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先輩のこと。
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今日、ヴァルター先輩と街へでかけて。
オレは寮に帰ってきて、ベッドの上に横たわって、今日あったことを思い出していた。
先輩の私服、似合ってたな。
でも全力疾走した後にちょっとぐちゃっとなってしまった先輩も、なんかよかったな。
二人で全力で走っているとき、
なんでこんな羽目になったんだ!?と思いながらも、
二人で思いっきり走って、すごくすごく楽しかった。
ハンバーグ、美味しいって言ってもらえてうれしかった。
先輩はあんまり食に興味がないんだな。
というよりあまりいろんなものに対して興味がないのかもしれない。
前に、手に入れたいものが手に入らないという経験がないと言ってたし。
名家の息子っぽいから、もともと望めば手に入るという環境だったんだろうけど、
そもそも何かを望むということが少なかったのかもしれない。
先輩が認識阻害の魔法を解いたとたんにあんなことになるなんて、
想像以上だったな。
先輩自身はあんな風に好意をいだかれることは望んでいないのに、
本人の意思に関係なく好意をぶつけられる。
先輩の日常生活に支障があるレベルでぶつけられる。
うらやましいなんてとんでもない。
先輩のまわりの人間はなんて自分勝手なんだろう。
オレみたいなちっぽけな人間でも、先輩を守るために何かできないだろうか。
守ると言えば、
雷の日、先輩のおかげで本当に助かった。
雷だけはあの迷子になった出来事以来、ずっとダメなんだ。
でも先輩に抱きしめられるように守られて、
正直、不安なんてどこかへ行っていた。
あのときの先輩はちょっといつもと違っていたな。
オレのことが怖いとか。
嫌われてなくてよかったと思ったけど、
先輩が言っていたのは、
オレのせいで、先輩が今まで知らなかった感情を引き出されているって。
あれは結局どういう意味だったんだろう。
最初は
「俺が興味を持ったから、もっと話をさせてくれ」
みたいなことを言っていて、
何言ってんだこの人。って思ったな。
でもオレが
「先輩には興味がありません」
って言ったらあわてて
「君がルーカスに好かれるために魔法や勉強を教えてあげる」
って言ってきて。
ついその誘いに乗ってしまったけど、
いつも強引に呼び出してくるわりには、
魔法や勉強の教え方も丁寧でわかりやすくて。
いつもオレの様子を気遣ってくれて、
無理強いをせずにオレに希望を聞いてくれて。
二人でいると本当に楽しくて。
二人でいるとすごく安心して。
ずっと二人でいたくて。
気付けばいつでも先輩のことばかり考えていて。
ああ、好きだなぁ。
うん、好きだ。
オレはヴァルター先輩のことが好きだ。
ルーカスのことは好きだ。
確かにルーカスのことは好きだけど、
ルーカスと友達より先の関係になりたいわけじゃない。
今のまま、一番の親友でいたい。
唯一無二の親友でいたい。
ヴァルター先輩は違う。
ヴァルター先輩の唯一無二の存在になりたい。
友達や先輩後輩ではなく。
他人には見せない本来の姿や先輩の弱みみたいなのを
オレには見せてくれると思うと、
なんとも言えないうれしさと優越感を感じるし、
オレにだけ見せてくれればいいのに、って思う。
もっともっと今までに見たことがない先輩を見たいって思う。
もっともっと先輩に近づきたい、先輩の心の中に入り込みたいって思う。
でも。
先輩は人間嫌いなのだ。
他人からの好意に苦しんできた。
今はオレのことを好ましく思ってくれているっぽいけど、
あくまでもそれはオレが先輩のことを興味がないと思っているからであって。
先輩のことが興味がないオレのことを気に入っているんだ。
ルーカスのことを好きで、伝えているのに伝わらないって言っている、
先輩のことなんか好きじゃないオレのことを気に入ってるんだ。
胸がチクっと痛む。
もし先輩にオレの気持ちがバレたら。
やはりお前もまわりのやつらと同じだったのかと幻滅するだろうか。
もう会ってくれなくなるだろうか。
少なくとも、もう魔法や勉強を教えてもらう意味はなくなるだろう。
だってルーカスによく思われるために教えてくれていたのだから。
はぁ。
先輩にがっかりされたくないな。
幻滅だってされたくない。
なんでこんな気持ちに気付いちゃったんだろう。
この気持ちに気付かなかったら、
平和にのほほんと先輩との二人の時間を楽しめたんだろうな。
でも出会ったときには確かに存在しなかったはずの気持ちが、
どんどん自分の中で大きく育っているのを感じている。
この気持ちには気付かない方が無理だ。
でも先輩にこの気持ちを気づかれたら終わりだ。
二人の時間と二人の関係は終わってしまうだろう。
だから隠し通さなきゃいけない。
「そんなん無理だろ・・・」
だってオレはなんでも思ったことをしゃべっちゃうヤツなんだぜ。
しかも先輩への好きの気持ちがあふれてとまらないのをひしひしと感じている。
「先輩、好き・・・」
オレは天井を見上げながら、1人つぶやいた。
あぁ、いつまで先輩に黙っていられるかなぁ。
オレは先輩への愛しさと、
気持ちを隠さなきゃいけない苦しさと、
そして、きっと気持ちを隠し通すことはできないだろうという絶望という、
複雑すぎる気持ちで感情がぐるぐるしながらベッドの上でまるくなっていた。
-----------------------------------------
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回はクラウス君が自分の気持ちに気付いたり、気持ちを整理する回でした。
ルーカスくんが本人不在のまま振られたみたいになっていますが、
本人はほんとに全くなにも気付いてないので、よき親友です(笑)
次回はヴァルター先輩視点の回です。
よろしくお願いします!
