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第一章
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鉄堅と別れ、ガチャリとドアを閉めて、葉月は、はーーっと長いため息を吐き、その場にしゃがみ込んだ。自分の靴の爪先を見つめる。ちょんと、靴の先と先ををくっつけて、なんというか、有るべき二つのものか本来有るべきところに収まったみたいな気持ちになった。
「はーー上手くいった、ちゃんと謝れた、良かった」
自分が意地っ張りなことを知っているし、鉄堅の家の前で喧嘩ごしになってしまったし、もう仲良くなるなんて無理かと思った。
「良かったぁ」
噛み締めるように呟く。自分から離れたいと願ったくせに、離れられなかった事に、何故こんなにほっとするのか、自分の心が解らない。
解らないけど、アルファとか、オメガとか、そういう事じゃない。
たぶん、ずっと、鉄堅は本当にずっと自分の事を好きだった事が、素直に嬉しかったのだ。
(嘘つきじゃなかった)
もしかしたら、変わらない気持ちも有るのかもしれないと、もしそうなら、鉄堅の気持ちをいつか受け入れる時が来るのかなと、葉月は、左右の自分の靴の爪先を見つめながら思って、なんとなく、気恥ずかしくなって、両ひざに顔を伏せた。
「ずっと好きだったってさ」
ぽそっと呻いて、そんなことをわざと口にした事がさらに恥ずかしくて、ごんごんっと、膝に頭をぶつける。嬉しいのか、何なのか。
嫌われて当然な事をしてきたのに。
嘘をついて、逃げたのに。
アイツは何一つ変わらなかった。
ずっと好きだったってさ……。
「バカだわ、鉄堅、頭良いはずなのに、何なんだあいつは、何で俺なんかの事そんなにずっと想ってられるんだろ、変なやつ」
だめだ、やはりまだ発情期のせいで、考えが上手く纏まらない。もう一度薬を飲んで寝よう。
靴を脱いで、リビングへ入っていくと、おかえりと父が優しく迎えてくれた。
◆◇◆
学校を3日も休むと、流石に飽きるし、もう大丈夫なのじゃないかという気持ちがわいてくるもので。葉月は、スマホをいじりながら、ベットの上でゴロゴロと寝返りをうった。
鉄堅のいうところの、いい匂いとやらは自分では解らない。だから、何が危険なのかいまいちピンと来ないのが問題だった。
薬を飲まなくても熱もないし、下腹ももうムカムカしない。そろそろ学校へ行ったって平気だと思うし、何より退屈だった。
そんな時に、スマホがピロロンと鳴った。画面を見ると、成瀬からのメールだった。
《起きてる? 体調どう? 学校で配られたプリントを持っていく、家に行っていい?》
(まじで? ありがとう、家解る? 大杉公園まで来てくれたら、迎えに行くよ)
急いで返信を打つと、okって、変なキャラのスタンプが送られてきた。
「ぷ、なんだこのスタンプ、無料の使うなよ」
休み続けて3日目のテンションは、ちょっと狂ってて……生き別れた兄弟に会うかのごとく、喜んで大杉公園へ向かった。
桜の名所の大杉公園は、しばらく来ない間に、花を散らし、緑の若葉がサラサラと揺れる、初夏の香りを漂わせはじめていた。
「はぁ、めちゃ、うららか」
ぼんやりベンチに座って、青空を流れる雲をみて風を感じてると、向こうの方から成瀬がやって来た。
「いたいた、戸村、元気そうじゃん」
「元気元気、悪かったなこんな遠くまで」
「1時間くらいか、こっちの方、初めて来たよ」
にこやかな会話。そーだよ、これだよ、これが高校生男子の爽やかな会話ってやつだよ。鉄堅相手にしてると、なんか気持ちがもやついて、上手くいかないけど、普通はこうなんだよ。
キシシっと、笑って、ベンチから立ち上がる。一瞬だけ、成瀬が戸惑うような表情をみせた。
「どうした? 俺ん家行く?」
「あ……いや、何でもない、うん、高校のダチんち、初めて行くわ」
「俺も呼んだの初めて、あ、男所帯だから汚かったらすまん」
「まじか、羨ましい、うち、姉が二人居てさ、姦しいったら、朝から洗面所の取り合い」
「成瀬のねーちゃん? 絶対美人じゃん、今度しょーかいして」
「はぁ? あんなの、戸村には合わないよ、まじでうるさいんだから」
けらけらと、笑いながら他愛ない話が心地いい。さらさら、流れていく会話。とどまらない、いつか忘れて行く会話。意味が有るようでない、その場しのぎの……楽しいだけの軽いノリ。
鉄堅とこんな風に話すのは永遠に無理かもななんて思って、いやいや、友達になったのだし!いつか、あいつともこんな風に、爽やかに……無理か。だけど、まぁ、重くても良いかも。一人くらい重くても俺は、別に慣れてるし。
頭をぷるぷる振った。今は、あいつのこと考えるの止めよう。
「成瀬、俺んちこっち」
「お、おう」
