胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第一章

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葉月は、真っ青になりながら、家に帰った。どんな道でどんな方法で帰ってきたのかさえ解らないくらい、放心していた。

まだお昼過ぎだけど、今から行けば学校に遅刻で済むと思ったけれど、四肢に力が入らず動けなかった。

リビングの椅子に、ただぼぅっと、座って、いつの間にか時が過ぎてて、玄関が開く音が聞こえて、ビクッとやっと顔を上げた。

父親が、真っ暗なリビングのなか、椅子に、青ざめて座っている葉月を見つけて驚く。

「葉月っ!! どうしたんだ、大丈夫なのか」
「あ……父さんごめ、洗濯物まだ」
「そんなこと、どうだっていい、どうした? 熱が有るのか?」
「熱、無いよ、ちょっと疲れただけ」
「鉄堅君と何か有ったのか?」
「いや……ううん……有ったのかな……もう、来るなって言われた」

もう来ないで欲しいと、はっきりと言われた。鮮明に甦る言葉に、涙が競り上がる。

「葉月、鉄堅君は今、普通じゃない、普通じゃない時の言葉は本心じゃない、許してあげなさい、そして信じてあげなさい」
「でも、迷惑だって」
「そんなことない、今の鉄堅君は事故で混乱してるだけだ、お前を思いやるだけの余裕もない、だからもう少し待っておやり」

父さんの言葉は優しくて、慈愛に満ちてて、人を思いやれる大人の言葉だった。葉月の凍りついた心を少しづつ溶かすように、じっくりと、ゆっくりと諭す。

「待っておやり、葉月」
「待ってたら戻ってくるかな……前みたいになれるかな」
「なれるさ、大丈夫、さぁ、今日はもう休むんだ、また明日から病室へ行くんだろ」

しかし、葉月はふるふると首をふった。強く握りしめられたその手は震えていて、必死で心の中を整理している様子がみてとれた。

「行かない、今は行っても喜ばれないから……学校にいく」
「葉月、本当に?」
「うん」

しょんぼりと、自分の部屋へ入っていく息子を見つめ、父は、はぁとため息を吐いた。
もしも、母親が居たらきっと、葉月の気持ちに寄り添えただろう。同じオメガとして運命のツガイを持つ彼女なら、葉月の気持ちが解るだろう。だがしかし、彼女はもう居ない。



次の日、葉月は、お弁当を作り、学校へ行った。
心がズキズキ傷んで、本当は鉄堅の所へ行きたかったけれど、喜ばれないのが解ってしまうと、近寄るのが恐くなった。

(頑張ろうって思ったのに、頑張れないよ鉄堅、お前はずっと……どうやって俺のこと好きでいたんだろ)

たった3日で根をあげて、情けない。鉄堅は10年以上も俺のこと好きでいてくれたのに。

(あいつは、強いな、俺は……ちっとも強くない、嫌われるのが怖くてたまらない、せっかく築いた関係が崩れていくのが怖い、失うのが怖い、最初から失うものが無ければこんなに怖くないのにとすら思って、失わない為に頑張れない、弱いままいつも目を反らしてる)

鉄堅を失わない為に、何度嫌われてもそばに行くべきだって解ってるのに、怖くて行けない。

学校へ行くなんて最もらしい理由で、鉄堅から逃げた。心がこんなにグラグラして、不安定で、こんなまま、鉄堅に会いに行っても、なじってしまいそうだから。

何で忘れるんだって、なじってしまう。

鉄堅のせいじゃないのに、何も鉄堅は悪くないのに。好きになって貰えないから。好きになってもらえないのは自分のせいなのに。何かのせいにしたくて、誰かのせいにしたくて、自分のせいだと認められなくて。



教室に着くと、いつものメンバーが迎えてくれた。
斎藤は、バイトで無理をさせたと思ってるし、そんなことないのに、嘘をついた。

「ごめん、思った以上に疲れてたみたい」
「慣れるまでが大変だもん、仕方ないよ、また元気になったら来てくれって上林さんも言ってたし気にするなよ」
「うん」

成瀬だけが、じっと、葉月を見ていた。だが、暗い瞳をしたままの葉月に何も言わなかった。



◆◇◆

その日の体育は、バスケで、5人づつの試合形式、ニクラス合同だから、順番が回ってこなくて、葉月は体育館の壁にもたれてぼんやりとしていた。

「鉄堅君、事故したんだって?」

成瀬が隣に座るなり、そう言った。いずれ聞かれるだろうとは思っていたから、頷いた。

「まだ退院しないの?」
「検査とか色々あるから」
「会いに行ってる?」
「……」
「昨日、うちの姉が会いに行ったって言ってたよ」
「そう」

成瀬の姉といえば、鉄堅に告白したとかいう、アルファの生徒会の人だ。2人いて、どっちが行ったんだろうと思ったけど、聞く勇気がなかった。

鉄堅は、同じ学校の、同じアルファになら心を許して喋るのだろうか。気持ちが塞いでいく。

「覚えてないから、帰れって言われたって怒ってたよ」
「……」

「記憶が混濁してるんだって?そんなこと、ホントあるんだね」
「……」

「もしかして、葉月のことも忘れちゃったの?」
「……嬉しい?」
「え?」
「俺と鉄堅がうまくいかなくて嬉しい? 笑えば良いだろ、運命なのに、忘れられて、けっさくだろ、笑えるよな」
「笑えないな」

成瀬はぽつりと言った。

「笑えないよ、葉月がどれ程苦しいか解るから笑えない」
「何だよ、いつもからかうのに」
「心外だな、本気で苦しんでる人を笑うほど鬼畜じゃないよ」
「……」
「忘れられて怖いかもしれないけどさ、会いに行ってあげな」
「……」

ぽんと、葉月の頭の上に手を置いて、慰めるようにポンポンと成瀬は葉月の頭を優しく叩いた。

「俺なら来て欲しい、例え記憶がなくても、来て欲しい」
「お前と鉄堅はちがう」
「それでも、来て欲しい、好きな人を簡単に嫌いになれない、絶対にまた好きになるから」
「そんなの……解らないし」
「なるよ、何度も葉月に恋をするさ、積み重なったものがなくても、好きになる、今の鉄堅君は気づいてないだけだよ」

そんなの、根拠も確信も何にもない成瀬の楽観的観測だ、鉄堅と同じアルファの言うことだという一点だけで、何もかも鵜呑みになんか出来ない。出来ないけど……そうならどんなに良いか。

「来るなって言われたんだよ」
「来て欲しいよ」
「迷惑なんだよ」
「まってると思うよ」
「何で今日のお前はそんなに、優しいんだよ」
「葉月の事が好きだからだよ」
「……」
「好きな子には、幸せでいて欲しいんだよ、運命のツガイに憧れがあるし、親のこともあって、離れる運命なんて、嫌なんだ。最初は奪えるなら奪ってやろうと思ってたけど、葉月の恋愛コンプレックス埋めれるの、鉄堅君だけだよ」
「なんで」
「あんな一途に、一生をかけるみたいな愛しかたできるのは運命だけだと思ったよ、俺は適わないなって思ったよ」

成瀬は、葉月の頭から手を離すと、ぽんと、今度は葉月の背中を叩いた。

「好きなんだろ?勇気だして行ってこい、運命の絆、俺に見せつけてみなよ」
「……うん」

葉月は立ち上がって、体育館から走って教室に戻ると、急いで着替え、外に飛び出した。












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