胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第二章

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替えのパンツを袋に入れて、鉄堅が後ろを振り向くと、葉月は方手にパンツを持って立っている。

「あ……葉月ちゃん、あの、パンツは何かに入れて持っていった方が」
「じゃ、一緒にそれに入れて」

ポンと、鉄堅に向かって飛んできたパンツを、鉄堅は思わず受け取った。

「……」


とにかく、無心で居ることが大事だ。自分の目が悪ければ、眼鏡を外すことで色々と回避できるが、残念ながら鉄堅は勉強ばかりしている割には、両目とも1.0だった。
湯煙に邪魔をされたとしても、かなりの確率で色々と見てしまう。
小さく鼻唄を歌いながら歩いている葉月が、既にもう視界に入れるのは危険度MAXの可愛さだった。
だって、浴衣を着てるし、袷が逆だし、帯が蝶々結びだし、素足にスリッパでひっかかって転けそうになるし、パタパタ足音が可愛いし、心を無に……出来るわけが無いだろう!

鉄堅は、パンツを握り締め、やや乱暴に袋に突っ込んだ。蛍光ピンクのパンツだった。派手で可愛い過ぎか。だがしかし、葉月ちゃんパンツ派手だねなんて、口が裂けても言えない、というか、そんな話題、触れちゃいけない。たぶん、父親がパンツを息子と区別するのに楽だからきっと派手な色にしたんだ、そうに違いない。
まぁ、色が似てても、サイズが違うから解るとは思うけど、どう考えても葉月ちゃんはサイズがSだし、背が小さいとかそういうことじゃなくて、腰が細いから、Sじゃないとずり落ちてくるかもだし、パンツのゴムが緩いって何気にストレスだし……。

ダメだ!!パンツから思考を切り離さないと。

ダンっと、思わず畳を叩くと、葉月が不思議そうな顔をした。

「どった?」
「いや……蚊がいたので」
「え、とった? 取らないと、夜またお前の蚊帳の出番だぞ」
「とったから」
「良かったぁ」

小さな嘘をついてごめんと思いながら、鉄堅は覚悟を決めた。

「葉月ちゃん、大浴場では、腰にタオル巻くのがマナーだから、忘れないでね」

だが、足掻きはする。

「ん? そーなの? 解った」

頼む、大浴場に先に入ってるオジサン達、タオルを巻いててくれ。もしくは、誰も居ないで。いや、それはどうだ、誰も居ないのは……二人っきりってことで、まずいか? 

だが、葉月ちゃんみたいな可愛いのが裸でウロウロしてたら危ないし、誰も居ない方が良いか。あぁ、バスタオルでグルグル巻きにしてしまいたい。

(大丈夫、僕は無になれる)

自分を信じよう。

少し座った目で、鉄堅は、葉月と共に部屋を出た。廊下を進んで、地下にある大浴場へと階段を降りていく。少し空気が、ムワンとした、湿り気を帯びて、突き当たりの角を曲がると、男湯、女湯、オメガ湯があった。オメガ湯!?

「!?」
「あーー、オメガ湯かぁ、どうしよ、お前居るし男湯で良いか」
「あ、え、う、え」
「は?」
「お、オメガ湯の方が良いと思うけど」

葉月は、うーんと、考えて、男湯の扉の中を覗いた。

「いま、誰も居ないし、男湯一緒に入ろうぜ、女の人のオメガが来たらさすがに気まずいんだよ」
「ぐっ」
「ほら、早く、誰か来る前に」
「はぃ……二人っきり」

オメガ湯があるという選択肢があったこと、既にその選択肢が消えたことで出鼻を挫かれたというか、頭の中の計画が狂った、いや、元々計画などないが、何がどうした。とにかく、無であるべきはずの心は一瞬で波立ち、むしろ、異常事態、危険信号点滅である。心臓がバクバク。

確か一生で打つ心拍数はだいたい決まっていて、だから早く打つネズミは命が短いし、ゆっくりと打つゾウは寿命が長いとかそんな話を何処かで聞いたけど、あれは信憑性があるのかないのか、バクバクし続ける心臓を抑え、葉月を残して早死にはしたくないと思う鉄堅だった。



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