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第二章
58 試練の風呂
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男湯の脱衣場に入ると、床に若葉色のい草マットがひいてあって、ツンと、草の良い匂いがした。
「あーー和って感じ」
葉月はご機嫌で、脱衣場のロッカーにある空の籠へぽいぽいと浴衣、帯、パンツをいれてゆく。鉄堅は慌てて、棚の横にあったご自由にのタオルを数枚、葉月に渡した。
「葉月ちゃん! これ、これ腰に必ず巻いて」
「あ、そうだった、はいはい」
薄っぺらいタオルは少しだけ透けているが、葉月の細い腰回りをぐるっと隠してくれた。
鉄堅は、心の中でガッツポーズをしつつ、自分も浴衣を脱いで籠へ入れた。タオルもしっかり巻いた。見るのも困るが、見せるのはもっと困る。間違っても葉月の前でずり落ちる訳にはいかない。
葉月は、ペタペタと可愛らしい足音をたてながら歩いて、浴場の扉をカラカラと開けた。
「おお、やっぱり誰もいないぞ鉄堅はやく」
「は、はぃ」
「体洗いっこしよう!」
「……」
どうしてこの人はと、天を仰ぐ。天井からは、ポタポタと貯まった蒸気の雫が垂れてる。心を無に……。
「鉄堅はやくっ、ここ座って」
「はぃ」
憂鬱な気持ちで、鉄堅は葉月が用意した椅子に座った。葉月は勢いよく、備え付けのボディーシャンプーのポンプを押して、その液体をびちゃっと鉄堅の背中にかけた。急に冷や水をかけられたかのように、鉄堅がのけぞる。
「ひぁっ!」
「あ、ごめ、冷たかった?」
「だ……大丈夫」
そう言いつつ、葉月はその液体を鉄堅の背中に伸ばしてゴシゴシと泡立てていく。
心を何とか無にしようと鉄堅は頑張るものの、葉月の手が自分の腕から胸へのびてきた所でギブアップした。
「葉月ちゃんっ! 変わるよ」
「え? そう? んじゃ、お願い」
くるっと後ろを向いて椅子に腰かけた葉月の肌へ、ボディーシャンプーをそっとつけて、泡立たせる。
「あぁ、気持ちいいーー」
「よ、よかった」
あまり、声を出さないで欲しいと思いながら、鉄堅は必死で葉月の薄っぺらい背中をゴシゴシと洗った。ほんの一瞬だけ、胸へ手を這わせてみたいと思ったが、善良な鉄堅の心は、邪な鉄堅の心に打ち勝ち、背中を流すだけで止め、無事、第一関門クリアである。
ざばーっと、湯をかぶって一息つくと、今度はシャンプーのボトルを押している葉月と目があった。
「次、頭を洗ってやるよ」
「え、や、頭は」
「ほら、下向いて」
頭をぐいっと押さえつけられ。容赦なくシャワーがかかり、鉄堅は、もう目を閉じて耐えるしかないと覚悟を決めてうつむいた。顔を上げれば目の前に葉月のあれがあるけれど。耐えるしかない。絶対にもう濡れて透けていると予測されるけど。見るな! と心のなかで自分を叱りつける。
葉月は泡立てた鉄堅の髪を上へ向かって束ね、玉ねぎ! などと、いって遊んでいる。可愛すぎてつらい。
最後にシャワーを丁寧にかけて洗い流してくれた。
「有り難う、葉月ちゃん変わるよ」
「うん」
葉月がうつむき、細いうなじがあらわになって、鉄堅はごくりと唾を飲み込んだ。何という試練。
早く終わらせてしまわないとヤバい気しかしない。
鉄堅は、乱暴にシャンプーのヘッドを押して手に取ると、葉月の髪に触れた。耳に水が入らないように丁寧に洗う。葉月の髪は何て柔らかなのだろう、ホワホワの綿毛みたいになった葉月に、湯をかけて、洗い流した。
「ふーーさんきゅ」
葉月が水の滴る、髪をかき上げた。おでこがあらわになって、ニッコリと笑いかけられ、鉄堅は、無言で頷く。おでこが出た葉月が異常に可愛い。
「よし、じゃ湯に入ろ」
「うん」
タオルはもうスケスケで、張り付いてて、むしろ余計に何とも言えない感じになってて、葉月の後ろ姿をついついガン見してしまった。
「……うっ」
早く湯に浸からねばヤバい。
