皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと

文字の大きさ
8 / 62

皇帝陛下の愛娘はプレッシャーを感じている少女のこんがらがった糸を解く

しおりを挟む
「皇帝陛下」

「却下」

「まだ何も申し上げておりません」

リリアージュの祖父が困り顔を見せる。今日は、リリアージュとの定期的なお茶会の日。孫は元気に育っていて、友達が二人も出来たと喜んでいた。孫が可愛いお祖父ちゃん。さりとて貴族でもある彼は、孫が心配で仕方なかった。

「皇帝陛下、孫は…リリアージュ様は、友達が二人も出来たと喜んでいました」

「ああ」

「せめてあと三人は友達を作ってやってくだされ。さすがに側にいるのが二人だけ、それも男の子だけというのは…マズイでしょう」

「そういうものか?」

「そういうものです。同じ歳の公爵家のご令嬢を紹介させていただきたい」

「…それは、リリアージュのためだけか?」

「いいえ?うちにもある程度利益はあります。紹介してやったと恩を売れますから。ただ、悪質な家ではありませんよ」

ナタナエルはため息を吐く。この爺さんのこういうところだよと思いながら、許可を出した。

「…正直な事だ。いいだろう。紹介してみろ」

「ありがたき幸せ」

後日、リリアージュはお茶会を開いた。公爵家のご令嬢と二人だけのお茶会。リリアージュは緊張など知らずに新しいお友達が楽しみだとわくわくしていた。一方で公爵家のご令嬢…エミリア・オクタヴィアンは緊張でガチガチに固まっていた。

エミリアは、公爵家のご令嬢であったが、五女だった。上の兄はとても優秀で美形、美しい女性と結婚し、公爵家をいずれ継ぐ。下の兄はその美貌で女性には困らず、実力で騎士爵を得た。姉四人はいずれも美人で才女。良い家に嫁ぎ愛されている。そんな中で、末の娘エミリアは平凡だった。特に優れた特技もない。教養も年相応。見た目も可愛いと言ってくれるのは家族だけで、他人からはあのオクタヴィアン家の子とは思えないと陰口を叩かれる。

それでも、エミリアの家族はエミリアを愛していた。他人から見たら平凡でも、私達から見れば天使のような良い子だと。だが、それすらエミリアにはプレッシャーだった。良い子でいなければ、捨てられると思い込んだ。だから、リリアージュ第一皇女殿下のお話相手に選ばれたと聞いて、胃が痛かった。何か失礼をしたらと、怖かった。

「リリアージュ・プロスペールです!よろしくお願いします!」

「…え、エミリア・オクタヴィアンです…よ、よろしくお願いします」

エミリアの声が震えていた。だが、リリアージュはお構い無しに微かに震えるエミリアの手を掴んでぶんぶんと振った。

「エミリアちゃん、すっごく可愛いね!天使様みたい!」

「…え」

それは貴方の方だろう、とエミリアは思う。声には出なかった。

「あれ?もしかしてエミリアちゃん、鏡見てない?」

「…えっと」

見ていない。どれだけ着飾っても、所詮は自分は輝けないと知っているから。

「もったいないよ!エミリアちゃん、鏡見て!」

リリアージュは近くに控える侍女達に命じて大きな鏡を持って来させる。エミリアは嫌々ながら鏡を見て…絶句した。

そこには、本当に天使がいた。これが自分とは信じられない。だが、確かに自分だった。

「え…」

お母様が、今日は特に大切な日だからと念入りにドレスを選んでくれた。嫁いで行った、歳の離れたお姉様方がわざわざ集まって、お化粧をして髪型を整え、ネイルもしてくれた。お父様とお兄様方が、可愛い可愛いと褒めてネックレスやイヤリング、指輪をプレゼントしてくれた。

その全部が、ここに詰まっていた。どれだけ自分が愛されているか、初めてわかった気がした。そして、無価値だと勝手に思い込んでいた自分が、努力していなかった結果なのだと…努力すれば可愛いは作れると知った。きっと、教養も特技も、努力すれば伸びるのだろうと思えた。

嬉しくて、情けなくて、涙がぼろぼろこぼれた。お兄様が魔法でコーティングしてくれたから、泣いても化粧は落ちないのでもう遠慮なく泣いた。リリアージュは焦ったが、とりあえずエミリアを抱きしめて背中をトントンした。その優しさに、エミリアはまた泣けた。

エミリアは、涙が落ち着くとリリアージュに言った。

「リリアージュ様のおかげで、大切なことに気付けました。努力もせずにいじけていては、何も変わらないですよね。私、これから頑張ります」

そこには、いつもの背を丸めて俯く自信のない少女はいなかった。すらすらと言葉が出てくる、背をしゃんと伸ばした美しい少女にリリアージュは嬉しそうに笑った。

「よくわからないけど、エミリアちゃんなら絶対に大丈夫だよ!」

エミリアは、また泣きたい気分になる。リリアージュは自分にこんなにも勇気をくれる。きっと、エミリアにとっては人生で唯一無二の親友となるだろう。リリアージュは、そんなことなど知らず無邪気に笑う。こっそりとその様子を魔水晶で見ていたナタナエルは、用意された話し相手が悪い相手でないことにほっと息を吐いて執務に戻った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

騎士団の繕い係

あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。

殿下、今日こそ帰ります!

黒猫子猫
恋愛
彼女はある日、別人になって異世界で生きている事に気づいた。しかも、エミリアなどという名前で、養女ながらも男爵家令嬢などという御身分だ。迷惑極まりない。自分には仕事がある。早く帰らなければならないと焦る中、よりにもよって第一王子に見初められてしまった。彼にはすでに正妃になる女性が定まっていたが、妾をご所望だという。別に自分でなくても良いだろうと思ったが、言動を面白がられて、どんどん気に入られてしまう。「殿下、今日こそ帰ります!」と意気込む転生令嬢と、「そうか。分かったから……可愛がらせろ?」と、彼女への溺愛が止まらない王子の恋のお話。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

処理中です...