オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶

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街デート。

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 雷雨にあった次の日。
いつもの校舎裏の噴水横のガゼボでオレはヴァルター先輩に勉強を教わっていた。
と言っても昨日の出来事が頭を離れなくてなんだか落ち着かない。

「あの!先輩!」

オレはちょっと改まって先輩に話しかけた。

「ん?なんだ?」

「昨日、先輩のおかげで、雷をなんとかやり過ごせたんです
もしあのときオレが外で1人だったらって想像するだけでもう恐怖で・・・
だから何かお礼をさせてください!」

「別に俺はたいしたことしてないじゃないか」

と先輩はやれやれという態度で言った。

「いや!オレの気が済まないんです!オレにできることならなんでもいいんで!」

 すると先輩はちょっと考えて、

「そうだな・・・じゃあ今度の休日に俺と街へ出かけてくれないか?」

「へ?そんなことでいいんですか?」

「ああ。それでいい」

全然お礼になってない気がするけど、先輩がそれでいいなら、いっか。


 次の休日。

 オレは待ち合わせの広場に待ち合わせの時間の10分くらい前に来た。

が、すでに先輩はいた。

 私服姿は初めて見るが、

 髪の色と合わせたような、薄い水色の上質そうなフロックコート。
銀糸の刺繍があしらわれていて、まさに上級貴族といういで立ちだった。

まぶしい。まぶしすぎる。

「ちょっと先輩!」

「やあクラウス、おはよう」

「あ、おはようございます。
って、来るの早すぎだし、
その恰好、めちゃくちゃ目立つじゃないですか!?」

「そうかな?
このデザインはそこそこ気に入っているんだが」

「まあ確かに・・・とても先輩に似合ってますよ」

「本当にそう思ってる?」

「あ、はい。かっこいいし、美しいですよ」

「ふふっ、ありがとう」

 先輩はちょっと嬉しそうに笑った。

「いや、そうじゃなくて!
こんな街にそんな恰好で来たら目立つじゃないですか!
せめてもうちょっと庶民っぽい服で来るとか・・・」

「残念だが、俺はどんな服装でも目立つんだ。
だから自分をカモフラージュするために服装を変えるのは無意味だ」

 え・・・何それ。でも納得。確かに先輩はどんな服でも目立つか。
あれ?でも周りにいる人たち、全然先輩のこと気にしてない気がする。
なんでだろ。

「君はほんと、全部顔に出るなぁ。
なんで俺が注目されないんだろ?とでも思っているんだろ?」

「はい、その通りです、先輩」

「なんてことはない、認識阻害の魔法を使っているからだ」

「あ、なるほど」

「じゃあ行こうか。
クラウスはここにはよく来るのかい?」

「あぁ、まあ、たまに、ですかね。」

「俺はあまり来ないから、
クラウスがよく行くお店につれていってほしい。
先日のお礼、なんだから、これくらいいいだろう?」

 なんでそれがお礼になるのか相変わらずよくわからない。

「そうですね、
じゃあなんか食べに行きますか。」

「やはり屋台とかで食べ物を買ったりするのか?」

「うーん、屋台はスイーツとか、ちょっと小腹を満たすような食べ物が
多いんですよね。
オレはもっとがっつり食べたいんすよ。
だからレストラン行きましょう!
おススメの店があります!」

と言って先輩と向かったのは、
ハンバーグが絶品の、庶民的なレストランだった。

「ここのハンバーグが絶品なんですよ!
オレはやっぱり肉!肉が好きなんです!!」

「ははは、君らしいな。
どのメニューがおススメなんだ?注文はまかせてもいいか?」

「もちろんです!
先輩は食べ物の好き嫌いとか、ありますか?」

「特にない。
強いて言えば、具だくさんスープが好きかな。
手っ取り早く栄養がとれるからな」

なるほど。
好きなものがないということは、
先輩は食にあまり興味がないっていうことか。

「じゃあオレのおススメのハンバーグスペシャルにしましょう!
先輩にも気に入ってもらえるといいな」

 そうこうしているうちに
オレたちのハンバーグがしずる音を響かせて運ばれてきた。

「やっぱここのハンバーグ、最高だ!」

 オレがさっそくがっついていると、
その様子を先輩が面白そうに眺めていた。

「美味しそうに食べるね」

 先輩はそう言いながら、自分の前にあるハンバーグに手を付け始めた。
美しい所作・・・さすがです。

 食後にドリンクがついてきたが、
オレはサイダー。先輩はホットティー。
これまたさすがの所作・・・
絵画かよ。
 ティーカップを持つ手が、
口に運ぶしぐさが、
ステキすぎるよ、先輩。


