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皇帝陛下の愛娘はプレッシャーを感じている少女のこんがらがった糸を解く
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「皇帝陛下」
「却下」
「まだ何も申し上げておりません」
リリアージュの祖父が困り顔を見せる。今日は、リリアージュとの定期的なお茶会の日。孫は元気に育っていて、友達が二人も出来たと喜んでいた。孫が可愛いお祖父ちゃん。さりとて貴族でもある彼は、孫が心配で仕方なかった。
「皇帝陛下、孫は…リリアージュ様は、友達が二人も出来たと喜んでいました」
「ああ」
「せめてあと三人は友達を作ってやってくだされ。さすがに側にいるのが二人だけ、それも男の子だけというのは…マズイでしょう」
「そういうものか?」
「そういうものです。同じ歳の公爵家のご令嬢を紹介させていただきたい」
「…それは、リリアージュのためだけか?」
「いいえ?うちにもある程度利益はあります。紹介してやったと恩を売れますから。ただ、悪質な家ではありませんよ」
ナタナエルはため息を吐く。この爺さんのこういうところだよと思いながら、許可を出した。
「…正直な事だ。いいだろう。紹介してみろ」
「ありがたき幸せ」
後日、リリアージュはお茶会を開いた。公爵家のご令嬢と二人だけのお茶会。リリアージュは緊張など知らずに新しいお友達が楽しみだとわくわくしていた。一方で公爵家のご令嬢…エミリア・オクタヴィアンは緊張でガチガチに固まっていた。
エミリアは、公爵家のご令嬢であったが、五女だった。上の兄はとても優秀で美形、美しい女性と結婚し、公爵家をいずれ継ぐ。下の兄はその美貌で女性には困らず、実力で騎士爵を得た。姉四人はいずれも美人で才女。良い家に嫁ぎ愛されている。そんな中で、末の娘エミリアは平凡だった。特に優れた特技もない。教養も年相応。見た目も可愛いと言ってくれるのは家族だけで、他人からはあのオクタヴィアン家の子とは思えないと陰口を叩かれる。
それでも、エミリアの家族はエミリアを愛していた。他人から見たら平凡でも、私達から見れば天使のような良い子だと。だが、それすらエミリアにはプレッシャーだった。良い子でいなければ、捨てられると思い込んだ。だから、リリアージュ第一皇女殿下のお話相手に選ばれたと聞いて、胃が痛かった。何か失礼をしたらと、怖かった。
「リリアージュ・プロスペールです!よろしくお願いします!」
「…え、エミリア・オクタヴィアンです…よ、よろしくお願いします」
エミリアの声が震えていた。だが、リリアージュはお構い無しに微かに震えるエミリアの手を掴んでぶんぶんと振った。
「エミリアちゃん、すっごく可愛いね!天使様みたい!」
「…え」
それは貴方の方だろう、とエミリアは思う。声には出なかった。
「あれ?もしかしてエミリアちゃん、鏡見てない?」
「…えっと」
見ていない。どれだけ着飾っても、所詮は自分は輝けないと知っているから。
「もったいないよ!エミリアちゃん、鏡見て!」
リリアージュは近くに控える侍女達に命じて大きな鏡を持って来させる。エミリアは嫌々ながら鏡を見て…絶句した。
そこには、本当に天使がいた。これが自分とは信じられない。だが、確かに自分だった。
「え…」
お母様が、今日は特に大切な日だからと念入りにドレスを選んでくれた。嫁いで行った、歳の離れたお姉様方がわざわざ集まって、お化粧をして髪型を整え、ネイルもしてくれた。お父様とお兄様方が、可愛い可愛いと褒めてネックレスやイヤリング、指輪をプレゼントしてくれた。
その全部が、ここに詰まっていた。どれだけ自分が愛されているか、初めてわかった気がした。そして、無価値だと勝手に思い込んでいた自分が、努力していなかった結果なのだと…努力すれば可愛いは作れると知った。きっと、教養も特技も、努力すれば伸びるのだろうと思えた。
嬉しくて、情けなくて、涙がぼろぼろこぼれた。お兄様が魔法でコーティングしてくれたから、泣いても化粧は落ちないのでもう遠慮なく泣いた。リリアージュは焦ったが、とりあえずエミリアを抱きしめて背中をトントンした。その優しさに、エミリアはまた泣けた。
エミリアは、涙が落ち着くとリリアージュに言った。
「リリアージュ様のおかげで、大切なことに気付けました。努力もせずにいじけていては、何も変わらないですよね。私、これから頑張ります」
そこには、いつもの背を丸めて俯く自信のない少女はいなかった。すらすらと言葉が出てくる、背をしゃんと伸ばした美しい少女にリリアージュは嬉しそうに笑った。
「よくわからないけど、エミリアちゃんなら絶対に大丈夫だよ!」
エミリアは、また泣きたい気分になる。リリアージュは自分にこんなにも勇気をくれる。きっと、エミリアにとっては人生で唯一無二の親友となるだろう。リリアージュは、そんなことなど知らず無邪気に笑う。こっそりとその様子を魔水晶で見ていたナタナエルは、用意された話し相手が悪い相手でないことにほっと息を吐いて執務に戻った。
