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「他の方法もあるだろ? 例えば、俺の料理してるところを動画で撮って、それを月浦さんに見せるとか。……別にそういう方法でも良いと思うんだけど」
「ふぅん……まぁ、それなら月浦さんも時間の都合つけやすいし、いいのかもね。……月浦さんは、どう思いますか?」
「それもいいけど、で、でも! やっぱりその……藤堂くんに直接指導してもらったほうが、私は嬉しいよ……?」
まど子はそう言いながら、自分の膝に視線を落としたのだった。
その顔はほんのり桜色。初々しさ満点である。
まど子のそんな仕草は、当然はたから見ればバレバレだった。
バレバレなのだけれど、残念ながら美咲の顔に遮られていて夏弥からはよく見えなかった。
ちゃんと見えていたのは、惜しくもまど子の隣に座る美咲ただ一人だけで。
「月浦さん…………」
ただ表情こそ見えないけれど、まど子のその言葉ははっきりと夏弥に届いていた。
まど子の素直すぎる健気な言葉に、夏弥が動揺を隠しきれないのも無理はなかった。
「……。じゃあ、夏休み初日あたり、こっちの家に来ます?」
美咲のその質問にまど子は一瞬目を輝かせてから、
「う、うん。お邪魔してよければ」と、やや控えめに答えたのだった。
「大丈夫ですよ。あ、ついでにライン教えてもらえます? そっちのほうが何かと便利だと思うので」
「あ、うん……」
美咲は淡々としていた。ただそれは、ギリギリ失礼には当たらない程度の、ちょっと元気がないかな、くらいのものだった。
(この美咲の雰囲気……。ちょっと素っ気ないだけ、を装っている感じ。前に戸島とのやり取りでも見せていたけど、美咲お得意の取り繕った冷たさ。そんな感じがするのは気のせいじゃない)
夏弥は美咲のしゃべる雰囲気から、そういった彼女の裏側を読み取れるようになっていた。
この観察力は、自然と夏弥に身に付いていったものだった。
しばらく美咲と一緒に暮らした結果の賜物だろう。
美咲はよく表面的に取り繕うのだけれど、それ自体も内面と同じく冷たくドライ気味だったりする。ただあけすけに毒を吐いたり、傍若無人な発言はしない。その辺のボーダーは心得があるらしい。
「あ、じゃあ藤堂くんも……いい?」
「え? あ、ラインね。うん! 俺のも交換しよう」
美咲を挟む形にはなったけれど、夏弥とまど子は手を伸ばしてお互いのラインを交換した。
美咲は上体を後ろに引きながら、自分の弁当箱を開け、パクパクとBLTサンドイッチを食べ始める。
「あ、そっか。秋乃ちゃんのお弁当も、藤堂くんが作ってるんだね?」
夏弥とのライン交換を終えたまど子は、そのサンドイッチに目を向ける。
「うん。普段作らないんだけど今日はね。まとめて俺が作ったって感じで」
「そうなんだ。……秋乃ちゃん、いいなぁー……」
「……あの、よかったら少し食べます?」
「え? いいの?」
「いいですよ? 少しだけなら」
「わぁ……じゃ、じゃあお言葉に甘えて、一つもらうね?」
そう言って、まど子は美咲の弁当箱に手を伸ばした。
中のサンドイッチを優しく取り出して、その小さな口で食べ始める。
パンに挟まれていた食材達が、上下からの圧力でむぎゅうっと外へ押し出される。
なんてことはない、普通の食事シーンだ。
夏弥は美咲の肩越しにそれを見ていた。
クラスメイトの女の子に自分の料理を食べてもらう。
これは初めてのことだった。だからか、夏弥はちょっぴり照れくさかった。
「……ん! とってもおいしい……。野菜に掛かってるドレッシングが結構効いてるかんじする……!」
「ですよね。あたしも、食材を切ってドレッシングをかけるくらいなら……」
美咲の言葉に、夏弥は心の声で反応する。
(……美咲の場合、料理の腕とかそういう次元じゃなかったと思うが。あれはイヤな事件だった。俺の買っておいたサバと豚バラ肉が、見るも無残というか、とんでもない目にあった。うん)
三人はそれからも軽い談笑や食事を続け、昼休みを終えたのだった。
まど子が鈴川家へやってくるのは、二日後に控えた夏休み初日ということで落ち着いた。
午後の授業のあいまの休み時間中、夏弥はまど子から放課後についての話を持ち掛けられた。
「藤堂くん。今日はちょっと放課後予定あるから、勉強はまたね?」
「ああ。……ていうかもうすぐ夏休みだし、図書室で勉強するのはしばらく無理だよねきっと」
「うん。……そうだね」
「……」
まど子の少し寂しそうな表情に、夏弥はかける言葉が見つからなかった。
そんなタイミングで、夏弥のスマホにラインが送られてくる。
それは美咲からのもので、内容は今日の下校に関してだった。
『今日学校が終わったら夏弥さん食材の買い物するでしょ? 月浦さんに教えるための食材』
『そうだな。それと、今日の夕飯分も買わないとダメかな』
『わかった。放課後、生徒玄関のところで待ってて』
(えっと? これは一緒に帰るっていうことだよな……?)
