胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第一章

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葉月は、スマホをポケットにしまうと、くるっと鉄堅に背を向けた。

「さてと、帰ろ。お前、学校行くんだろ?時間間に合うのか」
「全然間に合うよ、だから、送ってもいい?」
「うん、……さんきゅ」

たった一言のお礼、初めて言った。ちらっと、鉄堅を見ると、目を見開いて固まってやがる。悪かったな、今まで言ったこと無くて、そんなに驚かなくて良いだろ。

むしろ、こっちが恥ずかしくなるわ。背を向けてて良かった。たぶん、顔が赤いと思う。見られなくて良かった。



葉月の後ろ姿をじっと、みつめ、鉄堅は、ごくりと喉をならした。

葉月にお礼を言われた感動、その後ろ姿から目が離せない。

葉月のほっそりとした首筋がら耳にかけて、赤くなってるのを見てしまって、ぞわぁぁっと、何かが身体の中を駆け巡るような、耐え難い高ぶりが瞬間的に起こって戸惑う。

衝動的に手を伸ばしたくなる。その首筋に。真っ赤な耳に。

もしも、触れたら、葉月はきっと怒るから、ぐっと我慢して、気を抜けば伸ばしそうになる指を折って握りしめた。

歩き出した葉月のあとを、付いていく。このまま。どこまでもどこまでも一緒に行けたらどんなに良いだろう。

たった15分の短い距離、通いなれた道を鉄堅はまるで、舞台の上で賞状を受け取る生徒みたいに、1足1足、緊張して歩いた。

葉月との距離が縮まりすぎないように、広がり過ぎないように。

友達の距離をとりながら。

だが、いつまでこの距離は埋まらないのだろうと思った。

いつか、隣を歩いたり、葉月の色白な綺麗な手に触れ、繋いだり、そんな距離に……いつかなれるだろうか。

夢にもみた、夢の中でさえ、触れられなかった願望。

叶う時は来ないかもしれない、このままそばに居たら、いつか、違う誰かが葉月の橫に立つ日を見るかもしれない。

そうなった時、自分はどうしたら良いだろう。

きっと、おめでとうなんて言えない。

言えるはずがない。

鉄堅は、焼け付くような瞳で、葉月を見つめ、せつないため息を吐いた。





◆◇◆

薬を飲んだら、頭痛やら吐き気やら目眩やらが無くなったから、普通に学校へ行ける気もするけど、一応聞いとくかと、葉月は鉄堅に顔を向けた。

「俺からする匂いってさ、明日にはしなくなると思う?」
「いや、無くならないよ、たぶん、最低でも5日は家にいた方が良いと思う」
「まじか、でも……お前以外気付くのかな」

こいつが、むちゃくちゃ嗅覚が鋭いからとかじゃなくて?父さんからは何も言われたこと無いし、やっぱりアルファだからなのか? 

鉄堅はふるふると首をふった。

「アルファなら直ぐ気付くよ……その、何て言うか、その匂い嗅ぐと、怒らないでね、誘われてるみたいな……気持ちになる、っていうか、あの、だからあぶないから」
「誘う? ふーん?」

いまいち誘うの意味が解ってなさそうな葉月に、危機感を覚えて、鉄堅はちょっと強めに注意した。

「危ないんだよ? 葉月ちゃん、本当に、だから発情期の時は絶対家に居て、世の中には悪いアルファだっていっぱいいるんだから」

子供に言い聞かせるみたいな言い方をされて、葉月は少しだけ眉をよせた。

「てか、アルファなんかそんなに居ないだろ? たまたまお前がそうだったってだけで……ほとんどベータなら、そんなに気にしなくても」

「絶対駄目だよ、アルファは擬態するのも上手いんだ、ベータのふりして暮らしてるアルファもいるよ……アルファだってばれると煩わしい事もあるから」

年齢が上がるにつれ、アルファに求められるものは増える。成績しかり、容姿しかり、運動しかり。常にできて当たり前と見なされて、すり寄ってくる者もいる。顕示欲の強い者なら良いが、鉄堅みたいに、ひっそりと生きたいタイプの人間には、アルファという性別は重苦しいものだった。

ただ唯一、オメガとツガイになれるその一点だけがアルファであることの意味がある。葉月とツガイになれる望みが有るのだ。例え、確率が限りなく低くても。

「葉月ちゃんの学校にもいると思うし、できればチョーカーとかした方が」
「絶対やだ」

首を守るチョーカーは、オメガにとっては自衛の方法の1つだが目立つし、逆に自分はオメガですと言ってるようなものだ。

だいたい、襲われたくないからとか、自意識過剰すぎるような気がして、自分には絶対できないと葉月は思う。

「まぁ、一週間くらい休むよ、それで良いんだろ?」
「うん」
「しゃぁね、インフルにでもかかったことにしとくわ」

友達に発情期だから休むなんて言えない。発情期は3ヶ月に1度くるくらいの頻度だっていうし、それで誤魔化せるだろう。

葉月の家に着いた。葉月は門をあけて、中にはいる。それを見たあと、鉄堅はほっとし、別れを告げた。

「じゃ、葉月ちゃんくれぐれも外に出ないでね」
「わーった」
「あと、うちに来たときに怒ってごめんね、心配過ぎてきつい言い方をしちゃった、早く誰からも見られないうちに家に帰したくて、でも、来てくれて嬉しかった」
「ん、そっか……俺も怒ってごめん、上着と、昨日は本当にありがとな、助かった」
「うん」

じゃ、って、ドアを開けて閉める寸前に、葉月は鉄堅に最後に一言を投げる。

「メールする」

バタンと葉月の家の玄関のドアが閉まって、鉄堅は、そのドアをしばらく見つめていた。信じられない気持ちで。

あの、いつも迷惑そうだった葉月が、お礼を言ってくれた処か、メールをくれると言った。

こんな奇跡が起こって良いのだろうか。嬉しすぎて、足がその場で溶けてふにゃふにゃになってしまうかと思った。

「嬉しい……ありがとう葉月ちゃん」










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