魅了魔法は、結局真実の愛に解けてしまった

下菊みこと

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前編

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セレスト皇国筆頭公爵家の末っ子長女、マリーナ・ベネディクト。家族からの愛情も、豊富なお小遣いも、豪華なドレスや装飾品だってなんでも持っている彼女。見た目も華やかで、誰にでも優しい彼女は貴族からも領民からも愛される人気者だ。

そんな彼女の婚約者は、セレスト皇国の皇太子ルシフェル・セレスト。マリーナを誰よりも愛する彼は、文武両道で見た目も美しい。為政者としても有能な彼の唯一の欠点は、マリーナへの執着が強すぎるところだろう。

「マリー、愛しているよ」

「る、ルシフェル様…こんな、恥ずかしいです」

「頬へのキスだけでこんなに照れて…可愛い」

人から見てもラブラブな二人。人気者な二人は当然、全ての人から祝福されていた。

しかし中央教会の聖王が迎えた孤児院出身の聖女リリーとルシフェルが出会ってから、全ては変わった。ルシフェルはあれだけ愛していたマリーナを放置して、リリーだけを可愛がるようになる。

貴族も平民も、ルシフェルの変わりように驚き憤慨した。優しいマリーナはたくさんの人々に手を差し伸べてきたため、誰もがマリーナの味方になった。

「マリーナ様、どうか気を落とさないでくださいね」

「皆様、ありがとうございます。でも、私は大丈夫です。ルシフェル様を信じておりますもの」

「マリーナ様…」

マリーナを愛する家族は当然怒り狂い、婚約破棄だと騒ぐがマリーナは必死に止める。ルシフェルを愛しているからだ。

「ルシフェル様は、きっと元に戻ります。ですからどうか、婚約破棄だなんて言わないで。お願いです、お父様」

「マリー…お前がそういうのなら…でも、本当にいいのかい?」

「お父様、ありがとうございます。私は大丈夫です。大好きです、お父様」

「マリー…」

そうして不安定な状況でどうにか綱渡りしていたマリーナ。しかし、ルシフェルのための誕生日パーティーで思わぬ事態が起こる。

ルシフェルが後ろにリリーを庇いながら、マリーナに突然婚約破棄を突きつけたのだ。

「マリーナ・ベネディクト!貴様が聖女であるリリーに嫌がらせをしたという話を聞いたぞ!そんな女は皇后に相応しいとは思えない!婚約はここで破棄させてもらう!」

その場にいた全員が、怒りを覚える。優しく可憐なマリーナがあんな聖女に嫌がらせなどするはずがない!

「ルシフェル様…」

その時、マリーナはとうとう堪えきれず涙を流した。皇太子妃教育を受けてからというもの、泣いたことなどないマリーナ。けれどどうしても我慢ができなかった。それだけマリーナはルシフェルを愛していた。そんなマリーナに、ルシフェルが近寄る。

「…マリー?なぜ泣いているの?」

何故かルシフェルは、自らが婚約破棄を突きつけたマリーナの涙を優しく拭う。そしてその瞼にキスをした。

誰もがその光景に、怒りも忘れて呆然とする。

「マリー、どうか泣かないで。私がマリーを守るから…ほら、マリーには笑顔が似合うよ。どうか私に可愛らしい笑顔をおくれ」

すっかりいつもの調子でマリーナを可愛がるルシフェル。困惑するマリーナを置き去りに、ルシフェルはマリーナの頬にまたキスをした。

「涙が止まるおまじないだよ。昔はよくしてたよね」

優しく笑うルシフェルに、マリーナは泣きじゃくり抱きついた。そんなマリーナを力強く抱きとめるルシフェル。会場にいた者たちは皆、訳がわからないものの安堵の息を漏らす。

そこに、聖女リリーから爆弾発言が落ちた。

「私の魅了魔法が解けるなんて嘘!有り得ない!聖女の魅了魔法は特別だって聖王猊下は言ってたもん!」

その言葉に会場はしん…と静まり返る。そして、成り行きをただ見守っていただけの皇帝はそこで動き出した。ルシフェルの誕生日パーティーに参加していた聖王、そして当然聖女リリーも衛兵により捕まった。

尋問の結果、聖王は私利私欲のため聖女リリーの魅了魔法を悪用しようとしたとの自白を得た。聖女リリーもまた、魅了魔法でルシフェルに愛されたかったと自供。二人は内乱罪で処刑され、教会の威信はガタ落ち。その分国内での皇室の力がますます強くなり、これにて一件落着となった。

ちなみにルシフェルは、今回の騒動に関しては魅了魔法の被害者とされた。罰もしばらくの謹慎措置で済んだ。皇太子の地位もそのままだ。

謹慎を言い渡されたルシフェルだが、マリーナとの面会だけは許されている。謹慎期間中毎日マリーナと過ごすルシフェルは、当然のようにマリーナを溺愛していた。

「マリー、傷つけてごめんね。魅了魔法なんかにかかるなんて、私はなんて弱いんだ…」

「いえ、ルシフェル様のせいではありません!愛しております、ルシフェル様…」

「マリー、私も愛してるよ」

マリーナに謝罪と愛を何度も伝えるルシフェル。そんなルシフェルにマリーナは愛を感じて、心の傷を少しずつ癒していた。

「父上が今、魅了魔法を弾く結界を張るお守りを開発中だよ。だから、今後はもうこんなことはないからね。本当にごめんね、マリー。もちろん出来上がったら私も身につけるけど、マリーにも身につけて欲しいな」

「はい、もちろんです」

「よかった。マリーが誰かに魅了魔法をかけられでもしたら、私はきっとその相手を許せないからね」

「ルシフェル様…」

「愛してるよ。今度こそ、不滅の愛をここに誓おう」

マリーナは何も聞かされていないが、ルシフェルは元聖女のリリーと元聖王だった彼に徹底的に報復している。極刑に処される寸前まで、心が壊れるほどの拷問を施していたのだ。多分、マリーナがもし誰かに魅了魔法などかけられた日にはこんなものでは済まないだろう。

そんなこんなで二人の関係も元の鞘に納められた。そして、皇室と公爵家で色々話し合った結果ルシフェルとマリーナの結婚は大幅に前倒しされることになる。魅了魔法を弾くお守りが出来てすぐ、マリーナはたくさんの祝福を受けてルシフェルに嫁いだ。
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