胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第一章

38

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次の日、面会時間になっても葉月という幼馴染みは本当にこなかった。当たり前だ、あんなにはっきりと拒絶したのだから来るわけもない。

鉄堅は、読みかけの本にまた目をおとした。昨日から読んでいるのに、あの子の事を考えてしまってなかなか進まない。

面会に来るなと言った。だからもう来るわけもないのに、何故か来ないことに落胆した自分もいた。

学校を休んでまで来るなんて、そんなの良くない事だし、そんなにまでして来る意味も解らない。

怪我が治ればまた何時でも会えるだろうし。

そういえば、あの子は何処の高校に通っているのだろう?付き合っていたのだから、同じ仰暒高校に居るのだろうか……だが、勉強は苦手だと言っていた。
勉強が苦手な人間が仰暒高校に居るとも思えない。そもそも、付き合うってなんだ、男同士で。

もしかして、彼はオメガなのだろうか。だから、アルファである自分に付きまとうのだろうか。

確かに、彼はオメガだと考えれは、いかにもオメガらしい容姿だった。中性的で、一見すれば美少女かと思うくらいの、目立つ容姿をしていた。

あんな容姿をしていては、苦労も多いだろうと思った。知らない間に、付け狙われる事も有るかもしれない。昨今、オメガのレイプ事件なんて山程有ってそのどれもが未解決で。

いや、だがしかし、あの子はオメガかもしれないが、男だし……流石にそんな事には。親だっているだろうし、守ってくれる人くらい、幾らでも居そうな人だったし。

ドクンっと、胸が傷んだ。なんだこの感覚は。

鉄堅は、胸を押さえた。
あの子が、誰かを頼りにするところを想像すると、胸をかきむしりたくなるのは何故だ。

《葉月ちゃんと離れたくない》

脳に誰かの言葉が急に浮かんだ。誰の言葉なのか解らない。
思い出せない歌のフレーズみたいに、気になって仕方がなかった。

何だったか、誰だったか、葉月というのはあの子の事だし、離れたくないのは誰なんだ。僕の感情なのか?

何かのきっかけがあれば、思い出せそうな気もする。そうた、スマホ。

確か、スマホを自分は持っていた筈だ。履歴を見ればどんな事を話していたのか解るし。

部屋で雑誌を見ている母に声をかけた。

「母さん、僕のスマホってどうした?」
「あなたのスマホね、壊れてしまったから、退院したらまた買いに行かないとね」
「壊れた?」
「ええ、事故の時に手に持ってたみたいよ、それで咄嗟の判断が遅れたのかしら、信号無視の車が突っ込んできて、その時に落ちて壊れたみたい。でも、本当によく無事ですんだわ、あなた、本当に危なかったのよ。一命を取り留めたのも、葉月ちゃんのお蔭なのに、鉄ちゃんてば、葉月ちゃんに酷い態度とるし……はぁ、葉月ちゃんがいつかお嫁に来るのを楽しみにしてたのにこんなんじゃ、ふられちゃうわ、本当にどうしたら良いのかしら」

スマホを見ていた? 僕は歩きスマホなんて……するタイプだろうか。何か急いで返事をしなければならないことでも有ったのか? ズキッと今度は頭が傷んだ。

夜中の11時に、急いで返信をする相手なんてそんなもの、友達か、あるいは、恋人か。

ズキズキと頭が痛む。考えすぎるとよくなる症状だ。医者には止められている。無理に記憶を探ろうとすると、余計に混濁するから自然に思い出すのを待つ方が良いと。だけれど──。

母が言う【ふられる】というフレーズ、聞くだけで吐きそうだ。僕が、彼にふられる? 胸が苦しくなる。僕が思っている以上に、僕にとってあの子は、大切なのだろうか。

来るなと言ったときの、あの泣きそうな顔が忘れられない。大きなはしばみ色の瞳に、驚きと恐怖が広がって……やがて、長いまつ毛が下がり、瞳から光が失われるみたいに目を伏せ、無理やり作った笑顔で笑ったのだ。
その瞬間、自分が口にした言葉を後悔した。傷つけたと、間違ったと思った。だけれど……あの子の為だと思ったから、もう来なくて良いと言ったのに。
ぷつりと、あの子と、僕の間にある何かが途切れたような気がした。それが、いったい何なのか、今の鉄堅には解らなかった。
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