田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと

文字の大きさ
31 / 67

黒の少年は、私のために祈ってくれる

しおりを挟む
ある日、商談を一つ成立させて帰る際に襲撃を受けた。魔法で返り討ちにして治安部隊に引き渡す。平気なふりをしていたが、馬車に戻り家路につくまでの間大分くらくらした。なんとか自分で治癒魔法の応急処置をするが、痛みで集中できない。まずいかもしれない。ひとまずポールの肩を借り、馬車を降りて屋敷内に戻る。

「クロヴィス様!?どうしたんですか!?何があったんですか!?」

「アリス、大丈夫だ。心配ない…」

「心配するに決まってるでしょう!リュック、治癒魔法かけて!!!」

「わかった!ご当主様、いいか?」

「…頼む。痛みで治癒魔法に集中出来なくて、自分では難しくてな。すまない」

リュックが治癒魔法をかけてくれる。その横でアリスが、私の手を握って励ましてくれた。

「魔法の使えない僕にはわからないけれど、僕の護衛になるくらいにはリュックの治癒魔法は優秀だとポールから聞いてます。きっとすぐ良くなるから、頑張ってください!」

そう言いながら、私の手を握るアリスの手は震えている。血を見て怖いのだろうに、健気に励ましてくれるアリスに癒される。

「アリス。不安にさせてすまない。でも、本当に大丈夫だ。リュックの治癒魔法で大分楽になってきた」

「…本当?」

「本当だ」

「よ、よかったぁ…リュック、どう?まだ魔力持ちそう?」

「俺は結構魔力ある方だから大丈夫。ただ、血のせいで傷口見えづらい。ポールさん、ご当主様の傷口を清潔なタオルで拭って欲しい」

リュックの指示でポールが清潔なタオルを持ってきた。

「ご当主様。失礼します」

「ああ、頼む…」

「…うん、とりあえずお腹は傷口塞がってきたね。太ももも血は止まったし。俺一人でも内側までしっかり治せると思うけど、一応終わったら治癒術師に見てもらってね」

「わかった。…アリスがリュックを雇って欲しいと言ってくれて、助かったな。リュックもアリスもありがとう」

「そんな、僕何も出来なくて…」

ポールも治癒魔法を使えるが、リュックは下手をするとポールと同等かそれ以上に治癒魔法を使えるようだ。助かる。だが、アリスは暗い顔をする。感情の色も暗い。何故アリスがそんな顔をするのかわからない。十分役に立ってくれているのに。

「アリス」

「…なんですか?」

「誰かがこうして手を握って側で励ましてくれるだけで、心強い。それが君で良かった。アリスのおかげで、私は頑張れる」

「…ふぇえええええ、クロヴィス様ぁあああああ!!!」

子供のように泣くアリス。その間に治癒は済んだ。

「はい、これで内側まで含めて治癒魔法は終了。ただ…やっぱり血が多く出ただろうから貧血も心配だし、血を増やすお薬をもらうためにも本当にちゃんと診てもらってね?」

「わかった。ほら、アリス。怪我は完全に治ったぞ」

「ふぇえええええ!!!よ、よがっだー!!!」

「心配かけてごめんな、アリス。君がそんなに泣き虫だとは思っていなかった」

「クロヴィス様ー!!!ご無事でなによりですー!!!」

すっかり元気になった私は、泣き止むまでアリスの頭を撫でた。ルー先生もその後に来てくれた。感染症もなさそう、治癒も完璧、ただ貧血気味だからと血を増やすお薬だけもらった。今回の襲撃はちょっと冷やっとしたので、最終的に無事に済んで良かった。

「でもクロヴィス様、なんであんな大怪我をしてたんですか?もう、怪我はしないで欲しいです」

「すまない、アリス…私は公爵であり、女王陛下の甥にあたる。そのことで、人から狙われやすい立場にあるらしい。私を排除したい人間は多いんだ」

「そ、そうなんですか…クロヴィス様は、いつも頑張ってるんですね…偉いです…」

何故アリスがそんなショックを受けるんだ。自分のことのように傷ついた顔をするアリスが理解できない。

「それならせめて、僕は毎日クロヴィス様の無事を祈りますね。呪われた黒の僕の願いが叶うかはわからないけど、祈ります」

なんで、呪われた黒を宿し誰よりも人の悪意に触れてきただろうアリスがこんなにも人に優しくできるんだ。

「…アリス。なんで君はそんなに人に優しくできるんだ?自分を冷遇した両親を怨むでもなく、縁談を押し付けた姉を非難するでもなく、シエルを可愛がりリュックを雇い入れ、私のために毎日祈るなんて。理解できない」

「え?うーん。別に僕は優しくないですけど…そう思うなら、それだけ僕がクロヴィス様を大好きってことでしょうか?」

バカじゃないのか。なんでそんなお人好しなんだ。息が苦しくなって、まるで海中に溺れる感覚。この感情は、なんだろう。

「…君は、変わってる」

何故か泣きたくなるような気持ちになった私に、いつもとは逆にアリスが頭を撫でた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...