『はいわかった』
そこまでのやり取りを終えてから、夏弥は妙な違和感を覚える。
それは前に約束していた美咲へのストーカー行為の件だった。
(結局、俺はあれを手伝えてないけど、その後どうなんだろうな……。美咲が画策していた「俺がキモい感じで付きまとう作戦」について、特に美咲から何かそれ以上のことは言ってこないし、もう本当に「よくあること」程度で片付けて問題ないのかな)
一応美咲本人からは「無理ならいい」と言われていたけれど、一度話を聞いてしまっている以上、こうして夏弥のなかでは静かにくすぶり続けていたのだった。
◇ ◇ ◇
午後の授業を終えて放課後を迎える。
今日は一日中晴れていたので、空は綺麗な夕暮れ色に染まっていた。
遠く遠くにカラスの群れなんかが飛んでいる。
部活のない生徒達が次々と生徒玄関を出ていくなか、夏弥は一人、玄関の外で美咲を待っていた。
どこに目を向けておくでもなかったので、そこからなんとなくグラウンドのほうを眺める。
ライトグリーンの防球ネット越し。
サッカー部がだんごになってランニングしている。足元に土煙。野球部がだらだらとキャッチボールをし、テニス部がストレッチをしていた。
かけ声があちこちから飛び交って、ハツラツとした空気にさわやかな色をさして消えていく。
夏弥は部活組のそんなひと時を眺めながら、夢中になれるものがある彼らのことをちょっと羨ましく思ったりしていた。それでも、運動は疲れるからよしておこうという気持ちにもなる。
(移り気だな自分も……)と夏弥がため息をついていると、突然後ろから肩をぽんっとたたかれる。
振り返ると、そこにいたのは意外にも洋平だった。
スクールバッグを肩に担ぎ、整った顔立ちに不思議そうな表情。
「夏弥? どうした? ……やっぱり月浦さんじゃなくて、運動部の女子が気になり始めたのか? 浮気は関心せんけども。あははっ!」
夏の西日を受ける洋平の笑顔は、まぶしさと哀愁が半分ずつ同居している気がした。
「まさかまさか。そんなこと思うわけない。……ただ、なんとなく、運動部はそれだけで青春してるなーって思っただけ。普段教室で見てるクラスメイト達も、あんな風にスポーツに打ち込んでるところを見ると、ちょっとさ?」
「あ~……。まぁわかんなくもないけど。運動部じゃない文化部も、何も属してない帰宅部も、それはそれでキラキラした時間があると思うけどな~」
夏弥の横に立ち、洋平もグラウンドのほうを眺める。
そこで、夏弥は洋平の中学時代をちらっと思い出し、話題を切り替えた。部活組を見ていたせいかもしれない。
「そういえば、洋平はサッカーに未練とかないのか?」
「サッカーね。うん。無いっていうと嘘だけど、人生は有限だしな」
「有限」
洋平は中学時代、サッカー部だった。
キャプテンではなくエース的なポジションで、何かにつけては女子からキャアキャア声援を浴びていた。
妬みごとや恨み節をこぼす同じ男子部員もいたけれど、それ以上に仲の良い男子部員達がいたことを夏弥は知っている。
洋平は、高校では帰宅部を選んでいた。夏弥と同じである。
ただ違う点がいくつかあって、洋平は女子と遊んだり、アルバイトでお金を稼ぐことに時間を費やしていた。