鉄堅は無言で、葉月を追い越し、かけ湯をしたあと飛び込む様に湯に入って、奥へと進んだ。少し葉月と距離をと思ったのに、こちらの気持ちに一切合切気づかない葉月が隣へやってくる。
「あぁ……」
「いい湯だなぁ、熱すぎるのあんま好きじゃないから、俺、これくらいが好き」
「うん」
「鉄堅、どうした? 疲れた? 傷が痛む?」
反応が悪い鉄堅を気遣って、葉月が寄ってくる。嬉しいが、今は嬉しくない。
「大丈夫だよ」
「何でそんなに離れようとするんだよ」
「や、あの」
「?」
どう説明すれば良いのか、男の体というのは正直過ぎてつらい。余りの羞恥に鉄堅は、かぁっと、真っ赤になった。泣きたい。
「どうし……あ」
葉月がようやく気づく。そして、不自然に目を反らす。
さっきまでの小学生のノリが潜んで、二人は無言で湯に浸かり続けた。
「俺、もう先に出るよ」
「……うん。ごめん」
「謝るなって。じゃ」
葉月がザバザバと湯を掻き分け湯殿から上がっていく。その後ろ姿を鉄堅は誘惑に負けて、じっと見続けた。
葉月が風呂から去って、平静を取り戻した鉄堅は、湯からでると、思いっきり水を浴びた、頭を冷やすどころか、全身を冷やさねばならなかった。火照った体から、熱がぬけ、ぶるりと震えながら、タオルを搾って体の水を拭きとった。
脱衣場へ上がると、葉月の姿がなかった。先に帰ったのだろうか。もしかして、嫌われたり? がっかりして鉄堅は手早く浴衣を着て、部屋へ戻ろうとした。しかし、前方から葉月の声がした。
「鉄堅、待って」
「葉月ちゃん、何処へ」
「こっちに休憩室があるんだよ、これ、一緒に飲も」
葉月の手にはコーヒー牛乳の瓶が2本握られていて、売店まで買いにいってくれたのだと理解した。もう葉月に嫌われたのではと落ち込んでいた、鉄堅は安堵した。嫌われてなかった。
休憩室の藤の椅子に二人で座って、窓の外にぽっかりと映る月を見ながら、コーヒー牛乳を飲んだ。
「うま!」
「美味しいね」
幸せでどうにかなってしまいそうだと、月を見ながら思った。
鉄堅の胸の中に、喜びがじんわりと広がっていく。
「あーー和って感じ」
葉月はご機嫌で、脱衣場のロッカーにある空の籠へぽいぽいと浴衣、帯、パンツをいれてゆく。鉄堅は慌てて、棚の横にあったご自由にのタオルを数枚、葉月に渡した。
「葉月ちゃん! これ、これ腰に必ず巻いて」
「あ、そうだった、はいはい」
薄っぺらいタオルは少しだけ透けているが、葉月の細い腰回りをぐるっと隠してくれた。
鉄堅は、心の中でガッツポーズをしつつ、自分も浴衣を脱いで籠へ入れた。タオルもしっかり巻いた。見るのも困るが、見せるのはもっと困る。間違っても葉月の前でずり落ちる訳にはいかない。
葉月は、ペタペタと可愛らしい足音をたてながら歩いて、浴場の扉をカラカラと開けた。
「おお、やっぱり誰もいないぞ鉄堅はやく」
「は、はぃ」
「体洗いっこしよう!」
「……」
どうしてこの人はと、天を仰ぐ。天井からは、ポタポタと貯まった蒸気の雫が垂れてる。心を無に……。
「鉄堅はやくっ、ここ座って」
「はぃ」
憂鬱な気持ちで、鉄堅は葉月が用意した椅子に座った。葉月は勢いよく、備え付けのボディーシャンプーのポンプを押して、その液体をびちゃっと鉄堅の背中にかけた。急に冷や水をかけられたかのように、鉄堅がのけぞる。
「ひぁっ!」
「あ、ごめ、冷たかった?」
「だ……大丈夫」
そう言いつつ、葉月はその液体を鉄堅の背中に伸ばしてゴシゴシと泡立てていく。
心を何とか無にしようと鉄堅は頑張るものの、葉月の手が自分の腕から胸へのびてきた所でギブアップした。
「葉月ちゃんっ! 変わるよ」
「え? そう? んじゃ、お願い」
くるっと後ろを向いて椅子に腰かけた葉月の肌へ、ボディーシャンプーをそっとつけて、泡立たせる。
「あぁ、気持ちいいーー」
「よ、よかった」
