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第一章
36.5
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葉月が帰ったあと、ガランとした病室にやってきたのは同じ学校の、同じ生徒会の人だと主張する女子二名だった。
「あ、ここで合ってる、ほら美由こっち」
「まってお姉ちゃん」
コンコンと病室のドアをノックすると、中から女性の声が聞こえた。
「どうぞ」
「こんにちは、私達、鉄堅君のお見舞いに来ました、同じ学校で生徒会を一緒にしてます成瀬美由と、成瀬凛です」
可愛らしい女子高生2人に、鉄堅の母親は、頬を緩め、中へ招き入れた。
「鉄堅、学校のお友達がきてくれたわよ」
しかし、鉄堅は顔を向けることもなく、帰ってもらってと一言発したのみだった。
「えっ!?」
女子高生二人は、顔を見合わせた。まさか、ここまで冷たくされるとは思わなかったからだ。お母さんは、眉根を下げて、鉄堅をたしなめる。しかし、最終的には、鉄堅の主張を優先せざる得ない様子。
「鉄堅、失礼でしょ、ごめんなさいね、あの子、ちょっと、記憶が混濁してて……」
「そう、なん、ですか、あの、私達同じ生徒会の」
「覚えてません、帰って下さい」
冷たい言葉に、2人は顔を再度、見合せ、困ったように鉄堅の母親を見つめた。
おばさんは、はぁっと溜め息を吐いて、また謝った。
「ごめんなさいね、事故したばかりで気が立ってて」
「いえ、私達の方こそ……すみません、これ、先生からのプリントとお菓子です」
「ありがとう」
おずおずと差し出された、プリントとお菓子を受け取って、鉄堅の母親はまた深い溜め息をはいた。
「本当にごめんなさいね、せっかく来て下さったのにあんな態度で」
「いえ、私達も突然来てしまいましたから、どうぞお気になさらないで下さい、じゃ、鉄堅君……お大事に」
2人がペコッと頭を下げて、病室から出ていくと、鉄堅の母親は、鉄堅に近づいた。
「鉄堅、ひどいわ、あんな態度で」
「知らない人に合っても時間の無駄になる」
「まさかと思うけど、葉月ちゃんにもそんな態度をとったんじゃ無いわよね? さっき、クッキーもってきてくれたのよね?」
「……」
返事をしない息子に、さすがに、母は、口調を強くした。
「本当に、そんな冷たい態度をとったの? 葉月ちゃんに、鉄ちゃん、どうなの?」
「もう、来るなと言った」
鉄堅の母親は、目を見開いた。かつて、16年間育ててきた息子の口から、葉月への拒絶を聞いたのは初めてだった。
産まれてすぐ、同じ産院にいた、隣の席に座った妊婦さんにやたらとくっつきだがって、その妊婦さんが産んだ子が葉月ちゃんだった。色々あって、葉月ちゃんの母親は、葉月ちゃんを置いて出ていってしまったけれど、0歳児、同じ保育園に預けられた葉月ちゃんを一目みるなり、鉄堅は猛烈なハイハイで近づいてキスをするくらい、葉月ちゃんの事が好きで夢中で……それは長年、ずっと、鉄堅の核の様なもので。
正直、親の目からみても、明らかに葉月ちゃんが嫌がってるから引きはなそう、引きはなそうとしても、全くへこたれず、くっつこうくっつこうとして……これは多分運命のツガイなんだろうと周りに認識され始めて、知らぬは本人達だけで、成り行きを見守ってきた。
最近になって、ようやく鉄堅の長い恋は実って、これからという時の事故だった。
一番大切な人を忘れてしまったなんて。
母親は堪えきれず、涙をぽたぽたと落とした。あんなに好きだったのに、よく一緒に大きなチョコレートを作ったり、手編みのマフラーなんか絶対に要らないだろうと思ったけど、編むってきかないから一緒に編んだり、長い時を、たった一人だけを思っていきてきたのに。そのひたむきな恋を忘れてしまったなんて。
「母さん?」
「鉄堅だめよ、忘れてはだめ、葉月ちゃんのことだけは忘れてはだめよ、貴方の一番大切な人なの、本当に本当にあなたはずっと、葉月ちゃんだけを好きだったの」
「……あの子を見ると、苦しくなるんだ、頭の中で声がして、頭痛がして、考えると痛いのに、今も、ずっと、考えてる」
鉄堅の苦し気な声を聞いて、母は、涙をぬぐった。そうか、やっぱり葉月ちゃんは特別なのだ。記憶がなくなっても、魂が覚えてるくらい、特別なのだ。
ならきっと、また明日あって、次の日も会ってを繰り返した先に、きっと恋がある。
