胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

文字の大きさ
90 / 120
第二章

88

しおりを挟む
葉月と鉄堅を乗せた電車は、丁度お昼時に、甲府駅に到着した。駅ナカを歩いて外へ出る途中、オルゴールのような音楽が駅に流れる。耳に付く発着音、聞いたことがあるなと、葉月は思って足をとめた。

「あ、これ知ってる」
「ジュピターだね」
「おお……そっか、なんか、なんか、心がきゅってなる曲だよな、解る?上手く言えないけどさ、お前との今だけの瞬間がもうすぐ終わるっていうか、夏が終わるっていうか、この時間が終わるって思う気持ちと、このメロディーが合わさって……なんか、無性に……うーんと、たぶん、さびしい」
「うん、もったいないような、ずっと聞いていたいような、でも終わるからこそ綺麗なような……終わるの、さびしいね」

葉月の要領の得ない気持ちに、鉄堅も素直に気持ちを返す。さびしい。終わりたくない。でも終わることを知ってる。

駅のホームでしばらく。耳をすましてた。この瞬間が今だけだって、惜しむ気持ちで駅に流れる旋律を聞いてた。心がキュウッて、なる。なんか、切ない。

そっと、鉄堅の手をとると、鉄堅は、葉月の手をぎゅっとにぎりこんでくれた。大丈夫だよって、言うみたいに。さびししい、でも大丈夫。ひとりじゃないって。

「行こっか、葉月ちゃん」
「うん」

手を繋いだまま、ゆっくり歩いた。甲府の駅前は綺麗で広くて、高い建物の先に、整備された道が伸びている。

「俺さ、思うけどさ」
「うん」
「日本て凄いよな、歴史が積み重なって、こんな綺麗な道も、町もあってさ、皆で住み良くしようって気持ちが街を良くしてる。俺さぁ、当たり前だと思ってた、道も街も綺麗で有るのが当たり前って、だけどさ……作ってくれた人がいて、綺麗に保つ人がいて、俺たちそれにあやかって生きて、幸せで、こうやってお前と歩けてる」

旅の終わりが近いせいか、妙に感傷的な気持ちになって、言葉が溢れてくる。葉月は、隣を歩く鉄堅を見つめる。今日、今、思ったことを伝えたいと思った。解る?って聞いたら、鉄堅は必ず、頷くから。

「うん、本当だね。ありがたいね」

肯定されることが、こんなに嬉しいとだと知らなかった。気持ちを話して、そうだねって、相づちもらえることが、心を満たしてく。

「俺さぁ、なんかもう、お前とずっといたい」
「エッ!ど、どうしたの葉月ちゃん」

急に、気持ちに愛しさが溢れてしまって、葉月は、唐突に鉄堅が欲しくなった。鉄堅のからみつく愛とは違う、内から涌き出るみたいな想いと衝動のままに、言葉をおくりたくなった。

心臓がバクバクして、隣の鉄堅をじっと見つめた。

「俺、鉄堅のこと、愛してる」
「!?」

葉月の突然の告白に、鉄堅は、大砲で撃たれたかのような衝撃を受けた。驚きすぎて、顔に血が足から全部逆流してくるみたいに、真っ赤になってしまった。だが、その真っ赤な顔で、真摯に葉月を見つめ返す。

「葉月ちゃん……ぼくだって、ぼくだって、もちろん、愛してるよ!誰よりも、世界で一番、葉月ちゃんを愛してる!は、葉月ちゃんに、そんな風に言って……もら、えて……うれしい」

真っ赤な顔に、真っ赤な目に涙がたまってる。凄く真剣に愛に愛を返す鉄堅を、可愛いと思う。

「へへ、俺たち、両想いだ」
「うん」

葉月は、鉄堅と繋いだままの手を、ぶらぶらと揺らして、照れを隠すみたいに歩いた。

愛してる、愛してる、愛してる。ぶらぶら揺れる手から、愛がこぼれて、撒き散らして、歴史の上を歩いてく。

知らない誰かが作ってくれた平和な街を、愛する人と歩いてく。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

処理中です...