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しおりを挟むドアがコンコンと鳴った。
おそらく葉栗が、叩いているのだろうが、無視をすると、またゴンゴンと少し大きめに鳴った。はぁっと、溜め息を吐いた。あっちもあっちで、思うところが有るらしい。いつもみたいに開けた距離を、今日はやけに詰めてくる。
扉をあけずに、布団を被ったまま、ぶっきらぼうに返事をする。僕だって自分の時間を大切にしたいんだ、自由な時間の全部を雪夜君のこと考えていたい。それなのに、無遠慮に邪魔をする。
「なに」
「開けてくれ、話が有る」
「僕はない」
「俺はある」
ムッとしたが、ここで無視を続けるのも大人げない。仕方なく、ベットからのそりと出て、ドアを開けると、葉栗がその巨体で突然覆い被さってきた。
「なっ! なんだよ、なに?」
「さっきはごめん」
「何が」
首筋に吐息がかかる。ゾッとした。今まで葉栗とは距離をとって接してきたのに、こんなに近づいたのは、家族として共に暮らしてから初めてのことだった。だから気づかなかった、こいつがアルファ特有のフェロモンを持っていることに。
頭がくらくらする。義弟のフェロモンに当てられるなんて、そんな情けないことあるか。
「離れ……ろ」
「なるに、何か有ったんじゃないかとずっと心配で気が狂いそうだった、それなのに平気な顔で、他のアルファの匂いをつけて帰ってきて、腹が立って」
確かに、連絡もとれず、家の鍵もかけずでは、心配をかけたのかもしれない。だけど、何でそこまで自分を心配するのかが解らなかった。家で暮らしてた時はそんな素振り見せなかったじゃないか。思春期にはいってからは、お前は僕に話しかけることはなかったし、僕も、話しかけなかった。たまたま今回、お前がうちの大学にくるって言うから……部屋が決まるまではと思ってたのに、いつの間にか同棲みたいな話しになってて。そこに僕の意思なんか聞いてもらえなくて。勝手に来たんじゃないか。
「別に何か有ったとしても、お前には関係ないよ?」
「なんであんたは、そんなに何時も冷たいんだ、俺はずっとあんただけを愛して生きてきたのに」
ぎゅうっと、葉栗に抱き締められたまま、葉栗の言葉が意味が解らなさすぎて、頭がおかしくなったのかと思った。愛してきた? だって? いったいいつ、お前が僕を愛した時があったんだよ。何を言ってるんだ?
「は?」
「好きだったずっと、なるのこと、誰にも渡したくない」
「は?」
無理やりキスされそうになって、バッと顔を背けて抗った。信じられない。兄弟でキスだって?
「ばか、やめろ、気でも狂ったのかよ」
「俺だって何度も諦めようとした、だけど諦められない、だったらいっそ、もう諦めない」
誘発フェロモンだ。こんなのまともに食らったら、オメガは直ぐにグダグダになる、義理の弟相手にそんなこと死んでも嫌だ。
義理の弟の誘発フェロモンなんて、冗談じゃない。葉栗が何を考えているのか解らない。初めて葉栗を、怖いと思った。今までどんなに喧嘩になっても、こんなこと1度としてなかったのに、今日はおかしい。
「おま、え、まじで、やめ」
「好きなんだ」
首筋に葉栗の唇が当たって、悪寒が走る。これはいま、もしかして、義弟にレイプされかけているんじゃないかと、頭の端で考えて青ざめる。冗談じゃない、こんなこと親にバレたら僕は今でこそ冷ややかな扱いなのに、それ以上に見下されるなんて。
「やめろ」
「好きだなる、可愛いってずっとおもってた」
「嫌だ。僕は好きじゃない」
「好きだ」
「嫌だ」
身体の大きな葉栗には力では敵わない。このままベットへ行かれたら、何をされるか解らない。怖い。
「ほんとに、いやだ! さわるな」
「な、んで」
「離せ、さわるな」
葉栗の身体がぶるぶると震えて、僕の首筋にポタポタと涙が落ちるのが解った。
「好きなんだ」
葉栗の苦しげな声が耳元で、僕に許しを乞うように囁かれ、何度も狂ったようにその囁きは続く。
最初は怖いと思った義弟の行動、いつも強気なこいつが泣くなんて、ここまで追い詰めたのは自分なのだろうか。オメガの性のせいなのか? 絶望的な気持ちで、僕は葉栗をなんとか引きはなそうと考えていた。
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