身勝手だったのは、誰なのでしょうか。

下菊みこと

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あの子の綺麗な心が、貴方の心の傷を癒したというのなら。

私の心の傷は、誰が癒してくださるのでしょうか。

「ルーチェ。アカリとはあくまでも聖騎士と聖女の関係だ。そこに邪な念はないと何度も言っているだろう!」

「そうですね。聖騎士として嘘がつけない貴方様がそうおっしゃるならそうなのでしょう」

「なら!」

貴方は今更、追い縋る。今更、やめてほしいと心から思う。

「心の傷を癒されたのですよね」

「…それは、そうだ。聖女であるアカリは俺の心の傷を言い当てた。そしてよく頑張りましたと、認めてくれた。俺はそれに救われた」

「だから、王国騎士から聖騎士にジョブチェンジまでして、恩返しをしている」

「…そうだ」

「邪な念はない。けれど、特別」

貴方の肩が跳ねる。

「浮気とは言いません。まっすぐで、純粋で、どこまでもひたむきな美しい想いだと称賛しましょう」

「…ルーチェ、俺はただ」

「けれどだからこそ。そこに、今更私が入り込む余地がありますか?」

「ルーチェとアカリを比較する気など俺にはない!」

貴方の言葉はいつもまっすぐで。聖騎士になる前から、嘘なんてついたことはない。だからこそ。

「では、私を愛していると言ってみせてください」

「…あ、ぁ」

続けようとしても、言葉が出てこないだろう。聖騎士は嘘はつけないのだ。

「では、アカリ様を愛していると言ってみせてください」

「…言えない」

それはそうだ!だって彼は聖騎士だから。聖女様に恋慕など許されない。絶対に。

「…では、私をいい加減解放してください。愛していないと、今貴方が証明したのですから」

「…それでも俺はお前がいい!」

「それは何故?」

地位も名誉もお金も、聖騎士にまで上り詰めた彼にはこれ以上必要ないはず。我が家は地位も名誉もお金もあるけれど、だからこそ彼にしがみつく必要もない。お互い、別れ時だ。

「誓っただろう、あの時!俺はお前を守る騎士になると!」

「今は聖女様を守る聖騎士でしょう」

「お前は俺をそばで支えてくれると言った!」

「一人で勝手に突き進んで、聖騎士にまで上り詰めたのは誰?」

彼は泣きそうな目で私を見る。

「さようなら。心から愛しています」

私が一言そう言って先に席を立つと、後ろから慟哭が聞こえた。今更何を悔やむというのか。












「お母様」

「どうしたの?ルナ」

「お母様は、どうしてお父様と結婚したの?」

「…ここだけの話よ?聖女様にお母様の元婚約者がメロメロになっちゃったの。浮気ではなかったのだけどね?私我慢できなくて。失恋して、ぽっかり空いた穴をお父様が埋めてくれたの」

「あー!聖女様、男タラシで有名だものね!王子様とせっかく結婚したのに、色んな人に手を出して、聖騎士様にまで手を出そうとしたら断罪されたんでしょう!それで居なくなっちゃったけど、国には影響なくて、偽聖女だって!」

予言の聖女様は、結局貴方の手で天に還った。けれど国には影響はなく。貴方は聖騎士として正しいことをした、聖女を騙る悪女を倒したと英雄扱いされ、けれど遠くから見るたびに死んだ目をしている。

「聖女様は結局聖女だったのかしら?悪女だったのかしら?」

「お母様にはわからないわ。ただ、英雄様はどんな気持ちかしらね」

「悪女を倒してスッキリ!だと思うわ!」

そんなことを話していたら、夫が帰ってきた。

「ルーチェ!ルナ!」

「ジャン様!おかえりなさい!」

「お父様ー!おかえりなさーい!」

「今日も出迎えてくれてありがとうな!愛してるぞー二人ともー!!!」

「私もー!」

娘が夫に抱きつく。私も、愛してるの代わりに夫を抱きしめる。

今でも私は、貴方が好き。愛してる。だから夫にはその言葉を言えない。夫は、最初からそれを込みで私を愛してくれた。…愛するより、愛される方が幸せというのは本当ね。でも、今でも愛してる。

遠くから私達家族を影で見つめる貴方の使い魔に気付きながらも、自分の幸せのために私は家の中へ逃げ込むのです。貴方がまだ好きだと、愛していると悟られて仕舞えば。私は貴方にきっと、攫われてしまうから。

















身勝手だったのは、誰なのでしょうか。
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