成瀬を連れて、平日の静かな住宅街を歩く。ちっとも誰ともすれ違わなくて、二人っきり出歩くのはなぜか少しだけ、心許ないような、変な感じがしてきて、家に招いて良かったっけ? と今更ながら思った。
「はーー上手くいった、ちゃんと謝れた、良かった」
自分が意地っ張りなことを知っているし、鉄堅の家の前で喧嘩ごしになってしまったし、もう仲良くなるなんて無理かと思った。
「良かったぁ」
噛み締めるように呟く。自分から離れたいと願ったくせに、離れられなかった事に、何故こんなにほっとするのか、自分の心が解らない。
解らないけど、アルファとか、オメガとか、そういう事じゃない。
たぶん、ずっと、鉄堅は本当にずっと自分の事を好きだった事が、素直に嬉しかったのだ。
(嘘つきじゃなかった)
もしかしたら、変わらない気持ちも有るのかもしれないと、もしそうなら、鉄堅の気持ちをいつか受け入れる時が来るのかなと、葉月は、左右の自分の靴の爪先を見つめながら思って、なんとなく、気恥ずかしくなって、両ひざに顔を伏せた。
「ずっと好きだったってさ」
ぽそっと呻いて、そんなことをわざと口にした事がさらに恥ずかしくて、ごんごんっと、膝に頭をぶつける。嬉しいのか、何なのか。
嫌われて当然な事をしてきたのに。
嘘をついて、逃げたのに。
アイツは何一つ変わらなかった。
ずっと好きだったってさ……。
「バカだわ、鉄堅、頭良いはずなのに、何なんだあいつは、何で俺なんかの事そんなにずっと想ってられるんだろ、変なやつ」
だめだ、やはりまだ発情期のせいで、考えが上手く纏まらない。もう一度薬を飲んで寝よう。
靴を脱いで、リビングへ入っていくと、おかえりと父が優しく迎えてくれた。
◆◇◆
学校を3日も休むと、流石に飽きるし、もう大丈夫なのじゃないかという気持ちがわいてくるもので。葉月は、スマホをいじりながら、ベットの上でゴロゴロと寝返りをうった。
鉄堅のいうところの、いい匂いとやらは自分では解らない。だから、何が危険なのかいまいちピンと来ないのが問題だった。
薬を飲まなくても熱もないし、下腹ももうムカムカしない。そろそろ学校へ行ったって平気だと思うし、何より退屈だった。
そんな時に、スマホがピロロンと鳴った。画面を見ると、成瀬からのメールだった。
《起きてる? 体調どう? 学校で配られたプリントを持っていく、家に行っていい?》
(まじで? ありがとう、家解る? 大杉公園まで来てくれたら、迎えに行くよ)
急いで返信を打つと、okって、変なキャラのスタンプが送られてきた。
「ぷ、なんだこのスタンプ、無料の使うなよ」
休み続けて3日目のテンションは、ちょっと狂ってて……生き別れた兄弟に会うかのごとく、喜んで大杉公園へ向かった。
桜の名所の大杉公園は、しばらく来ない間に、花を散らし、緑の若葉がサラサラと揺れる、初夏の香りを漂わせはじめていた。
「はぁ、めちゃ、うららか」
ぼんやりベンチに座って、青空を流れる雲をみて風を感じてると、向こうの方から成瀬がやって来た。
「いたいた、戸村、元気そうじゃん」
「元気元気、悪かったなこんな遠くまで」
「1時間くらいか、こっちの方、初めて来たよ」
にこやかな会話。そーだよ、これだよ、これが高校生男子の爽やかな会話ってやつだよ。鉄堅相手にしてると、なんか気持ちがもやついて、上手くいかないけど、普通はこうなんだよ。
キシシっと、笑って、ベンチから立ち上がる。一瞬だけ、成瀬が戸惑うような表情をみせた。
「どうした? 俺ん家行く?」
「あ……いや、何でもない、うん、高校のダチんち、初めて行くわ」
「俺も呼んだの初めて、あ、男所帯だから汚かったらすまん」
「まじか、羨ましい、うち、姉が二人居てさ、姦しいったら、朝から洗面所の取り合い」
「成瀬のねーちゃん? 絶対美人じゃん、今度しょーかいして」
「はぁ? あんなの、戸村には合わないよ、まじでうるさいんだから」
けらけらと、笑いながら他愛ない話が心地いい。さらさら、流れていく会話。とどまらない、いつか忘れて行く会話。意味が有るようでない、その場しのぎの……楽しいだけの軽いノリ。
鉄堅とこんな風に話すのは永遠に無理かもななんて思って、いやいや、友達になったのだし!いつか、あいつともこんな風に、爽やかに……無理か。だけど、まぁ、重くても良いかも。一人くらい重くても俺は、別に慣れてるし。
頭をぷるぷる振った。今は、あいつのこと考えるの止めよう。
「成瀬、俺んちこっち」
「お、おう」
成瀬を連れて、平日の静かな住宅街を歩く。ちっとも誰ともすれ違わなくて、二人っきり出歩くのはなぜか少しだけ、心許ないような、変な感じがしてきて、家に招いて良かったっけ? と今更ながら思った。
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