 オレたちはレストランを後にして、
街を歩いていた。

「先輩がこんなに目立つ見た目をしているのに、
誰もこっちを見てこないの、すごいっすね。
ちょっと試しに認識阻害の魔法を解除してみてくださいよ」

「クラウス、本気か?
やってもいいが、
どうなっても知らないぞ。
お前も覚悟しておけよ」

と先輩は言いながら、パチンと音を鳴らした。

 すると、しばらくして周りの空気が変わった。

周りの女性をはじめ、たくさんの視線がこちらに集まっているのを感じた。

 そして何人かの女性たちが、

「ヴァルターさんじゃないですか!
こんなところで何してるんですか?
よかったらご一緒しませんか?」

と声をかけてきた。

 その声掛けを皮切りに、
あっという間にヴァルター先輩のまわりに人だかりができてしまった。

 ひぇぇぇ
想像以上だった。

 オレはここでどうしたらいいんだ、と戸惑っていたら、
先輩が、

「クラウス、走るぞ!」

と合図を送ってきた。

 それと同時に先輩が走り出したので、オレは後を追った。

「あ、ヴァルターさんが走っていってしまったわ」
「追いかけましょ!」

と数人のお嬢さんが追いかけてきたが、
さすがに魔法騎士学院で鍛えているオレ達にはかなわなかったようで、
どんどん距離ができてきた。

 それでもオレ達は二人で走っていた。

 完全に追跡者(笑)の姿が見えなくなった頃、
建物の死角でオレ達は走るのをやめ、ぜーぜー言う呼吸を整えていた。

 髪を整え、そつなく上品な服を着こなしていたはずの先輩も、
全力疾走のせいで少し身だしなみが乱れていた。

「まさか・・・こんな目にあうなんて・・・」

オレが息も絶え絶えで言うと、

「だからどうなっても知らないぞ、と言ったではないか」

と先輩も少し息があがりながら答えた。

 そして身だしなみをぱぱっと直し、どうやら認識阻害の魔法をかけなおしたようだった。

「いやぁ・・・先輩、ほんと大変なんですね・・・
今のを見て、しみじみそう思いました」

とオレが言うと、

「うらやましい、と言われることはあるけどな」

と先輩は自嘲気味に言った。

「うらやましい、はないですね。勘弁してほしいっす。
そういうことを言うやつは、
先輩のことちっともわかってない、上っ面しか見てないやつっすよ」

「そうだろう、そうだろう、
クラウスだけでもこの大変さがわかってくれてうれしいよ」

と先輩は冗談っぽく言った。

「でも先輩、
そんなに大変なら学院とかでも認識阻害の魔法を使っていればいいんじゃないですか?
そうすれば囲まれることも、ウソをつく必要もなくなるんじゃ・・・」

とオレが言うと、
先輩は

「それができたらいいんだけどね、
認識阻害の魔法はとても疲れるんだよ。
魔力の消費量が多くてね。
だから今日みたいな特別な日だけ、使うようにしている」

と、やれやれという様子で答えた。

「へぇ~。
なんでもそつなくこなすように見える先輩も、
疲れるから普段は使わない魔法なんてあるんですね」

「そりゃあ、あるよ。
俺をなんだと思ってるんだ」

「ふふ、
また一つ、ほんとの先輩の一面を知られて、楽しいです」

そう、楽しい。
すごく楽しい。
先輩と一緒にいるのは、すごく楽しい。


そして
そろそろ帰ろうか、という雰囲気になった。

「クラウス、今日はとても楽しかったよ。
たまに、またこうやって外出できたらうれしいな」

と先輩が言った。
それを聞いて、オレもまたうれしくなった。

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