あまり、声を出さないで欲しいと思いながら、鉄堅は必死で葉月の薄っぺらい背中をゴシゴシと洗った。ほんの一瞬だけ、胸へ手を這わせてみたいと思ったが、善良な鉄堅の心は、邪な鉄堅の心に打ち勝ち、背中を流すだけで止め、無事、第一関門クリアである。
ざばーっと、湯をかぶって一息つくと、今度はシャンプーのボトルを押している葉月と目があった。
「次、頭を洗ってやるよ」
「え、や、頭は」
「ほら、下向いて」
頭をぐいっと押さえつけられ。容赦なくシャワーがかかり、鉄堅は、もう目を閉じて耐えるしかないと覚悟を決めてうつむいた。顔を上げれば目の前に葉月のあれがあるけれど。耐えるしかない。絶対にもう濡れて透けていると予測されるけど。見るな! と心のなかで自分を叱りつける。
葉月は泡立てた鉄堅の髪を上へ向かって束ね、玉ねぎ! などと、いって遊んでいる。可愛すぎてつらい。
最後にシャワーを丁寧にかけて洗い流してくれた。
「有り難う、葉月ちゃん変わるよ」
「うん」
葉月がうつむき、細いうなじがあらわになって、鉄堅はごくりと唾を飲み込んだ。何という試練。
早く終わらせてしまわないとヤバい気しかしない。
鉄堅は、乱暴にシャンプーのヘッドを押して手に取ると、葉月の髪に触れた。耳に水が入らないように丁寧に洗う。葉月の髪は何て柔らかなのだろう、ホワホワの綿毛みたいになった葉月に、湯をかけて、洗い流した。
「ふーーさんきゅ」
葉月が水の滴る、髪をかき上げた。おでこがあらわになって、ニッコリと笑いかけられ、鉄堅は、無言で頷く。おでこが出た葉月が異常に可愛い。
「よし、じゃ湯に入ろ」
「うん」
タオルはもうスケスケで、張り付いてて、むしろ余計に何とも言えない感じになってて、葉月の後ろ姿をついついガン見してしまった。
「……うっ」
早く湯に浸からねばヤバい。
鉄堅は無言で、葉月を追い越し、かけ湯をしたあと飛び込む様に湯に入って、奥へと進んだ。少し葉月と距離をと思ったのに、こちらの気持ちに一切合切気づかない葉月が隣へやってくる。
「あぁ……」
「いい湯だなぁ、熱すぎるのあんま好きじゃないから、俺、これくらいが好き」
「うん」
「鉄堅、どうした? 疲れた? 傷が痛む?」
反応が悪い鉄堅を気遣って、葉月が寄ってくる。嬉しいが、今は嬉しくない。
「大丈夫だよ」
「何でそんなに離れようとするんだよ」
「や、あの」
「?」
どう説明すれば良いのか、男の体というのは正直過ぎてつらい。余りの羞恥に鉄堅は、かぁっと、真っ赤になった。泣きたい。
「どうし……あ」
葉月がようやく気づく。そして、不自然に目を反らす。
さっきまでの小学生のノリが潜んで、二人は無言で湯に浸かり続けた。
「俺、もう先に出るよ」
「……うん。ごめん」
「謝るなって。じゃ」
葉月がザバザバと湯を掻き分け湯殿から上がっていく。その後ろ姿を鉄堅は誘惑に負けて、じっと見続けた。
葉月が風呂から去って、平静を取り戻した鉄堅は、湯からでると、思いっきり水を浴びた、頭を冷やすどころか、全身を冷やさねばならなかった。火照った体から、熱がぬけ、ぶるりと震えながら、タオルを搾って体の水を拭きとった。
脱衣場へ上がると、葉月の姿がなかった。先に帰ったのだろうか。もしかして、嫌われたり? がっかりして鉄堅は手早く浴衣を着て、部屋へ戻ろうとした。しかし、前方から葉月の声がした。
「鉄堅、待って」
「葉月ちゃん、何処へ」
「こっちに休憩室があるんだよ、これ、一緒に飲も」
葉月の手にはコーヒー牛乳の瓶が2本握られていて、売店まで買いにいってくれたのだと理解した。もう葉月に嫌われたのではと落ち込んでいた、鉄堅は安堵した。嫌われてなかった。
休憩室の藤の椅子に二人で座って、窓の外にぽっかりと映る月を見ながら、コーヒー牛乳を飲んだ。
「うま!」
「美味しいね」
幸せでどうにかなってしまいそうだと、月を見ながら思った。
鉄堅の胸の中に、喜びがじんわりと広がっていく。
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