オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶

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クラウスのこと。

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 俺はクラウスと街へ出かけて帰宅した後、自室で椅子に座って物思いにふけっていた。
いつの間にか、侍従がいれた紅茶からは湯気が消えていた。

 何も手を付けず、ただぼんやりと、初めてクラウスと会話した日のことを思い出していた。

 俺の家は、代々宰相の補佐を務めるような要職についているが、そちらは本業ではなく、
実は王族直属の影の騎士の一族である。
 表立ってはできないような偵察、潜入、事後処理など、
 影ならではの任務にあたっているのが我がノイエンドルフ家だ。

 俺もまだ正式に家業を担ってはいないが、
 来年の魔法騎士学院の卒業後を視野にいれて
父の手伝いをしたり、索敵能力や隠密行動の訓練を日常から行うようにしている。

 そんな理由で、普段から目に届く範囲の人間がどんな行動をしてどんな発言をしているのか、
索敵を展開しているのだが、

 まさかあの日、3歳も年下の、なんてことなさそうなヤツに
俺が長年「人間嫌い」を隠して周りの人間が求めるような人物像を演じてきたことを
あっさり見抜かれるなんて、本当に衝撃だった。

 なんとしても、
「どうやって見抜いたのかを明かしてもらわなくては」
と躍起になった。

 すぐに彼の身元を調査し、直接話をするために呼び出した。

 そして、クラウスから語られた真実は想像の斜め上をいくものだった。
 
 まさか、自分の個人情報が筒抜けになっているとは。

 『ステータス画面』なんて聞いたこともないが、
この学院の数人の個人情報が常にクラウスには見えているという。

 家業のせいであらゆるの魔法の知識はあるものの、
そんな魔法は聞いたこともなく。
 しかも『ステータス画面』が見えるという人物の中には
この帝国の王族も含まれていた。
 彼が王族であるという事実そのものが、国家機密のようなものだ。

 クラウスを野放しにしてはいけない。
 クラウスを監視せねば。

 クラウスの弱みを握れれば彼の行動をコントロールする手札になるかもしれない、
と悩んでいることを聞いてみたのだが、
今度は

「好きな相手に好きな気持ちを伝えているが伝わらなくて困っている」

と返ってきた。

 毎日毎日、嫌になるほど他人からの好意の気持ちを一方的にぶつけられて耐えている身としては、
その鈍感すぎる好きな相手のことが少しうらやましくもあったが、
欲しいものがどうしても手に入らないという渇望の気持ちを感じたことがない俺には、
クラウスの気持ちはわからなかった。

 俺はそんなクラウスの気持ちに興味を持った。

 クラウスとのつながりを断ったら困る、と思ったのは、
国家的危機に対する監視の必要性を感じたからが半分、
クラウス自身に興味をもったからというのが半分だった。

 しかしクラウスは俺には少しも興味がないという。
 こんな経験は初めてだった。

 そんな彼の気持ちを引き留めるために

「好きな人に好かれるように魔法や勉強を教えてあげる」

という、少々、いや、かなり強引な言い訳をしたが、
案外彼はあっさりとその提案に乗ってくれた。

 クラウスに勉強や魔法を教える時間は、思いのほか楽しいものだった。
俺の言うことをスポンジのように吸収して成長していくのをみるのも楽しかったし、
なによりクラウスには自分を取り繕う必要がなく、本来の自分でいられるのは
こんなにも楽なことなのだと思い知った。

 家族だったり、アルベルト、レグルスといるときも
本来の自分ではいるのだが、クラウスはまた特別というか。

 そして、クラウスに指摘されたとおり、
「息を吐くようにウソをつく」
はずの俺が、クラウスには一度もウソをついたことがないことに気付いた。

 クラウスに幻滅されるされるのを覚悟で、
俺の過去や俺の心の闇を正直に話してしまったが、
クラウスはその話に幻滅するどころか、俺の為に怒ってくれた。
まさかの出来事だった。

 今までクラウスに対して湧き出てくる自分の感情に対し、見て見ぬふりをしてきた。
気付かないふりをしてきた。

 でももう限界だ。

 俺はクラウスに惹かれている。
 それも、強烈に惹かれている。

 この前の雷雨があったとき、クラウスに

「苦手なものとか、怖いものとか、あるんですか?」

と聞かれ、

 つい気持ちがあふれてしまった。
あの時、クラウスに自分の顔を見られていなくてよかった。
多分俺の想像以上に情けない顔をしていたに違いない。

 アルベルトとレグルスにクラウスのことを伝えられないのも、
全部、俺がクラウスを独占したいせいだ。
クラウスのことを知られて、クラウスの魅力に気づいてしまう人間を増やしたくないせいだ。
アイツらがクラウスのことを好きになってしまうとは思っていないはずなのに、
どうしても伝えられない。伝えたくない。

 しかし。

クラウスは彼の親友であるルーカスが好きなのだ。

 いつしか、俺は学院内で無意識のうちにクラウスを探すようになっていた。
そしてルーカスと楽しそうに会話をしているのを見かけては、
胸がズキズキと痛んでいた。

 なんで俺じゃだめなんだ。
俺と一緒にいるときだって楽しそうじゃないか。
俺とだけ、一緒にいたらいいじゃないか。

 ああ、なるほど、
手に入れたいものが手に入らないという気持ちはこれか。

 これは辛いな。

 クラウスもルーカスに対してこんな気持ちを抱いていたのか。

 なんでその相手が俺じゃないのか。
俺ならすぐにその気持ちに気づいて、答えられるのに。

 よくわかったよ、クラウス。

 俺のこの気持ちを隠したまま、今まで通りクラウスと接するのは難しいだろう。
クラウスには、クラウスだけには、ウソをつきたくない。

 でも俺の気持ちを伝えて、クラウスを困らせたくない。
クラウスに嫌われたくない。
せめて今のまま、面倒見がいい、優しい先輩でいたい。

 もうクラウスとは距離をとるしかないな。

 辛い。しんどい。離れたくない。でも離れるしかない。

 こんな気持ちは知りたくなかった。
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