夏弥よりも数歩前に出た洋平は、そのまま防球ネットに手をかける。
向こうに見えるサッカー部を目で追っているようだった。
何か思うことがあるのかもしれないけど、夏弥はそれを言葉にすべきじゃないような気がしていて。
本当に、それはただなんとなくの気遣いだった。
人生は有限だ。
本当にその通りだ。洋平の言葉は、今を生きてる人なら誰にでも当てはまるもので、高校生は特に噛みしめるべきなのかもしれない。
子供でも大人でもない曖昧な自分達のこの背中は、いつまでも同じじゃない。
洋平の後ろ姿から、無言でそんなことを語りかけられているような、そんな気が夏弥にはしていた。
「洋平くーん! ごめーんねっ! 待っちゃった⁉」
夏弥が洋平の後ろ姿を少し見ていると、さらにその夏弥の後ろから女子生徒が声をかけてきた。
「あ、ううん。大丈夫。じゃあな、夏弥~」
「やっぱり女の子待ちだったのか。じゃあなー」
予想通りというか、それ以外無いだろうなと夏弥はひそかに思っていた。
夏弥にとっては名前もわからない女子。
だけれど洋平はその女子と一緒に学校を離れていく。
女の子と二人で並んで帰る洋平の後ろ姿は、ちっとも胡散臭くなかった。
彼自身が夏弥に言っていた通り「心掛けている」様子だった。
とても演じているだとか、装っているという様子じゃなくて。
もう洋平には、洋平の役が染み付いているレベルなんだろうと夏弥は思った。
(それなら俺の役ってなんなんだろう。……客観的に見た時の。美咲から見た俺や、月浦さんから見た俺って、どんな役……?)
夏弥が深くあれこれ考えていると、生徒玄関にようやく美咲が現れたのだった。
「ふぅん……まぁ、それなら月浦さんも時間の都合つけやすいし、いいのかもね。……月浦さんは、どう思いますか?」
「それもいいけど、で、でも! やっぱりその……藤堂くんに直接指導してもらったほうが、私は嬉しいよ……?」
まど子はそう言いながら、自分の膝に視線を落としたのだった。
その顔はほんのり桜色。初々しさ満点である。
まど子のそんな仕草は、当然はたから見ればバレバレだった。
バレバレなのだけれど、残念ながら美咲の顔に遮られていて夏弥からはよく見えなかった。
ちゃんと見えていたのは、惜しくもまど子の隣に座る美咲ただ一人だけで。
「月浦さん…………」
ただ表情こそ見えないけれど、まど子のその言葉ははっきりと夏弥に届いていた。
まど子の素直すぎる健気な言葉に、夏弥が動揺を隠しきれないのも無理はなかった。
「……。じゃあ、夏休み初日あたり、こっちの家に来ます?」
美咲のその質問にまど子は一瞬目を輝かせてから、
「う、うん。お邪魔してよければ」と、やや控えめに答えたのだった。
「大丈夫ですよ。あ、ついでにライン教えてもらえます? そっちのほうが何かと便利だと思うので」
「あ、うん……」
美咲は淡々としていた。ただそれは、ギリギリ失礼には当たらない程度の、ちょっと元気がないかな、くらいのものだった。
(この美咲の雰囲気……。ちょっと素っ気ないだけ、を装っている感じ。前に戸島とのやり取りでも見せていたけど、美咲お得意の取り繕った冷たさ。そんな感じがするのは気のせいじゃない)
