胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

文字の大きさ
88 / 120
第二章

86

しおりを挟む
電車にのるなり、鉄堅が空気クッションを差し出す……なんでそんなに尻に敏感なんだよ。葉月は、怪訝に思いつつ、その薄いお尻の下にひいた。あ、楽。

「じゃ、また1時間交代な~」
「はい。えっと、甲府、どこにいこうか?時間的にお昼を食べるとして……あ」
「どった?」
「甲府にもお城がある……跡地みたいだけど、高台で甲府盆地が一望できるって」
「まじか、行っとこ」

二人で地図を覗き込む。確かにあるし、しかも駅から近い。これは行っておいて損はない。

「あ、葉月ちゃん、外みて諏訪湖だよ、ほらチラッとしか見えないけど」
「おーー」

水面がキラキラしてる。でも家の間チラチラしか見えないな。降りて散策したいけど、甲府で降りるから我慢だな。

「甲府の名物ってなんだっけ?」
「ほうとうかな、あと葡萄とか」
「おぉ……ほうとう、食べてみるか」
「そうだね」

正直食べたことがないので、どんな食べ物かわからない。おそらくうどんみたいな感じだったようなという、あやふやな記憶。まぁ、出てきてからのお楽しみってやつだ。

「後は、美術館とかあるけど、ちょっと駅から遠いね」
「まぁ、城跡みてほうとう食べてたら充分だよ」
「そうだね」

こうやって、頭寄せて計画たてるのももう最後かぁ。なんだか、とっても名残惜しい。そのまま、頭を鉄堅に預けるみたいにもたれかかる。俺の髪に、鉄堅が頬を寄せる。こいつ、昔はひょろひょろのモヤシみたいだったのに、がっしりしてきたなぁ。背ももう、全然追い付かない。何気に成長が止まりつつある葉月は、はぁっと、ため息をはいた。

「どうしたの?葉月ちゃん、酔った?」
「いんや、お前が大きくなったなと思っただけ」
「葉月ちゃんも大きくなったよ?赤ちゃんの時とっても小さかったもの」
「んーーまぁ、そりゃ、赤ん坊の頃に比べりゃな」

なんだこの、親戚みたいな会話。うける。なんだかな。本当にずっと一緒に育ってきたもんな。不思議だよな。たまたま家が近くで、たまたま同じ保育園で、たまたま、同じ小学校で……。側にいるの当たり前で、影みたいで、やだったのに。今は、離れたくない。

ずっと一緒にいたいと思ってる。変わらない気持ちのまま、ずっといられるかな。これから先、なん十年も一緒にいたら、飽きないかな?

お前が俺に飽きたらやだな。もう、きっと、こんなに俺のことを好きになってくれるやつに出会えない。最上をしっちゃったのに、失くなったら……。失くならないよな。大丈夫だよな。ずっと変わらないよな。誓ったもんな。約束したもんな。

「お前さぁ……」
「なぁに?」
「ずっと変わるなよ」
「え? 身長? でも、ちょっと自分では止められないというか……でも葉月ちゃんが望むなら、手術してでも今の身長を維持するよ」
「バカ」

身長の話じゃねーわ。どんだけ俺が根に持ってると思ってるんだよ、まぁ確かに……身長差はちょっと気にしてるけど。

「気持ちの話、変わらず……俺だけ見てろって話」
「う、うん。もちろんだよ、葉月ちゃんだけだよ、他なんてどうでもいいよ、葉月ちゃんだけを見てていいなんて、夢みたいに嬉しい」
「見るくらい……」

見ればいいだろ? と思ったけど、昔はそれを許さなかった。見るなって思ってた。

「俺が見れなくて、悲しかった?」
「絶望したよ、毎日、毎日、つまらなくて、駅で、時々、見れたらその日は幸せだった」
「朝、駅のホームで向かい側、何回か会ったもんな」
「うん……」
「もしかして、偶然じゃなかった?」
「うん、ごめんね」
「……」

俺が何時に乗るのかも解らないのに? 待ってたのか……もしかして始発から? あんな、ほんの一瞬のために?

「もーーお前さぁ、はぁ……」
「ごめんね、葉月ちゃん、見たかったんだ、少しで良いから、どうしても」
「変なやつ」

こんなやつ、他にいない。もー本当にどうしょうもないくらい、俺を好きなんだな。変なやつなのに、嬉しいと思っちゃうのがやだ。心から不安がなくなって、幸せに思うのがやだのに。どうしたって、幸せなんだ。想われるって気持ちいい。必要とされるって気持ちいい。やばいなこれ。

「もういいよ、ずっと一生俺のこと見てろ」
「うん……ありがとう」

俺の頭を優しく撫でる手。まったく、あきれるくらい、気持ちいい。手放せない。もう、一生、俺のものだから。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

処理中です...