「却下」
「まだ何も申し上げておりません」
リリアージュの祖父が困り顔を見せる。今日は、リリアージュとの定期的なお茶会の日。孫は元気に育っていて、友達が二人も出来たと喜んでいた。孫が可愛いお祖父ちゃん。さりとて貴族でもある彼は、孫が心配で仕方なかった。
「皇帝陛下、孫は…リリアージュ様は、友達が二人も出来たと喜んでいました」
「ああ」
「せめてあと三人は友達を作ってやってくだされ。さすがに側にいるのが二人だけ、それも男の子だけというのは…マズイでしょう」
「そういうものか?」
「そういうものです。同じ歳の公爵家のご令嬢を紹介させていただきたい」
「…それは、リリアージュのためだけか?」
「いいえ?うちにもある程度利益はあります。紹介してやったと恩を売れますから。ただ、悪質な家ではありませんよ」
ナタナエルはため息を吐く。この爺さんのこういうところだよと思いながら、許可を出した。
「…正直な事だ。いいだろう。紹介してみろ」
「ありがたき幸せ」
後日、リリアージュはお茶会を開いた。公爵家のご令嬢と二人だけのお茶会。リリアージュは緊張など知らずに新しいお友達が楽しみだとわくわくしていた。一方で公爵家のご令嬢…エミリア・オクタヴィアンは緊張でガチガチに固まっていた。
エミリアは、公爵家のご令嬢であったが、五女だった。上の兄はとても優秀で美形、美しい女性と結婚し、公爵家をいずれ継ぐ。下の兄はその美貌で女性には困らず、実力で騎士爵を得た。姉四人はいずれも美人で才女。良い家に嫁ぎ愛されている。そんな中で、末の娘エミリアは平凡だった。特に優れた特技もない。教養も年相応。見た目も可愛いと言ってくれるのは家族だけで、他人からはあのオクタヴィアン家の子とは思えないと陰口を叩かれる。
それでも、エミリアの家族はエミリアを愛していた。他人から見たら平凡でも、私達から見れば天使のような良い子だと。だが、それすらエミリアにはプレッシャーだった。良い子でいなければ、捨てられると思い込んだ。だから、リリアージュ第一皇女殿下のお話相手に選ばれたと聞いて、胃が痛かった。何か失礼をしたらと、怖かった。
「リリアージュ・プロスペールです!よろしくお願いします!」
「…え、エミリア・オクタヴィアンです…よ、よろしくお願いします」
エミリアの声が震えていた。だが、リリアージュはお構い無しに微かに震えるエミリアの手を掴んでぶんぶんと振った。
「エミリアちゃん、すっごく可愛いね!天使様みたい!」
「…え」
それは貴方の方だろう、とエミリアは思う。声には出なかった。
「あれ?もしかしてエミリアちゃん、鏡見てない?」
「…えっと」
見ていない。どれだけ着飾っても、所詮は自分は輝けないと知っているから。
「もったいないよ!エミリアちゃん、鏡見て!」
リリアージュは近くに控える侍女達に命じて大きな鏡を持って来させる。エミリアは嫌々ながら鏡を見て…絶句した。
そこには、本当に天使がいた。これが自分とは信じられない。だが、確かに自分だった。
「え…」
お母様が、今日は特に大切な日だからと念入りにドレスを選んでくれた。嫁いで行った、歳の離れたお姉様方がわざわざ集まって、お化粧をして髪型を整え、ネイルもしてくれた。お父様とお兄様方が、可愛い可愛いと褒めてネックレスやイヤリング、指輪をプレゼントしてくれた。
その全部が、ここに詰まっていた。どれだけ自分が愛されているか、初めてわかった気がした。そして、無価値だと勝手に思い込んでいた自分が、努力していなかった結果なのだと…努力すれば可愛いは作れると知った。きっと、教養も特技も、努力すれば伸びるのだろうと思えた。
嬉しくて、情けなくて、涙がぼろぼろこぼれた。お兄様が魔法でコーティングしてくれたから、泣いても化粧は落ちないのでもう遠慮なく泣いた。リリアージュは焦ったが、とりあえずエミリアを抱きしめて背中をトントンした。その優しさに、エミリアはまた泣けた。
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そこには、いつもの背を丸めて俯く自信のない少女はいなかった。すらすらと言葉が出てくる、背をしゃんと伸ばした美しい少女にリリアージュは嬉しそうに笑った。
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エミリアは、また泣きたい気分になる。リリアージュは自分にこんなにも勇気をくれる。きっと、エミリアにとっては人生で唯一無二の親友となるだろう。リリアージュは、そんなことなど知らず無邪気に笑う。こっそりとその様子を魔水晶で見ていたナタナエルは、用意された話し相手が悪い相手でないことにほっと息を吐いて執務に戻った。
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