夏弥は美咲のしゃべる雰囲気から、そういった彼女の裏側を読み取れるようになっていた。
この観察力は、自然と夏弥に身に付いていったものだった。
しばらく美咲と一緒に暮らした結果の賜物だろう。
美咲はよく表面的に取り繕うのだけれど、それ自体も内面と同じく冷たくドライ気味だったりする。ただあけすけに毒を吐いたり、傍若無人な発言はしない。その辺のボーダーは心得があるらしい。
「あ、じゃあ藤堂くんも……いい?」
「え? あ、ラインね。うん! 俺のも交換しよう」
美咲を挟む形にはなったけれど、夏弥とまど子は手を伸ばしてお互いのラインを交換した。
美咲は上体を後ろに引きながら、自分の弁当箱を開け、パクパクとBLTサンドイッチを食べ始める。
「あ、そっか。秋乃ちゃんのお弁当も、藤堂くんが作ってるんだね?」
夏弥とのライン交換を終えたまど子は、そのサンドイッチに目を向ける。
「うん。普段作らないんだけど今日はね。まとめて俺が作ったって感じで」
「そうなんだ。……秋乃ちゃん、いいなぁー……」
「……あの、よかったら少し食べます?」
「え? いいの?」
「いいですよ? 少しだけなら」
「わぁ……じゃ、じゃあお言葉に甘えて、一つもらうね?」
そう言って、まど子は美咲の弁当箱に手を伸ばした。
中のサンドイッチを優しく取り出して、その小さな口で食べ始める。
パンに挟まれていた食材達が、上下からの圧力でむぎゅうっと外へ押し出される。
なんてことはない、普通の食事シーンだ。
夏弥は美咲の肩越しにそれを見ていた。
クラスメイトの女の子に自分の料理を食べてもらう。
これは初めてのことだった。だからか、夏弥はちょっぴり照れくさかった。
「……ん! とってもおいしい……。野菜に掛かってるドレッシングが結構効いてるかんじする……!」
「ですよね。あたしも、食材を切ってドレッシングをかけるくらいなら……」
美咲の言葉に、夏弥は心の声で反応する。
(……美咲の場合、料理の腕とかそういう次元じゃなかったと思うが。あれはイヤな事件だった。俺の買っておいたサバと豚バラ肉が、見るも無残というか、とんでもない目にあった。うん)
三人はそれからも軽い談笑や食事を続け、昼休みを終えたのだった。
まど子が鈴川家へやってくるのは、二日後に控えた夏休み初日ということで落ち着いた。
午後の授業のあいまの休み時間中、夏弥はまど子から放課後についての話を持ち掛けられた。
「藤堂くん。今日はちょっと放課後予定あるから、勉強はまたね?」
「ああ。……ていうかもうすぐ夏休みだし、図書室で勉強するのはしばらく無理だよねきっと」
「うん。……そうだね」
「……」
まど子の少し寂しそうな表情に、夏弥はかける言葉が見つからなかった。
そんなタイミングで、夏弥のスマホにラインが送られてくる。
それは美咲からのもので、内容は今日の下校に関してだった。
『今日学校が終わったら夏弥さん食材の買い物するでしょ? 月浦さんに教えるための食材』
『そうだな。それと、今日の夕飯分も買わないとダメかな』
『わかった。放課後、生徒玄関のところで待ってて』
(えっと? これは一緒に帰るっていうことだよな……?)