うちの息子は一途な男だもの、思い出すわ。思い出さなくてもまた恋をするわ。だから、大丈夫ね。
「あ、ここで合ってる、ほら美由こっち」
「まってお姉ちゃん」
コンコンと病室のドアをノックすると、中から女性の声が聞こえた。
「どうぞ」
「こんにちは、私達、鉄堅君のお見舞いに来ました、同じ学校で生徒会を一緒にしてます成瀬美由と、成瀬凛です」
可愛らしい女子高生2人に、鉄堅の母親は、頬を緩め、中へ招き入れた。
「鉄堅、学校のお友達がきてくれたわよ」
しかし、鉄堅は顔を向けることもなく、帰ってもらってと一言発したのみだった。
「えっ!?」
女子高生二人は、顔を見合わせた。まさか、ここまで冷たくされるとは思わなかったからだ。お母さんは、眉根を下げて、鉄堅をたしなめる。しかし、最終的には、鉄堅の主張を優先せざる得ない様子。
「鉄堅、失礼でしょ、ごめんなさいね、あの子、ちょっと、記憶が混濁してて……」
「そう、なん、ですか、あの、私達同じ生徒会の」
「覚えてません、帰って下さい」
冷たい言葉に、2人は顔を再度、見合せ、困ったように鉄堅の母親を見つめた。
おばさんは、はぁっと溜め息を吐いて、また謝った。
「ごめんなさいね、事故したばかりで気が立ってて」
「いえ、私達の方こそ……すみません、これ、先生からのプリントとお菓子です」
「ありがとう」
おずおずと差し出された、プリントとお菓子を受け取って、鉄堅の母親はまた深い溜め息をはいた。
「本当にごめんなさいね、せっかく来て下さったのにあんな態度で」
「いえ、私達も突然来てしまいましたから、どうぞお気になさらないで下さい、じゃ、鉄堅君……お大事に」
2人がペコッと頭を下げて、病室から出ていくと、鉄堅の母親は、鉄堅に近づいた。
「鉄堅、ひどいわ、あんな態度で」
「知らない人に合っても時間の無駄になる」
「まさかと思うけど、葉月ちゃんにもそんな態度をとったんじゃ無いわよね? さっき、クッキーもってきてくれたのよね?」
「……」
返事をしない息子に、さすがに、母は、口調を強くした。
「本当に、そんな冷たい態度をとったの? 葉月ちゃんに、鉄ちゃん、どうなの?」
「もう、来るなと言った」
鉄堅の母親は、目を見開いた。かつて、16年間育ててきた息子の口から、葉月への拒絶を聞いたのは初めてだった。
産まれてすぐ、同じ産院にいた、隣の席に座った妊婦さんにやたらとくっつきだがって、その妊婦さんが産んだ子が葉月ちゃんだった。色々あって、葉月ちゃんの母親は、葉月ちゃんを置いて出ていってしまったけれど、0歳児、同じ保育園に預けられた葉月ちゃんを一目みるなり、鉄堅は猛烈なハイハイで近づいてキスをするくらい、葉月ちゃんの事が好きで夢中で……それは長年、ずっと、鉄堅の核の様なもので。
正直、親の目からみても、明らかに葉月ちゃんが嫌がってるから引きはなそう、引きはなそうとしても、全くへこたれず、くっつこうくっつこうとして……これは多分運命のツガイなんだろうと周りに認識され始めて、知らぬは本人達だけで、成り行きを見守ってきた。
最近になって、ようやく鉄堅の長い恋は実って、これからという時の事故だった。
一番大切な人を忘れてしまったなんて。
母親は堪えきれず、涙をぽたぽたと落とした。あんなに好きだったのに、よく一緒に大きなチョコレートを作ったり、手編みのマフラーなんか絶対に要らないだろうと思ったけど、編むってきかないから一緒に編んだり、長い時を、たった一人だけを思っていきてきたのに。そのひたむきな恋を忘れてしまったなんて。
「母さん?」
「鉄堅だめよ、忘れてはだめ、葉月ちゃんのことだけは忘れてはだめよ、貴方の一番大切な人なの、本当に本当にあなたはずっと、葉月ちゃんだけを好きだったの」
「……あの子を見ると、苦しくなるんだ、頭の中で声がして、頭痛がして、考えると痛いのに、今も、ずっと、考えてる」
鉄堅の苦し気な声を聞いて、母は、涙をぬぐった。そうか、やっぱり葉月ちゃんは特別なのだ。記憶がなくなっても、魂が覚えてるくらい、特別なのだ。
ならきっと、また明日あって、次の日も会ってを繰り返した先に、きっと恋がある。
うちの息子は一途な男だもの、思い出すわ。思い出さなくてもまた恋をするわ。だから、大丈夫ね。
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