざ迎えに来たってのかい」
 師匠、私は子供ですよ? と訂正したかったけど、
「……おや」
そこで旦那様は初めて、義姉がいることに気付かれた。
「…………?」
突然現れた旦那様を警戒しているのか、義姉は青い顔で震えている。それでもその手はシドさんの服の袖をつまんでいる。ある意味、さすがだ。
そんな義姉に旦那様はどこか楽しそうだ。肩に掛かった髪を払うと、
「こんな夜中に外出とは……しかもこんな場所に。“乙女ゲーム”とやらはよくよく、遊戯する者の安全を保障しないんだね?」

――え?

 今旦那様は何と言った?
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