『はいわかった』
そこまでのやり取りを終えてから、夏弥は妙な違和感を覚える。
それは前に約束していた美咲へのストーカー行為の件だった。
(結局、俺はあれを手伝えてないけど、その後どうなんだろうな……。美咲が画策していた「俺がキモい感じで付きまとう作戦」について、特に美咲から何かそれ以上のことは言ってこないし、もう本当に「よくあること」程度で片付けて問題ないのかな)
一応美咲本人からは「無理ならいい」と言われていたけれど、一度話を聞いてしまっている以上、こうして夏弥のなかでは静かにくすぶり続けていたのだった。
◇ ◇ ◇
午後の授業を終えて放課後を迎える。
今日は一日中晴れていたので、空は綺麗な夕暮れ色に染まっていた。
遠く遠くにカラスの群れなんかが飛んでいる。
部活のない生徒達が次々と生徒玄関を出ていくなか、夏弥は一人、玄関の外で美咲を待っていた。
どこに目を向けておくでもなかったので、そこからなんとなくグラウンドのほうを眺める。
ライトグリーンの防球ネット越し。
サッカー部がだんごになってランニングしている。足元に土煙。野球部がだらだらとキャッチボールをし、テニス部がストレッチをしていた。
かけ声があちこちから飛び交って、ハツラツとした空気にさわやかな色をさして消えていく。
夏弥は部活組のそんなひと時を眺めながら、夢中になれるものがある彼らのことをちょっと羨ましく思ったりしていた。それでも、運動は疲れるからよしておこうという気持ちにもなる。
(移り気だな自分も……)と夏弥がため息をついていると、突然後ろから肩をぽんっとたたかれる。
振り返ると、そこにいたのは意外にも洋平だった。
スクールバッグを肩に担ぎ、整った顔立ちに不思議そうな表情。
「夏弥? どうした? ……やっぱり月浦さんじゃなくて、運動部の女子が気になり始めたのか? 浮気は関心せんけども。あははっ!」
夏の西日を受ける洋平の笑顔は、まぶしさと哀愁が半分ずつ同居している気がした。
「まさかまさか。そんなこと思うわけない。……ただ、なんとなく、運動部はそれだけで青春してるなーって思っただけ。普段教室で見てるクラスメイト達も、あんな風にスポーツに打ち込んでるところを見ると、ちょっとさ?」
「あ~……。まぁわかんなくもないけど。運動部じゃない文化部も、何も属してない帰宅部も、それはそれでキラキラした時間があると思うけどな~」
夏弥の横に立ち、洋平もグラウンドのほうを眺める。
そこで、夏弥は洋平の中学時代をちらっと思い出し、話題を切り替えた。部活組を見ていたせいかもしれない。
「そういえば、洋平はサッカーに未練とかないのか?」
「サッカーね。うん。無いっていうと嘘だけど、人生は有限だしな」
「有限」
洋平は中学時代、サッカー部だった。
キャプテンではなくエース的なポジションで、何かにつけては女子からキャアキャア声援を浴びていた。
妬みごとや恨み節をこぼす同じ男子部員もいたけれど、それ以上に仲の良い男子部員達がいたことを夏弥は知っている。
洋平は、高校では帰宅部を選んでいた。夏弥と同じである。
ただ違う点がいくつかあって、洋平は女子と遊んだり、アルバイトでお金を稼ぐことに時間を費やしていた。
夏弥よりも数歩前に出た洋平は、そのまま防球ネットに手をかける。
向こうに見えるサッカー部を目で追っているようだった。
何か思うことがあるのかもしれないけど、夏弥はそれを言葉にすべきじゃないような気がしていて。
本当に、それはただなんとなくの気遣いだった。
人生は有限だ。
本当にその通りだ。洋平の言葉は、今を生きてる人なら誰にでも当てはまるもので、高校生は特に噛みしめるべきなのかもしれない。
子供でも大人でもない曖昧な自分達のこの背中は、いつまでも同じじゃない。
洋平の後ろ姿から、無言でそんなことを語りかけられているような、そんな気が夏弥にはしていた。
「洋平くーん! ごめーんねっ! 待っちゃった⁉」
夏弥が洋平の後ろ姿を少し見ていると、さらにその夏弥の後ろから女子生徒が声をかけてきた。
「あ、ううん。大丈夫。じゃあな、夏弥~」
「やっぱり女の子待ちだったのか。じゃあなー」
予想通りというか、それ以外無いだろうなと夏弥はひそかに思っていた。
夏弥にとっては名前もわからない女子。
だけれど洋平はその女子と一緒に学校を離れていく。
女の子と二人で並んで帰る洋平の後ろ姿は、ちっとも胡散臭くなかった。
彼自身が夏弥に言っていた通り「心掛けている」様子だった。
とても演じているだとか、装っているという様子じゃなくて。
もう洋平には、洋平の役が染み付いているレベルなんだろうと夏弥は思った。
(それなら俺の役ってなんなんだろう。……客観的に見た時の。美咲から見た俺や、月浦さんから見た俺って、どんな役……?)
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