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夜鳥すぱり

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 雪夜君は、カチャンとホークを皿の上に置いた。まだミートソースパスタは半分くらい残ってる。美を意識している人は、腹八分目で食べるのを止めると聞いたことがあるけど、もしかして雪夜君もそうなのかなと考えていると、なるみと名を呼ばれた。

「はい?」
「いっそ、付き合ってみたらどうだ?」
「え?誰と」
「弟と」
「……」

何故に? 疑問符が頭のなかを飛び回る。義弟と付き合う? 何故に? 雪夜君にはきっと深い考えがあるのだろうけど、でも、その提案に対する僕の答えは1つだ。

「むりです」
「でも、なるみを幸せにしてくれるかも」
「幸せ?」
「一途そうだし、ずっとなるみを好きだったんだろ? 可愛いじゃないか」
「可愛い? 可愛くは……ないです、身体でかくて」

僕の2倍くらいあるあの巨体を可愛いとは思えない。昨日だって引き離せなくて、可愛いどころか恐かった。雪夜君は弟という単語だけでもしかしたら、小さな子供を想像しているのだろうか。小さくなんかないんですよ、むしろ熊みたいにでかい男なんです。

「あの、うちの義弟は、柔道部の主将で身体がめちゃくちゃでかいです、僕の3倍くらい厚みがあって身長も180くらいあって、はっきりいってちっとも可愛くはないです」

「いや、そういう可愛さじゃなくて、ずっと一途にお前を好きだったんだろ? ずっと隠してたんだろ? いじらしいじゃないか」

あ、そういう意味でしたか。いやいや、一緒に暮らしてて勝手に好きとか怖いですけど、雪夜君レベルになると、それを可愛いって思えちゃうんだ。凄いなぁ。心が本当に清らかで、広い人なんだぁ。

「恐怖でした、なんで弟に告白なんかされなきゃならないんだろうって絶望しかなかったです。うちの母にばれたら、たぶん僕、百叩きの刑にあいますし、オメガが弟まで誘惑してと罵られるのが目に浮かびます」

「……そ、それは、そうか、それは、確かに立場的につらいか、じゃぁ、弟君とは絶対恋愛はできないんだな?」

「100%できません」

100%どころか、1000%できない。というか、怖すぎてそんなの無理すぎる。なんで、よりによって弟と恋愛なんかしなきゃなんなあのか。いくら、雪夜君のおすすめでもこれだけは無理なものは無理です。というか、好きな人に別の人と付き合えと言われるなんて。あぁ、雪夜君は僕が雪夜君を好きって知らないんでした。じゃぁ、そりゃぁ、勧めるよね。家族だし、安全牌だし、身近なアルファだし。でも僕は……あなたしか好きじゃないんです。言えないけど。


「解った、じゃぁ、提案なんだけど、同棲はやめた方がいい」

「ですが、大学が同じで、実家からだとちょっと遠くて、あいつ1限目に間に合うかな?と思いますし、柔道部の部活があって夜遅いですし実家に帰れと言うのも言いにくい現状で」

僕のアパートは大学から徒歩15分の学生アパートなので、立地は最高なのだ。かといって、僕が実家に戻るという選択肢はないし、新しく部屋を借りるほどもお金もない。現状維持しか選択肢がないのだ。

雪夜君は、うーんと何かを思い悩んでいたが、決断したのか、僕をじいっと見詰めた。

「もし、なるみが良かったら、ここに住むか?」
「は?」
「物理的な距離は有効だと思う、その、弟君が落ち着くまでは、距離を取る方がいい。アルファは……例えば、なるみの発情期に予期せずに出くわしたりしたら理性を無くし間違いがおこるかもしれない、お前が拒否したいのに、その体格差では危険だと思う」

なんて優しいんだろう、そこまで考えてくれるなんて。そっか、雪夜君の親さんはもしかして予期せずに雪夜君を……自分みたいな子を作らない為に……雪夜君の生い立ちを思うと、胸がキュウッとなる。でもだからって、そんな、そこまで甘える訳には。

そもそもことに、なったのは自分が悪いのだし。葉栗ともう一度きちんと話し合って、線引きをさせなきゃ。そうだよ、僕の住んでるアパートなのだし、なんで僕が遠慮しなきゃなんだ、ここは兄としての威厳をもって、弟にきちんと言わなきゃ。

雪夜君の優しさのおかげで、気持ちが固まりました。





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