オレは寮に帰ってきて、ベッドの上に横たわって、今日あったことを思い出していた。
先輩の私服、似合ってたな。
でも全力疾走した後にちょっとぐちゃっとなってしまった先輩も、なんかよかったな。
二人で全力で走っているとき、
なんでこんな羽目になったんだ!?と思いながらも、
二人で思いっきり走って、すごくすごく楽しかった。
ハンバーグ、美味しいって言ってもらえてうれしかった。
先輩はあんまり食に興味がないんだな。
というよりあまりいろんなものに対して興味がないのかもしれない。
前に、手に入れたいものが手に入らないという経験がないと言ってたし。
名家の息子っぽいから、もともと望めば手に入るという環境だったんだろうけど、
そもそも何かを望むということが少なかったのかもしれない。
先輩が認識阻害の魔法を解いたとたんにあんなことになるなんて、
想像以上だったな。
先輩自身はあんな風に好意をいだかれることは望んでいないのに、
本人の意思に関係なく好意をぶつけられる。
先輩の日常生活に支障があるレベルでぶつけられる。
うらやましいなんてとんでもない。
先輩のまわりの人間はなんて自分勝手なんだろう。
オレみたいなちっぽけな人間でも、先輩を守るために何かできないだろうか。
守ると言えば、
雷の日、先輩のおかげで本当に助かった。
雷だけはあの迷子になった出来事以来、ずっとダメなんだ。
でも先輩に抱きしめられるように守られて、
正直、不安なんてどこかへ行っていた。
あのときの先輩はちょっといつもと違っていたな。
オレのことが怖いとか。
嫌われてなくてよかったと思ったけど、
先輩が言っていたのは、
オレのせいで、先輩が今まで知らなかった感情を引き出されているって。
あれは結局どういう意味だったんだろう。
最初は
「俺が興味を持ったから、もっと話をさせてくれ」
みたいなことを言っていて、
何言ってんだこの人。って思ったな。
でもオレが
「先輩には興味がありません」
って言ったらあわてて
「君がルーカスに好かれるために魔法や勉強を教えてあげる」
って言ってきて。
ついその誘いに乗ってしまったけど、
いつも強引に呼び出してくるわりには、
魔法や勉強の教え方も丁寧でわかりやすくて。
いつもオレの様子を気遣ってくれて、
無理強いをせずにオレに希望を聞いてくれて。
二人でいると本当に楽しくて。
二人でいるとすごく安心して。
ずっと二人でいたくて。
気付けばいつでも先輩のことばかり考えていて。
ああ、好きだなぁ。
うん、好きだ。
オレはヴァルター先輩のことが好きだ。
ルーカスのことは好きだ。
確かにルーカスのことは好きだけど、
ルーカスと友達より先の関係になりたいわけじゃない。
今のまま、一番の親友でいたい。
唯一無二の親友でいたい。
ヴァルター先輩は違う。
ヴァルター先輩の唯一無二の存在になりたい。
友達や先輩後輩ではなく。
他人には見せない本来の姿や先輩の弱みみたいなのを
オレには見せてくれると思うと、
なんとも言えないうれしさと優越感を感じるし、
オレにだけ見せてくれればいいのに、って思う。
もっともっと今までに見たことがない先輩を見たいって思う。
もっともっと先輩に近づきたい、先輩の心の中に入り込みたいって思う。
でも。
先輩は人間嫌いなのだ。
他人からの好意に苦しんできた。
今はオレのことを好ましく思ってくれているっぽいけど、
あくまでもそれはオレが先輩のことを興味がないと思っているからであって。
先輩のことが興味がないオレのことを気に入っているんだ。
ルーカスのことを好きで、伝えているのに伝わらないって言っている、
先輩のことなんか好きじゃないオレのことを気に入ってるんだ。
胸がチクっと痛む。
もし先輩にオレの気持ちがバレたら。
やはりお前もまわりのやつらと同じだったのかと幻滅するだろうか。
もう会ってくれなくなるだろうか。
少なくとも、もう魔法や勉強を教えてもらう意味はなくなるだろう。
だってルーカスによく思われるために教えてくれていたのだから。
はぁ。
先輩にがっかりされたくないな。
幻滅だってされたくない。
なんでこんな気持ちに気付いちゃったんだろう。
この気持ちに気付かなかったら、
平和にのほほんと先輩との二人の時間を楽しめたんだろうな。
でも出会ったときには確かに存在しなかったはずの気持ちが、
どんどん自分の中で大きく育っているのを感じている。
この気持ちには気付かない方が無理だ。
でも先輩にこの気持ちを気づかれたら終わりだ。
二人の時間と二人の関係は終わってしまうだろう。
だから隠し通さなきゃいけない。
「そんなん無理だろ・・・」
だってオレはなんでも思ったことをしゃべっちゃうヤツなんだぜ。
しかも先輩への好きの気持ちがあふれてとまらないのをひしひしと感じている。
「先輩、好き・・・」
オレは天井を見上げながら、1人つぶやいた。
あぁ、いつまで先輩に黙っていられるかなぁ。
オレは先輩への愛しさと、
気持ちを隠さなきゃいけない苦しさと、
そして、きっと気持ちを隠し通すことはできないだろうという絶望という、
複雑すぎる気持ちで感情がぐるぐるしながらベッドの上でまるくなっていた。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回はクラウス君が自分の気持ちに気付いたり、気持ちを整理する回でした。
ルーカスくんが本人不在のまま振られたみたいになっていますが、
本人はほんとに全くなにも気付いてないので、よき親友です(笑)
次回はヴァルター先輩視点の回です。
よろしくお願いします!
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